中国面面観

「中国面面観」は中国の様子をお届けするコンテンツです。弊社発行のメールマガジンで連載している内容を、お客様のご要望によりホームページでもお届けします。

中国は自転車大国に戻れるか

2017.04.17

 北京や上海で最近、自転車通勤が増えている。最大手の「Mobike」(摩拝単車)を先頭に、スマホ決済のレンタル自転車業者が急増してきたからだ。

 使用されている自転車は、シルバーやオレンジなどメタリックに塗装され、先進的なイメージ。ただ、耐久性を重視しているため、やや骨太に作られている。利用方法はいたって簡単。スマホを使って最寄りの利用可能な自転車を探し出し、スマホで開錠。料金は1回1元。スマホで決済し、使い終わったら、どこでも乗り捨てることができる(基本的に駐輪場)。

 中国の自転車事情は、まさしく栄枯盛衰の歴史だった。中国が正真正銘の発展途上国だった90年台半ばまで、大都市の道路は自転車が幅を利かせていた。自動車はまだ少なく、自転車の流れの中を一生懸命かき分けながら走っていた。

 2000年代に入り、中国でもモータリゼーション(自動車化)が進むにつれ、自転車はしだいに大都市から姿を消した。上海などでは2000年ころまでは自転車専用レーンが一部残っていたものの、最終的に廃止された。

 今回のレンタル自動車の流行は、こうした流れをひっくり返すように感じられ、とても感慨ぶかい。中国のレンタル自転車は、いま流行りのシェアリング・エコノミーとして、省エネかつ環境にも優しいということで脚光を浴びている。ただ、それ以外にも注目に値すべき点がいくつかある。

 まず強調したいのは、このレンタル自転車業界は、スマホ決済システムにより新たに生み出されたマーケットということだ。

 Eコマースは「右のものを左に置く(既存の店舗販売からネット通販置き換える)だけで、新たな市場や産業を生み出していないのではないか」との批判がある。

 実は、フィンテックと呼ばれる最新鋭の技術を惜しげもなく使ったオンライン金融業界でも、本質的にはそう変わらない。新たなネット業者が銀行などから既得権益を奪うだけの話なのだ。

 しかし、レンタル自転車はどうやら違う。新たに膨大な自転車需要が生まれる一方で、北京や上海の自動車需要には影響を与えない。そうした大都市では厳しい自動車の購入制限措置があり、買いたくても買えないのだから。

 次に注目すべきは、中国の法整備が十分でない点が新ビジネスには有利であるということだ。

 日本では新ビジネスを立ち上げるとき、監督官庁から事業免許などを受けるのに一苦労するという話がとても多い。この乗り捨て自由のスマホ決済レンタル自転車事業が、儲かるかどうかは別として、日本だったら簡単に事業免許が下りていただろうか?

 一方、中国ではもともと法が整備されていない。だから、新規事業はとりあえず立ち上げてから当局と折衝するという段取りを踏む。犯罪行為など事業主に悪意があれば大きな社会問題となるが、まっとうな事業主にとっては、チャンスが満ち溢れているといっても過言ではなかろう。

 こうしたなか中国の大都市では、中~高級自転車の需要がこれから高まりそうだ。自転車通勤は天気が良ければ、満員のバスや地下鉄に比べ、気持ち良いこと間違いない。道路渋滞がひどければ、自家用車に乗るよりも気分爽快だろう。

 ただ、レンタル自転車は耐久性を重視しているので、コスト(1台3000元=5万円程度)に比べて乗り心地はそれほどよくない。所得の高い大都市住民は高級なスポーツシューズを履きかえる感覚で、性能の良い自転車を買おうと思うのではないだろうか。

 自転車の普及で北京のスモッグが解消するとは思えない。それでも、自転車の使用はライダーの環境や省エネ意識の改革に役立つだろう。また、自動車の交通マナーもよくなるはずだ。

 90年代と違って、いまは自転車が少数派で、自動車などに接触すれば大事故になってしまう。車載カメラも普及し始めているので、事故補償の重さを考えれば、自動車の運転には慎重にならざるを得ない。

 ただ、自転車の運転マナーについて、期待するのはやめておこう。全般的にマナーが良いと言われる日本ですら、それだけは合格点には達しているように見えないのだから。

(吉永東峰株式会社ニーズキャピタルデザイン代表取締役)

【執筆者略歴】 1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。

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