中国面面観

「中国面面観」は中国の様子をお届けするコンテンツです。弊社発行のメールマガジンで連載している内容を、お客様のご要望によりホームページでもお届けします。

中国の映画産業、第2次ブームは?

2017.08.21

 中国の映画産業を取り巻く環境に、すこし変化が現れてきた。17年上半期の興行収入が前年同期に比べ10.3%増の274億元となり、2ケタ成長を回復したのだ。16年通期は3.7%増だったから、大幅な成長の加速と言えよう。

 とはいえ、11年から14年まで連続で約30%増となり、15年は約50%増に急拡大していた時期に比べると、隔世の感がある。中国全体の17年上期小売売上高が10.4%増だったことを考えると、残念だが中国の映画産業は現時点で「成長産業」と呼べない。

 中国の映画興行収入は2008年の43億元から2015年には441億元に急増し、7年間で10倍となった。日本の16年の興行収入は2356億円だから、1元=16.5円と現在の価値で換算すると、日本の映画産業は11年(134億元)から12年(171億元)にかけて中国に抜かれ、16年では約3倍まで水をあけられたことが分かる。中国の映画産業が急成長した背景には、個人所得の増加を原動力に、中小都市や農村で消費が飛躍したことがあった。

 ただ、16年に入って高成長に急ブレーキがかかった。理由の一つは「映画ファンド」の不正行為が明るみに出たことだ。

 急成長する映画産業に10年ごろから投資家が群がり、多種多様の「投資ファンド」を設定した。ところが配当率を興行収入の結果を基に計算するものがほとんどだったから、分配金を多く獲得するために、投資家がチケットを買い占める事例が頻発。ナイトショーなどで観客がほとんど入っていないのに、「売り切れ・満員御礼」になっていると、ネットやメディアなどにすっぱ抜かれた。

 チケットは実際に売れているのだから、売上架空計上とは言えないが、監督官庁から規制が入り、16年以降は売上成長が低迷することになった。また、消費者にマイナスのイメージを与えたのもまずかった。

 二つ目の理由はネットが急速に普及したことで、娯楽が多様化したことがある。17年に入って当局はテンセントが運営する人気スマホゲームの「王者栄耀」をめぐり、若年層の使用時間を制限するなどの規制強化に踏み切ったが、それだけ潜在的な映画観客層がスマホゲームに流れていたことを示している。

 三つ目の理由は国産映画の観客に対する訴求力が落ちている可能性があるということだ。16年上半期の中国における国産映画のシェアは約38%にとどまった。同期間の日本における国産映画の市場シェアは約45%。中国が外国映画の年間輸入本数を60本以内に規制して国内産業を保護していることを考えると、あまりに低い水準だと溜息が出る。

 ただ、冒頭で中国の映画産業を取り巻く環境が変わり始めたと記したのは、国内の興行収入についてだけではない。実は中国は16年11月から海外M&Aについて、厳しい規制強化措置を打ち出していることがある。

 海外のホテルや映画館、不動産、サッカーチームなどの企業買収を、「国の発展に貢献しない」として原則認可しないと決めたのだ。それを受けて、今年6月に入ってから、中国最大の映画館を運営する万達グループが推進する海外の映画館チェーン買収も国内銀行からの資金調達が難しくなり、結果的に傘下の映画館やショッピング・モールの一部を手放すことを余儀なくされた。

 こうした資本規制強化は正直に言って決して歓迎できるものではない。ただ、当局が期待するように、海外投資に振り向けられるはずだった資金が、国内映画産業の基盤強化に使われて、結果的に面白い作品が増えれば、国内映画産業の復活につながる可能性が高まることもあり得よう。仮にも日本の3倍もある市場なのだ。日本を含め、海外市場で通用する作品が年に数本できても決しておかしくはない。

(吉永東峰株式会社ニーズキャピタルデザイン代表取締役)

【執筆者略歴】
1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。

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