中国街角ウォッチ

中国街角ウォッチ(第37回)

2010.4.06

 先日も北京は雪だったというが、今年の冬は明らかに異常である。思い起こすと1974年、北京半年間の駐在を終えて帰途に着いたのがその年の3月18日だったが、柳が薄緑の芽を吹き始めて春の訪れを告げる季節であった。当時の北京の冬と言うのはまさに灰色のイメージであり、時おり顔を見せる太陽が愛おしく感じられたものである。

 柳絮(りゅうじょ)とか黄砂とか厄介なものが空中を飛びかう季節ではあるが、実は酷寒の冬を耐えてきた北方の中国人にだけ神が送った最大の贈り物、それはまもなく咲きそろう桃や梨の花々だけでなく、ほんの短期間ながら目にすることのできる木々の「新緑」の美しさであり、それは時代を超越して惜春の情につながるものである。

 当時はともかくアジア大会、オリンピックなど国際的スポーツイベント開催という洗礼を受けた北京市内はインフラも整い、近代都市への変貌を遂げた。北京という地理的概念も拡大し、特に周辺の農村部でかつては県と呼ばれた地域も、今では区と呼ばれるようになったが、その拡大を促した源流は北京市中心部を軸として幾重にも取り巻く環状道路建設であった。

 周辺区部を通る環状道路は五環路、六環路などだが、これに中国の自動車産業の発展が拍車をかけ、これまで都市中心部に居住していた市民も区部に移転するようになったのである。その結果不動産業者が積極的に宅地造成を進め、周囲は別荘やヴィラ、マンションなどが林立し、視覚的風情は一変してしまっている。

 一方でこの辺りには明の十三陵などの名所旧跡があり、これまでも多くの観光客が訪れている。十三陵のある昌平区は北京市の北西部に当たる。明の第三代皇帝「永楽帝」の時代に当時の地理学者がこの辺りの平均気温は真夏の暑いときでも城内(市の中心)より5度ほど低いとして、陵墓の地として選んだという地域でもある。

 十三陵の中で規模的に最大のものは長陵という永楽帝の陵墓。市内からこの地域に向かう道路から見ると、真北に当たる山の中腹に聳える荘厳な建築物がそれである。しかし、この陵墓は発掘されているわけでなく、地上建築物だけが公開されている。十三陵と言っても発掘されているのは14代皇帝「万暦帝」の陵墓だけで、その地下宮殿が時の皇帝の権勢ぶりを今に伝えている。

 その陵墓群から南東に下った田園地帯に、突然盛り上がって岩が固まったような小湯山と称する小高い山がある。山と言うより大きな岩石の塊にしか見えないが、その付近一帯に温泉があり、その温泉を観光資源にした産業が育ちつつあるという。同区から得た最近の情報では6企業あるというから、温泉施設は6カ所あるのだろう。私が北京にいた頃だから10年以上も前のことだが、その一つ九華山荘は当時から週末ともなると黒塗りの高級車がずらっと並び、その光景は異様でさえあった。

 私が九華山荘の社長に呼ばれたのは、海のない北京に海を模して波の起こるプールを作り、屋根を開閉ドーム型にして晴れた日には屋根をオープンして青空を見ながらプールで泳げる構造にできないかという相談があったためだった。日本で言えば宮崎のシーガイヤのイメージなのだが、そこでシーガイヤを建設したという在北京の日本業者に相談したこともある。その結果は彼らの目論見は資金的に難しいということで間もなくご破算になったのだが……。

 すでに存在した温水プールは広々とし、ホテルの客室もさることながら、ボーリング、カラオケ、ゴルフ練習場と様々な施設を備えている。また、畑の中に忽然と聳える天安門然とした豪華な門もまた何とも不釣合いな感じにしか見えなかった。その九華山荘のエリア内には数棟の四合院風の平屋があり、仲間たちと宿泊したこともあるが、それは当時の北京でも何となく治外法権を思わせる別世界としか感じられなかった。

 当時はその並びに温泉宿らしき建物が数軒あったと記憶するが、それらは外見も決して目立つ存在ではなかった。しかし最近の情報では、九華山荘も新館を増設。付近には日本の露天風呂を模した施設を有する温泉ホテルまで登場したというから、その変化の大きさに驚く。火山地帯でもないこの地域からなぜ温泉が沸くのかという質問に対しては、この辺りの地底には太古の昔から高温のお湯を溜め込んだ層があり、有限ではあるが数十年は給水できるだけの湯量があるという説明だった。

 また、この近くには地熱もあり、これを利用した野菜栽培があったり、養魚施設があったりした。広々としたダチョウ牧場もあり、その傍の洋館でダチョウ肉の鍋料理を何度かご馳走になったものだ。

 こうして過去を振り返ってみると北京という中国の首都は目立たないところで歴史的資源や地下資源にも恵まれているだけでなく、それら資源を現代に生かしてさらなる発展を期し、不断の努力をして来た時代時代の人々がいたということなのだろう。そしてその結果として今ここに大輪の花として開花の時期を迎えているのだろうかという気がする。

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