中国街角ウォッチ

中国街角ウォッチ(第42回)

2010.8.24

 日本留学をめぐる中国からのアプローチが、この時期になると増える。中国の学制で7月が卒業時期に当たるためだが、今年の特徴は、その多くが日本の大学院入学を目指したいとしている点だ。私は一昨年までの8年間にわたり母校の大学で教鞭をとっていたのだが、その経歴を当てにしてのアプローチなのだろう。ただ、相談に応じて希望を聞いていると、大学院がいかなるところかを知らずして大学院受験を望むというのが気になるところである。

 その傾向は日本人大学生にもみられるのだが、総じてそれが最近の学生たちの知識不足に起因しているようで情けない。たまたまかも知れないが、ある日本人大学生は中国語のレベルアップを考えて大学院を目指すと言うし、またある中国人学生は日本語のレベルアップのために大学院に行きたいのだという。そもそも大学院というところは語学上のレベルアップのための講座などまったくなく、あくまでも言語学、あるいは外国語の研究、たとえば比較言語学とか文法などの研究が主体であり、語学上の訓練など望むべくもないところなのに。

 このように大学院が一般化してしまったのは、何時ごろからだろう。私の関係する上場企業でも、来年の入社希望者の中には大学院卒業予定の者が数人いる。昔は高卒中心だった職場が、いまでは院卒中心になっていると、人事担当者は嘆きにも似たためらい口調でつぶやいている。同僚の大学教授との話の中にも、大学院での研究の難しさを知らずして入学した結果、続けられなくなり去っていく例も多いという。

 そもそも研究はあくまでも研究であって、必ずしも社会に出て役立つとは限らない。そこで苦しんでいるうちに研究そのものに対して空しさを感じ、それが故に挫折してしまうということなのだろう。

 大学経営は厳しいと言われており、学生数が定員に満たない大学は3割を超えているという時代だ。大学は定員確保のために労を厭わない傾向もみられる。私の中国の友人も子弟を日本に留学させたというが、聞いてみれば入学したのは別科で、大学内の予備課程のようなところ。いわば大学院受験のための予備校に入学したということなのだ。定員確保を目的に、大学側が学生の囲い込みをする仕組みを作ったようにも思える。

 中国でも大学卒業時に希望通りの就職が決まらないと、やむなく就職浪人ということになる。“蟻族”などという新階級の一つとして注目されるようになってきた。これは一人っ子政策による影響も否定できないが、それ以上に大学卒業生の親の財力が、彼らをして無理に就職させなくても経済的に支障がないという面もあるようだ。その裏で大学院ブームも現れており、中国で名刺交換すると驚くのは博士、修士(碩士)の肩書きをもっている人が極めて多い。

 日本政府が1983年の中曽根首相時代に外国人留学生10万人の受け入れを目指したが、計画より10年遅れの2003年にやっと達成したことは記憶に新しい。計画達成が大幅に遅れた最大の原因は何かということも話題になり、日本の大学は博士号を出さないから、みなアメリカに行ってしまうのだというのが一部の意見であった。

 その後、留学生の大学院入学枠を大幅に増やしたようで、大学によっては外国人にとって学部よりも大学院の方が入りやすいなどと囁かれるようになった。中国でお会いした日本語を巧みに操る若者の多くに、日本の大学院で博士号、修士号を取得している人が目立つのは、こうした現象が背景にあるのだろう。

 一方で博士や修士を何人出したかというのが教授としての評価になるという制度にも問題がありそうだ。さらに一昨年は政府主導の有識者会議で2020年を目処に外国人留学生30万人計画も討議されたというから、大学院も含め大学の受け入れ枠の拡大は益々加速化しそうな勢いである。政府の目指すところは水準の高い人材を広く国際的な視野で集めて、それを国益に結び付けようという目論みであろうが、果たして結果は如何なるものになるのか、現状を見る限り完全に未知数である。

 前段のところで述べたように大学院の果たすべき機能が必ずしも理解されているとは思えず、本当の人材育成につながるかどうかも疑問である。ただ、現実を眺めると大学院できちんと勉強する学生は外国人に多く、例えば中国研究の分野でも学者、研究者ともに中国人の占める割合が高くなっているのは、日本人として憂慮すべきことかもしれない。

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