中国街角ウォッチ

中国街角ウォッチ(第47回)

2011.01.26

 中国の金の輸入量は世界一と言われる。用途は工業用と装飾用があり、中国経済の発展にともない間違いなく中国の金需要は増加している。改革開放以前は人民元の価値が極端に低く、華南あたりでは人民元の人気はほとんどなかった。

 深センなどではタクシー運転手に人民元の受け取りを拒否され、時々トラブルになったこともあった。このころの話によると、華南のお年寄りは香港ドルを手に入れると壷に入れて蓄えにしていたという。人民元の受け取りを嫌がられた時代もあったのだ。

 これもあれも中国では歴史的に政権が変ると、それまで使っていた貨幣が紙切れになってしまい、人民は煮え湯を飲まされたという苦い思いを何度も経験させられたからだ。戦時中に日本軍が一時的に発行、流通させた軍票でも同様の被害を受けており、歴史的教訓が人々の心底にしみこんでいることと関係しているように思う。

 ベトナム戦争のときに戦火を逃れて小船で日本に流れ着いたベトナム人の多くは、沢山の装飾品を身につけてやって来た。日本到着後は身辺の装飾品を売って、当座の飢えを凌いだという話は、戦乱相次いだベトナム民族らしい生きるための知恵だったと思う。

 人民元が現在のように強くなって来ると、中国人の通貨に対する警戒感もかつてのようには強くないが、それでも計画経済に慣らされ物資不足の世の中で育った彼らは、モノに対する執着が形を変えて様々なところに映し出されている。

 その代表的なものが不動産投資であり、そして株式投資になるのだが、近年目立つのが美術品・骨董品に対する投資である。投資対象として骨董品は理解できるとしても、美術品に関してはその価値基準がなかなか難しい。最近は有名画家の作品が様々な美術雑誌などで紹介され、「人気のある絵画」として高値売買されるようになっているのである。

 改革開放以前は北京での買い物と言ったら、瑠璃廠で筆、硯、墨、紙の文房四宝や美術品あさりするか、市内の友諠商店での繊維製品探しが定番であった。瑠璃廠と言えば一昔前は古い街並みが残っていたが、1982年に北京政府の指示で明代の趣に建て替えられた。それからは古い街という印象はすっかり失せてしまい、店舗自体は小ぎれいになったものの、骨董品なども姿を消し、まがい物ばかりでつまらない街になってしまった。

 瑠璃廠は15世紀初頭(明朝の永楽年間)に作られた窯が出発であり、近代になっても古いものが売買され、特に陶磁器や絵画などには冒険心をそそられるものが店先を賑わしていたものだ。私も北京の名所の一つとして多くの日本人を案内したが、立ち寄るのは栄宝斎という国営の文具店くらいのものになってしまった。街中で信託商店という看板を見かけるが、時としてこうした店では東北地方に居住していた日本人が引き上げる際に残していった陶磁器や掛け軸などが売られており、これを狙って日本人客が訪れることもあった。

 私が立ち会ったときには大概のところ保存が悪く、原形をとどめない様なもので、価値が定められないケースがほとんどだったのだが、現地に駐在している日本人の中には骨董に魅入られ、駐在期間中に多くの骨董あるいは骨董まがいのものを買い込んで、帰国時苦労しているようなケースも見かけた。

 その当時、中国人がこうしたものに興味を示すことはあまりなかったのだが、最近では地方の街に行っても美術専門店も増え、華南地区に行くと郊外に美術品や骨董品だけを専門に販売する市場が出現するようになっている。私の親しい中国人の地方行政幹部は好んでこうしたところに案内してくれるのだが、画家の名前を聞いても、書家の名前を聞いても私にとってはさっぱり分からないから、当然のことながら商品の価値も分からない。

 「この作家のものは数年前○○元で、将来的にはもっと値上がりするよ」とか言って説明してくれるのだが、正直言って興味を抱くような作品に出会ったことはない。元来が中国の絵画など作家が量産してしまうので、値上がりするといってもあまり期待できないと先輩に教わったことも脳裏に浮かぶ。有名な人のものは贋作が多いという中国独特の事情も加わって、実際買うところにまで至ることはない。

 その彼の自宅を訪問すると、客間には古風な木製の椅子がいくつも置いてある。彼は椅子に腰掛けて丸みを帯びて光沢のあるなだらかなアームを手のひらで擦りながら呟く。「西洋のソファーは日に日にその価値は落ちるのだが、この椅子はこうして擦っているうちに年々価値が上がるんだよ」と。

 中国ではこのところ骨董品、美術品のオークションも盛んに開かれる。国際的な規模で商品が集められ、熱のこもった雰囲気の中で、常識外の値段で競り落とされていると聞く。最近の話では日本で1000円で買って持ち帰った絵画が、47万元(600万円強)で競り落とされたという話もあるが、値段の真偽はともかくこうした美術品、骨董品が破格の値段で取引されていること自体、中国のモノに対する執着が通貨をはるかに越えるものということにも通じるような気がする。無論、富裕層のマネーゲームといってしまえばそれまでの話かも知れないが。

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