中国街角ウォッチ

中国街角ウォッチ(第49回)

2011.03.30

 3月11日午後に発生した東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、東北・関東の沿岸500キロメートルにわたって大津波を引き起こし、多くの犠牲者を出す大惨事になった。私は地震発生時、広東省中山市の郊外に位置する小欖鎮のホテルで関係者と昼食を取っていた。

 突然の電話で「仙台で大きな地震が起きたが、東京は大丈夫か」と、滋賀県守山市に住む友人が心配そうに尋ねてきた。驚いてスタッフが日本のオフィスに電話したが繋がらない。そこで携帯に電話したところすぐに繋がり、その後しばらくして家族全員が無事であるというSMSメールを受信。日中間の距離が近くなったことを実感した。その後はホテルの部屋に戻り、中央電視台(CCTV)のニュースチャンネルで地震情報を夜中まで見ていた。

 以前にも書いた気がするが、1976年7月末の唐山大地震を思い出した。あの時は中国国内での報道はゼロ。最初に見た報道は朝6時のNHKニュースだった。当時の北京ではテレビなど普及しておらず、報道は人民日報と官製ラジオ放送ぐらいのもの。“北京銀座”と呼ばれる百貨店の屋上の一部が道路に落下して粉々になったが、それさえもまったく報道されなかった。

 北京市民は当局の指示に基づき、近くの公園にビニールで粗末なシェルターを作り、黙々と移り住んだ。シェルターと言っても4本の棒状のものを地面に刺し、その上に大きめのビニールシートを渡して屋根にした簡単なもの。風が吹けば、すぐにでも飛んでしまいそうだった。公園は無数のシェルターで埋まり、人々は当局の指示があるまでそこで生活していたようだ。

 一方、我々には何一つ情報が与えられず、地震発生3日目の朝になって突然呼び出され、大きな余震が来るのですぐにホテルを出て欲しいと言われた。まさに着の身着のままで飛び出すと、ホテルの前に大型バスが停まっている。宿泊していた商社マンは、このバスに強制的に積み込まれたのである。

 走ること20分足らずで下ろされたところは故宮の近くにある労働文化宮で、公園となっている一画だった。林の中に数十張の大型テントが張られ、10人一組で1張が割り当てられたほか、一人ひとりに簡易ベッドがあてがわれた。夕方にはホテルの厨房から食事が運び込まれ、水洗式大型バストイレも配置されるなど、何ともにぎやかなテント生活が始まった。

 どうやら北京市内のホテルに宿泊していたすべての外国人が集められたようだ。テントは軍隊が野営する時に使うものなのだろう。人民解放軍が急場しのぎで設営してくれた。ビジネス用にと、電話を使えるテントもあった。しかし、仕事の電話としては不便極まりないもので、ほとんど外部からの連絡用として使われた。

 夏の終わりも近い時期であり、蚊に悩まされた。時々ある余震さえ我慢すれば、日ごろ忙しい商社マンにとって見れば、思わぬ休暇を頂いたような気分だった。林の中に置かれたテーブルではマージャンに興じるグループのほか、囲碁や将棋を楽しむ人などもいて、およそ地震で避難させられた連中とは思えないリラックスぶりだった。

 それと比べるのは愚かしいことかもしれない。今回の日本の地震は大規模な津波をともない、夥しい数の犠牲者を出した。さらに福島原発の事故による放射能漏洩問題が追い討ちをかけた。中国国内では日本全土が放射能で汚染されてしまっているがごとき情報が飛び交い、中国大使館は岩手・宮城・福島の在日中国人に避難勧告を出したのという。おかげで成田空港は日本を離れようとする中国人であふれかえった。通常6万円の航空券が23万円に高騰したにもかかわらず、大勢の人が空港内の航空券売り場に殺到したそうだ。

 思い出すのは労働文化宮での4日間ほどのテント生活の後、予約した航空券を受けるために市内の民航ビルに行った時のことである。民航ビルは北京から逃げ出したい人々に囲まれ混乱状態。その付近は食べ散らかしたスイカの皮が散乱し、鼻を覆いたくなるような異臭が漂う。こうした状況で群衆を押しのけてビルの門に近づくのは並大抵のことではない。

 そこで武器は背広姿と赤い日本国パスポートであることに気づいた。群衆を押しのけ門に迫り、パスポートを頭上で大きく振った。門までの距離は十数メートルもあっただろうが、気づいた警備兵が人々を押しのけ、道を開けてくれた。

 一方、事務所兼宿舎であった新僑飯店前では腕章をした民兵が警護をしており、「間もなく余震があるから中には入れない」の一点張り。だが、帰国するために荷物を取りに行くだけと言って強引に入り込んだ。水シャワーを浴びて荷物をまとめると、急いで空港に向かった。飛行機が飛び立った時の安堵感は生涯忘れられない。あの当時の思いは、今ここで日本を離れる在日中国人たちの気持ちと通じるものがあるだろう。

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