中国街角ウォッチ

中国街角ウォッチ(第52回)

2011.06.29

 5000人に余る内蒙古出身者が日本に住みついて、祖国を思いながら日本社会に溶け込んで頑張っていることを最近知った。日本では内モンゴルに対する理解度は決して高いとは言えない。彼らの祖国は中国なのだが、話をしているとそれが中国そのものと言うよりも、内モンゴル自治区であるということも、ある事件をきっかけに知ることになった。

 その事件、内モンゴル自治区で5月10日に漢民族の石炭運搬業者が運転するトラックの前に地元の遊牧民が立ちふさがり、草原への侵入を阻止しようとしたのだが、「どけ、お前たちの命なんぞ安いものだ」と言いながら轢き殺し、そのまま150メートルあまり引きずったという事件。当の運転手はトラックから下りて「40万~50万元だろう。すぐに払ってやるよ」と言い放ったらしい。

 これを見ていたモンゴル人たちは激怒し、漢民族の運転手に詰め寄って激しく抗議したところから始まる。漢民族に草原を荒らされ、炭鉱開発により資源を収奪されているという不満が、モンゴルの遊牧民の間に鬱積していた。そこに不埒な輩が無謀な事件を引き起こしたのだから、穏健で大人しいとされていたモンゴル人も黙ってはいない。数日内に不満を抱えた遊牧民たちは、事件の起きた内モンゴル中部のシリンゴル地方の中心都市シリンホト市にある役所に押しかけた。これに驚いた当局は300人を上回る武装警官を出動させ、デモ隊に対抗、40人以上を連行したという。

 5月26日の夜、最近知己を得た内モンゴル自治区出身の青年3人と虎ノ門の事務所近くにある中華レストランで羊肉を突いている時のこと、その内の一人が突然興奮気味に語り始めた。

 内モンゴル自治区の経済成長率は資源開発をバックに急激な伸びを示しており、02年から8年連続中国トップという好成績をあげている。この事件に驚いたのは「調和のとれた社会」をスローガンに掲げている中央政府であり、事件から半月後の5月29日付「人民日報」でも内モンゴル自治区への支援策(約800億元の支援金拠出など)を掲げるなど騒動の鎮静化に動いたが、事件報道にまでは至らなかった。このところチベット、ウイグルなどの少数民族から激しい攻撃を受け、内政上の大きな問題となっている最中に、また新たに厄介なトラブルを抱え込んで中央政府としては、頭の痛いところであったろう。

 そしてこの晩に青年が憤っていたのは、こうした事件に対して日本のメディアが大きな関心を示さず、事件後2週間もたっているのに一部の新聞にベタ記事扱いというのは納得いかないということであった。実際には中国メディアの扱いも決して大きなものではなかったのだが、すでにネット、携帯での情報発信はかなり具体的に、しかも世界的規模で激しく行われている様子であった。

 彼らは数年前に日本に留学、某一流大学の大学院に通い、志半ばで中退。目下のところ日本でビジネスを展開している連中だ。日本に来てからは余分な抑圧感から解放され、比較的自由に生活している連中である。「だから日本は大好き」と言いながら、一方でテレビを含む各種新聞などの報道のあり方には不満があるようだった。

 彼らに指摘されたその夜以来、気をつけて新聞記事をチェックしていたのだが、日本の有力日刊紙も5月28日を皮切りに矢継ぎ早に現地でのデモの様子を香港発やフフホト発の情報として大きく取り上げていた。朝日新聞でのタイトルは「内モンゴル、デモ続く」「炭鉱と遊牧民相いれぬ同居」「内モンゴル、怒り限界」はその一例だが、私はそれらをスクラップして、いつか機会を見つけて彼らに反論しようと思っている。

 そして彼らは日本でもモンゴル民族としての行動を起こさなければと、その週末に中国大使館前でのデモを計画していると語った。これなどもネットのミニブログなどによる呼びかけなのであろうが、この種の情報は米国や香港など地球上に散らばっているモンゴル人同士の間で飛び交っているようである。無論、日本にもその種のサイトがあり、それぞれの意見を交している。

 私がこの地を訪問したのは90年代初めだが、彼らの故郷はすでにその当時から遊牧民だけの草原地域ではなかった。新中国になってから共産党政府が都市を建設、遊牧民向けのアパートも建設、遊牧民の定住化を促進したのだ。私がこの地を訪れたのはヒマシ油からオレイン酸を作るプロジェクトのためで、この地方にはヒマシ油の原料であるトウゴマ(ヒマ)が群生していたからだ。

 北京に戻るために夜行列車に乗り込んだ私に、今仕留めたばかりのウサギだが北京に帰って食べてくれと息せき切って持ち込まれたのには閉口したものだが、この地域は狩猟開放地域であり、それも自分たちで射止めた獲物を遠路の客に捧げようという心意気だったのだろう。5~6年後、この辺りは土地開発が進みトウゴマはすっかりなくなり、経済作物に植え替えられえてしまったため、このプロジェクトは終焉を迎えのだが、時代とともに産業も変化し、米国の西部開拓に似たような現象は中国でも存在し続けるのであろう。

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