中国街角ウォッチ

中国街角ウォッチ(第53回)

2011.07.27

 漢民族のトラック運転手がモンゴル族の青年をひき殺した事件に抗議するため、世界中の同胞が団結し、各国の中国大使館でデモ活動を展開したと先月号で報告した。短期間にそれだけの活動を繰り広げることができたのは、世界に張り巡らされたインターネットによる連絡網のおかげだ。抑圧された少数民族だけではなく、一般の中国国民もまた様々な形で政府への反発を強めているが、それもまたインターネットを駆使している。新しいメディアの出現が、こうした活動を可能とした。

 例えば、中国では裁判の結果をめぐる事件が年々増加している。そうした問題の背景には、裁判制度が一般の民主主義国家とは違い、中国共産党の一党独裁体制であることから、法治が徹底しているとは言い切れない事情がある。

 だが、ここに来て少しずつだが、裁判結果にも灯りが見え始めているのはなぜか?その答えはネットを通じた世論が裁判にも反映されるケースが出始めているためだ。最近はネット世論が政府の意思決定を覆すといった具体的事象も報道されるようになった。

 中国では昔から存在した政府系の従来型メディアと民間で爆発的な広がりをみせている新興メディアが並存している。従来型メディアの主流は新聞や国営テレビネットワーク。一方、新興メディアは2億人が利用しているというインターネット。趨勢としては新興メディアが中国社会を大きく変えるツールになって来た様にみえる。

 従来型メディアをみると、党機関紙の『人民日報』は中国共産党の後押しがあるにかかわらず、最近は新聞スタンドからも姿を消すという劣勢ぶり。しかし、テレビの方はといえば、そのネットワーク規模の大きさは測り知れない。

 NHKインターナショナルが関係した中国事業のサポートのため、昨年、一昨年と2年続けて中国科学技術部国際合作司が主催する国際映像祭に参加した。宿泊したのは北京梅地亞電視中心の附属ホテル。客室で視聴できるテレビチャンネルは122局という豪華さであり、その内容は旅行、ゴルフ、京劇、料理など多岐にわたり、出産・育児のチャンネルまである。中国の友人によればこの122局はすべてではなく、他地域では地方の孫局が5~6局あり、全体としては相当数に上るという。

 一方、新興メディアについて言えば、まさに「燎原の火」のごとき勢いで広がっており、2009年に政府が発表した「中国人権白書」では「インターネット民主主義」などと言った表現もみられるように、「抑圧されていた中国人民の権利が部分的ながら改善、大きな作用を果たしている」という表現で、中国の民主化が進んでいるという体制側のPRに使っている。同白書によると、中国国内のウェブサイトは323万に達し、ネット利用者に言論発表のサービスを提供できるように配慮。100万を超えるネットフォーラムがあり、2.2億人のブログ・ユーザーが毎日300万以上の言論を発表しているとしている。

 インターネット民主主義というのも聞きなれない言葉だが、それはあくまで過去との比較の問題であり、メディアとしては矛盾も抱えている。それはこの種メディアの最大欠点なのだが、ネット利用者はあまり纏まった組織ではないことから、雰囲気として大勢を支配することはできても、それが直ちに現実の力にはなりえていない点である。

 さらに体制側のネット利用者に対する意識的な妨害活動は、極めて厳密な仕組みの中で行われている。今年5月に霞山会の午餐会で行われた講演「中国新メディア事情」の中で共同通信の古畑康雄氏が語ったところによれば、08年10月時点で中国国内には14の政府部門が存在していたが、今年5月にそれらを統括する部門として「国家インターネット情報弁公室」という組織を発足させ、管理を厳しくしているという。

 例えばノーベル賞受賞者の劉暁波さんが授賞式への出席を政府に妨害された問題では、ネットを通じた様々な政府批判が地球的規模で飛び回ったが、当局は厳しく管理し、政府批判の書き込みはすべて消去された。また、尖閣諸島で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件の際、日本のマスコミは「ネットの書き込みで多くの人が挑発的な言葉で反日を後押ししている」と報道していたが、実のところ親日的な書き込みは早い段階で消去され、当局が残したものだけを日本人特派員が伝えたとも言われる。

 真偽のほどはともかく、『南方周末』のコラムニスト・笑蜀の「ネットの向こうの中国―もはや烏合の衆ではない―」という言葉をみると、中国のネットメディアがある意味で力を持つようになり、政府もそれを真正面から見なければならない時代になってきたような気がする。

<参考文献>中国ネット最前線(蒼蒼社刊)

中国株取引のリスク
株価や為替の変動等により損失が生じるおそれがあります。
中国株取引の手数料について
中国株の手数料は、国内手数料、現地手数料、為替手数料と3種類の手数料があり、このスペースに表示するのが難しいため、詳細は中国株の「手数料とリスクについて」でご確認ください。
中国株は、クーリング・オフの対象にはなりません。
詳しくは手数料とリスクについてをご覧ください。