中国街角ウォッチ

中国街角ウォッチ(第55回)

2011.09.28

 中秋節の北京はスモッグで空が曇り、月は見えなかったそうだ。天上はともかく、地上の方はと言えばこの時期、派手な贈答合戦が繰り広げられる。その贈答品の中心が月餅(ゲッペイ)であり、毎年9月に入ると中国全土どこのホテルに行っても、ロビーの特設売り場にうず高く積まれる箱詰めゲッペイの山を見かけるが、これは本格的な秋が近いことを感じさせる風物詩でもある。

 中秋節に両親や親しい友人にゲッペイと果物とを組み合わせて贈る慣わしは微笑ましい。日本から現地に行った友人たちからは「ゲッペイをたくさん貰ったが、とても食べきれない、毎日一つずつ食べても数ヶ月かかりそうだ」と、迷惑と言わんばかりのメールを今年も頂戴した。

 このゲッペイに様々な仕掛けをして、高価なゲッペイを作り、何食わぬ顔で賄賂として役人に渡す習慣があったそうだ。さすがに賄賂を現金で渡すのは憚られるらしい。

 そんな時期、天津から友人の来訪があり、久しぶりの再会を果した。彼は89年の天安門事件の際、天安門広場でのデモに参加したことで当局から睨まれ、これをきっかけに来日した。日本の大学に進学し、大学院で空気圧についての研究で成果を挙げて、工学博士号を取得。教授の推薦で、ある日本のメーカーに就職した。

 その後、天津に帰国留学生向けのインキュベータがあり、事業を起す環境が整っているとして、勤務先の社長を説得し、天津で水量や空気圧に関する計測機器を開発・製造する事業を始めたのである。

 私は開業直後、友人からの紹介で天津市が無料で用意した帰国留学生のためのビル内にあった彼の技術開発研究所に案内された。以来の彼とのお付き合いは既に13年を経過しているが、その間の彼の事業の成長拡大ぶりは目を見張るものがあった。

 久しぶりに会った彼に聞いたところでは、彼の会社は未だにインキュベータの対象で、先進企業としての扱いでもあることから、開発区の特別優遇策を享受しており、法人税率が15%に据え置かれているというから驚いた。現在は外資企業でも25%なのだから。また、思いもしなかったのだが、89年の事件でお尋ね者になった彼が共産党員になっており、しかも優秀党員として認められているという。04年には「全国労働模範」の称号を与えられており、共産党の囲い込みも激しかったのだろう。

 共産党員は8000万人を数えるまでになったのだが、彼のような人物でも良いのかと疑問に思って尋ねてみた。「確かに档案(本人経歴を記したファイル)に過去のことが残っているだろうが、政府に対してきちんと対応することが大事でしょうね」という。「きちんと対応すると言うのはどういうこと?」という質問に対する答えは、「それなりのこと」という一言だった。

 彼の工場は昨年の売上高が約12億円に上り、日本本社への配当は5000万円ほどだったそうだ。彼の会社には政府も出資したそうで、「それなりのこと」とは表か裏かは別にして、キチンとしたものが政府幹部あるいは関係者に支払われているということを意味しているようだ。

 その昔、彼が私のところにやって来た時、「先生、中国でものを売るっていうのは大変なんです。バイヤーにどのくらいのキックバックを出すかで成否が決まるのだから。日本では考えられない世界で、中国もそこから抜け出さなくてはいけないのに、未来永劫に抜け出せないかも」と言っていた。そんな彼だが、その点はすっかり物分りが良くなっており、一抹の寂しさを覚えた。

 その彼が別れ際に呟いたのは「本当は日本に住みたいんです」という本音ともお世辞ともとれない一言。それに対して私は返答に窮してしまった。彼は元来がまじめすぎるくらいの男で、日本の習慣については熟知しており、「賄賂は犯罪」として育った。だが、現実の社会にのめりこんだ今、賄賂も社会の潤滑油として迎合している一方で、そんな社会からは抜け出したいと思っているのかも知れないと感じたからである。

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