中国面面観

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ダブルスタンダード中国、悩みがまた一つ

2012.05.02

 経済の高成長が続く中国だが、実際のところ普通の人々はそれをあまり実感じていないようだ。“毎年8%超の成長”は自分の給料の実態とかけ離れており、その一方で物価は日々上昇している。ぎりぎりの生活の中で暮らしている人々はまだまだ多い。

 特に若年夫婦の間では、一人っ子政策下で生まれた子どもを「可能な限り将来への希望が感じられる世界で育てたい」という想いが強い。中国本土から香港への「越境出産」はそんな流れの中で生まれた社会現象であり、政府や人々を悩ませている。

 2002年に香港で出産した本土出身の妊婦はわずか1250人だったが、9年後の2011年にはその30倍の3万8000人強に急増。本土から飛来する「イナゴの群れ」と揶揄され、香港市民にとっては“迷惑千万”といったところだ。

 こうした状況に反対するデモ集会が昨年から頻発したことを受け、ついに次期行政長官の梁振英(リョン・チャンイン)は、香港での出産を大きく制限するという声明を発表した(17日付香港紙報道)。

 香港永住権を持たない本土の両親は、一国二制度の下で手厚い社会保障や高水準の教育制度を備えた香港の永住権をわが子に与えたいと願う。こうした人々を香港側でも一部の私立病院が営利目的に手引きしているという話も聞く。

 香港は本土の一般的な都市に比べ裕福だ。そうしたところで出産したい妊婦、それを収益源とみる香港の私立病院の需要と供給がマッチし、双方が恩恵を受けている。

 ただ、迷惑を被るのは普通の香港市民だ。病室が不足し、担当医も看護婦も十分に機能しているとは言い難い状態で、押し寄せる本土住民に対する反感は募るばかりだそうだ。

 この問題はメキシコ人が高い壁を乗り越えて米国で出産するケースと少し違う。本土住民と香港市民は根っこの部分は同じ中国人であるにもかかわらず、互いに「自分たちはあの人たちと違う」と言い合っているのだから。本土と香港を分ける“政治的な壁”はだいぶ低くなったが、社会制度的、文化的、そして経済的な格差が生み出す“見えない壁”は、まだまだ高いのだ。

 梁・次期行政長官は私立病院の出産枠を2013年からゼロにする声明を発表した。公立病院側も全面的に受け入れをしない方針だそうだ。しかし、香港で生まれた子どもは、両親が香港居住者ではなくても、香港での居住権と完全な市民権を享受できるとしている香港基本法があるだけに、法的な対応が求められそうだ。

 1980年代の香港と本土のボーダー(境界線)は、警備が非常に厳しかった。90年代にも少しずつ緩和されてきたが、一日の通行者は150人までとであり、手続きに数時間かかった記憶がある。ゴルフするためだけの越境で、一日がかりの手続きを強いられたことをよく覚えている。

 2003年7月の「個人ビザ発給政策」の後、その状況はがらりと変わった。香港経済へのテコ入れ策もあり、中央政府は香港へ人と資金(人民元)を流し込んだ。その結果、アジア通貨危機や新型肺炎SARSに苦しんだ香港は蘇えった。人口700万人の香港を訪れる旅行客は、いまでは年間4000万人超に達しており、その半分以上は中国本土から来ている。

 息を吹き返した香港で、中国の四大国有銀行は株式公開を実現し、巨額の資金を調達した。こうして得た資金は本土に還流し、金融制度の健全化に寄与した。

 香港は再び三大国際金融センターの一角と呼ばれるようになり、国際化を目指す人民元のオフショアセンターにも位置づけられている。高成長の源泉を中国本土政府による財政投資だけではなく、「市場」に求めるプロセスの中で、香港の役割はますます増大している。

 経済面での役割分担を見れば、一国二制度は本当にうまく機能しているようだ。だが、その一方で「越境出産」のような新たな問題も発生している。一国二制度というダブルスタンダードは、メリットもあるが、新たな問題の火種にもなっている。根っこは同じ本土住民と香港市民だが、乗り越えなければならない問題はまだまだ多そうだ。

(吉永東峰 株式会社ニーズ キャピタルデザイン 代表取締役)

【執筆者略歴】
 1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。

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