中国面面観

~世界を席巻する中国人の贅沢品消費~

2012.01.19

■銀座を潤すチャイナマネー■

 先日、友人が銀座の某高級ブランド店で奥さんへの結婚記念日のプレゼントを選んでいたところ、中国人観光客が入るやいなや百数十万円の腕時計を2つ買っていったという。友人は最初、数十万円もする腕時計を買うのだから誇らしげに店内でじっくり物色していたが、ケタ違いの買い物をする中国人観光客を目の当たりにした後、しゅんとしたらしい。同じ頃、中国の知人が日本に個人観光に来て、お土産にデジカメを十数台も買った。最新型のかなりハイスペックのものなので、このお土産代だけで数十万円はかかった。

 日本政府観光局が発表した2011年11月の訪日外国人旅行者は、前年同月比13.1%減の55万2,000人と9カ月連続のマイナスだったが、中国からの訪日旅行者は35.0%増の9万2,300人で、11月としては過去最高を記録した。中国の景気後退が懸念されているが、中国人観光客の贅沢品消費は健在しているようだ。

■中国人の海外での贅沢品購入額は世界一■

 世界奢侈品協会(World Luxury Association)の発表によると、2011年10月初旬の中国の国慶節(日本の建国記念日に相当する)連休期間中、香港、マカオ、台湾を含む海外での中国人による贅沢品の消費額は約26億ユーロ(約2,700億円)に達した。購入対象は主に有名ブランドの洋服、化粧品、香水、バッグなどで、一人当たり平均消費額は2,000~8,000ユーロである。

 中国人が海外で購入する贅沢品の総額はすでに世界第一位。2010年、アジア人がヨーロッパで購入した贅沢品総額は690億米ドルで、そのうち中国人の消費額が500億米ドルだった。2008年の世界金融危機以降、欧米諸国の消費者の購買力が低下したのに対し、人民元高・ユーロ安で中国人消費者の海外での購買力が急速に高まった。ドイツのメディアの報道によれば、ドイツでの外国人旅行者の一人当たり平均消費額は、中国人が454ユーロで、ロシア人の351ユーロ、スイス人の127ユーロを大きく上回った。

■中国国内の贅沢品市場も2012年には世界一に■

 中国国内でも贅沢品消費市場が急速に拡大している。同じく世界奢侈品協会の統計によると、2010年2月~2011年3月の中国国内の贅沢品(自家用ジェット、クルーザー、高級車を除く)の消費総額は107億米ドル(約8,575億円)と、世界に占める比率は1位である日本の34%に次いで、25%と世界第2位である。ちなみに、米国は15%、欧州は16%となっている。同協会の予測では、2012年に中国は日本を追い抜いて世界最大の贅沢品市場になるという。

■贅沢品消費者は若年層に多い■

 中国の贅沢品の消費者は比較的若いのが特徴である。世界奢侈協会の報告書によると、消費者の73%が45歳未満で、45%が18~34歳である。20歳前後の若い消費者の多くは、裕福な家庭環境の中で育てられ、親が初代か二代目の企業家で創業中に苦労した分、子どもになるべく良い暮らしをさせてあげたいという思いがあるようだ。30歳前後の消費者の場合、外資系企業などで働く高給取りのホワイトカラーが多く、生活のクオリティや自身の個性にこだわって贅沢品を購入するケースが多い。

 しかし一方、自分の収入に見合わない消費が多いのも事実である。その結果、「月光族」、「負翁族」といった皮肉な言葉が生まれた。「月光族」は月給を1カ月のうちに使い果たす人たちのことを指す。「負翁族」は「富翁」(日本語で富豪の意味)の「富」と同じ発音の「負」をかけた言葉で、財産がマイナスになっている人たちのことである。日本語にすると「負豪族」の方が分かりやすいかもしれない。現在、中国国内の贅沢品消費者数は推計で約2億人に達しており、年間20%以上で増加していると言われているが、無理のない範囲内で贅沢品を享受してほしい。

■海外より遥かに高い中国国内の贅沢品■

 中国国内の贅沢品消費市場と、中国人が海外で購入する贅沢品の規模と比較すると、国内市場は100億米ドル強の規模で、海外では欧州だけで500億米ドルに達しており、その規模の違いが歴然である。

 その背景のひとつに、中国の贅沢品にかかる税率が高いことがある。輸入関税のほか、増値税(付加価値税)、消費税などがあり、輸入化粧品の場合、最大で合計60%もの税率が課される。中国商務省の調査結果によると、腕時計、鞄、洋服、酒、電子製品の5種類の製品のうち、20品目の高級ブランドの中国国内価格が香港より45%、米国より51%、フランスより72%高くなっている。

 内需拡大を政策方針として掲げている中国政府にとって、贅沢品の内外格差を縮小させ、国外に「流出」した贅沢品の消費を国内に呼び戻すことできれば、国内の個人消費拡大にも大いに役立つことになる。

 また、中国政府は、観光客が海外から大量な贅沢品を買って帰ることにより、中国の輸入額が事実上過少評価になってしまうという点にも注目している。贅沢品消費の国内回帰ができれば、貿易黒字が減少し、貿易摩擦の軽減にもつながる。このため、中国では贅沢品の税制見直しに関する議論がなされてきた。

 2011年12月中旬、中国財政省は2012年1月1日より一部品目の関税率の見直しを発表した。関税引き下げリストには贅沢品である化粧品が入っている。化粧品の関税引き下げ効果が鮮明となり、今後、より多くの贅沢品の関税率引き下げの対象となれば、中国の個人消費は一層盛り上がろう。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)  

【執筆者略歴】
1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13 年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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