中国面面観

中国の大学入試~春の陣~

2012.02.29

 日本では秋入学が話題になっているが、中国でも2月に大学入試に関わる一大イベントがあった。大学が個別に実施する「自主招生」(独自の学生募集)という試験である。ところで、「北約」、「華約」ってご存知?「北約」は本来の中国語で北大西洋条約機構(NATO)、「華約」はワルシャワ条約の略称なのだが、大学入試関連では別のことを指す。この大学入試の「北約」をめぐって、昨年12月のある出来事をきっかけに今年の「自主招生」試験の注目度が高まった。

■全国共通入試の「高考」■

 中国では、大学への入学にあたって一般的に「高考」(gao kao)と呼ばれる全国共通の入学試験を受けなければならない。「高考」の正式名称は「普通高等学校招生全国統一考試」で、日本の大学センター試験に相当する。ちなみに、中国本土では、「高等学校」とは大学、専科大学などの総称で、略して「高校」と呼ばれる。日本の高校は中国本土で「高中」(「高級中学校」の略)、中学校は「初中」(「初級中学校」)になる。

 「高考」は名目上全国共通となっているが、実際の試験科目等は省によって若干異なる。最も多く採用されているのは、国語、数学、外国語の3つの必須科目と、文科総合または理科総合のいずれかを選択する形式で、計750点満点である。試験内容は記述式が多く、国語は800字の小論文作成(60点)、英語は120語以上の英作文(25点)が課される。中国屈指の名門校の北京大学の数学学部と経済学部の合格者の平均点数は670点台(2010年)と推測される。試験日は毎年6月7日からの3日間と定められている。2002年までは7月だったが、酷暑などの理由で1カ月早められた。

 大学の合否はこの試験の得点だけで決まり、まさに一発勝負である。しかし、この試験制度には大きな欠点がある。大学の募集学生数は省ごとに定員数が定められており、通常、地元に割り当てられる定員数の方が多い。この結果、ほかの地域の受験生が地元の受験生より点数が高くても合格できない場合や、受験生が多い省の受験生が受験生の少ない省の受験生より高い点数を取らなければならない場合が出てくる。この影響もあり、「受験移民」というのが生まれた。受験生が少ない省や、志望大学のある省に引っ越しするのだ。もっとも、これを防ぐため、近年、一部の省は受験資格に地元に転入して満3年という条件を付け加えたが。

■「自主招生」の導入■

 2003年から、中国政府は、一部の大学が入学定員の一定の割合で独自に学生を選考することを認めた。それが「自主招生」である。試験は大学が各自実施し、一般的に筆記試験と面接試験から構成される。自主招生の試験を通っても、「高考」を受けなければならないが、点数の上乗せなどの優遇が付与される。

 現在、約80校が自主招生の資格をもっている。当初、試験は大学が個別に実施したが、受験生の負担を増やしたとの世論の批判もあり、2009年から一部の大学がグループを結成し、グループごとに試験を実施するようになった。成績はグループ内の各校で相互に認められる。主に4つのグループがあるが、北京大学をはじめとする11校からなるグループは世間から「北約」連盟、清華大学をはじめとする7校からなるグループは「華約」連盟と呼ばれている。このほか、天津大学など理工系大学9校の「卓越」連盟、北京所在の大学5校からなる「京都」連盟がある。

 ところが、2011年12月1日に、北約に属する天津の名門総合大学である南開大学が2012年から北約の試験に参加しないと発表し、翌日、上海屈指の名門の復旦大学も北約の離脱を宣言した。そして、2月2週目の週末から約2週間にわたって自主招生の試験が中国各地で行われた。

■学校と学生の選択肢を広げる■

 自主招生の導入は、「高考」という単一の尺度で似通った才能の持ち主だけでなく、特殊な才能をもつ学生にも名門校への進学機会を増やした一方、大学側にも自校の欲しがる人材を自分で選ぶ機会を与えた。また、グループごとでの試験実施は、受験生の負担を軽減し、学校側の手間ひまも幾分省け、独自の試験実施は、自校の募集する学生像をより明確に打ち出すことができる。北約を離脱した南開大学の場合、文系の受験生が国語、理系の受験生が数学、物理、化学のどれか一つの成績が上位10位に入れば、ほかの科目の成績に関わらず「高考」の成績が一定の点数に達すと、同校の当該学部に入学できるとなっている。これは、同校が特定分野に秀でる専門型人材を求めている証と受け止められよう。

■ミニ「高考」、受験生争奪■

 しかし一方、10年目を迎えた「自主招生」への疑問も積もっている。自主招生による合格者数は年間約1.5万人だが、そのうちの3分の2は高考の点数だけでも合格できると言われており、本当に自主招生の恩恵を受けるのは5千人程度で、年間受験生数の僅か0.05%位に過ぎない。筆記試験の科目も「高考」と似っている場合が多く、自主招生は優秀な受験生のための「高考」の事前練習とも揶揄されている。

 また、優秀な学生の争奪戦の側面も否めない。この点は試験日から窺える。2010年に「北約」と「華約」の両連盟は同じ日に試験を実施したが、受験生や親たちの不満が募ったため、翌2011年は1日ずらした。しかし、今年は再び同日実施となった。出生率の低下、海外留学願望の高まり、「高考」の回避などを背景に、大学受験の志願者数が2008年の1,050万人をピークに、2011年には933万人へと減少している。

■何のための試験か、を考える...■

 「自主招生」はある程度役割を果たしているが、改善の余地も大きい。大学の人材選考・育成の特徴を一層発揮させ、受験生の学校・専攻の選択の自由度を高める内容にすることができれば、中国の高等教育の質とレベルの向上につながる。これは、高成長を遂げている一方、所得格差など多くの国内問題を抱えながら、激化するグローバル競争にさらされている中国が経済大国にとどまらず経済強国になるためにも必要なのかもしれない。

 (李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

 【執筆者略歴】
 1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13 年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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