中国面面観

人民元物語

2012.07.04

 中国の人民元と日本円の直接取引が6月1日から始まった。これまで元と円の交換はほとんどドルを介在していたため、直接取引で企業のコストが軽減される。これをきっかけに日中間の貿易や投資が一層拡大することに期待したい。ところで、日本では中国の通貨のことを「人民元」と呼んでいるが、中国では「人民元」と言わないってご存じ?また、3元紙幣の存在と消滅の理由、コレクション対象としての人民元の値段などは?

■「人民幣」+「元」=「人民元」?■

 中国では自国の通貨を「人民幣」(Renminbi)と呼んでおり、その基本単位は「元」(Yuan)で、その下に1/10の単位「角」、1/100の単位「分」がある。

 一般的に、ある国・地域の通貨に対する呼び方は、日本円、米ドル、韓国ウォンのように、「国名」+「通貨名」または「通貨単位」とする場合が多い。世界の通貨コードを決める国際標準であるISO4217においても、国別コード+通貨単位コードというルールに基づき、人民元のコードはCNYで、日本円はJPYとなっている。

 これらに合わせるのであれば、「中国元」あるいは「中国人民幣」と呼ぶべきである。実際、一部の日本の研究者や研究機関の論文や報告書では「中国元」が使われていた。なぜ人民元になったかは定かでないが、おそらくメディアによる造語が定着したと推測される。

■人民元の誕生■

 人民元はまだ内戦が続いた1948年12月1日に発行された。現在の中華人民共和国が成立する10ヵ月前のことだ。当時、共産党の支配下地域(解放区と呼ばれる)では様々な通貨が使用され、各解放区間の経済交流の妨げとなっていた。共産党は1949年1月に中国人民銀行(現在の中央銀行)の設立と人民元の発行を予定していたが、前倒しにした。

 初回発行の人民元は10元、20元、50元の3種類の紙幣。中華人民共和国の成立前なので、その前の国号である「中華民国」が印字された。1953年12月までの間、1元札から5万元札まで12種類の額面で合計62種類のデザインが発行され、第1版の人民元となった。

 内戦および建国初期でインフレが深刻なだけに、額面の大きいものが多い。1955年3月1日に第2版の人民元が発行され、同年5月に第1版の流通が停止した。これまで合計5版の人民元が発行されている。

■幻の3元紙幣■

 世界の紙幣のほとんどは、額面が1、2、5及びその10の累乗倍単位で、中国も基本的にそれに当てはまるが、唯一の例外は第2版人民元の3元札である。

 当時、ニセ札が横行し、その悪影響を軽減するため、政府は5元以上の紙幣の発行を一時中止したが、1元札だと額面が小さすぎるため、3元札の発行を決めた。また、中国国内には紙幣印刷の設備や原料が足りないため、3元、5元、10元の3種類についてソ連に印刷を依頼した。

 しかし、1960年頃、中ソ関係の悪化を受け、中国政府はソ連から原版等を取り戻し、1964年にソ連製の紙幣を回収した。その後、3元札は二度と発行されることがなかった。

■「YUAN」がない99年版人民元■

 現在、流通している人民元は第4版と第5版で、第5版はさらに1999年版と2005年版の2種類がある。1999年10月1日に第5版人民元が発行されたが、2005年8月31日に1元札を除いて99年版とほぼ同じデザインのものがまた発行された。

 中国人民銀行は、偽札防止技術や機械読み取りに対応する機能の強化のほか、裏面のデザイン変更として人民元の単位である「元」の英語表記「YUAN」を付け加えたなどを理由として挙げた。

 しかし、中国国内では、偽造防止技術等の強化とはいえ、わずか数年で新紙幣を発行するのは不自然でコストも大きいとの見方が少なくない。最大の理由はむしろ、人民元の国際化を進めているのに、肝心の通貨単位の英語表記「YUAN」が抜けたという設計上のミスにあるのではないかとされている。

 実際、同じ99年版紙幣でも、最も遅く2004年7月30日に発行された1元紙幣にはYUANの表記が付け加えられ、この1元紙幣だけ2005年改訂版が発行されなかったので、99年版は設計ミスという疑惑がかけられたわけだ。

■コレクション対象としての人民元■

 引退した第1~3版人民元はコレクションアイテムとして脚光を浴びている。特に第1版の希少価値が高い。流通期間が短く、しかも全流通量の98%が回収された上、発行時の厳しい社会環境により、紙の質が悪く、毀損しやすいため、きれいな状態で残されているものは極めて稀である。

 現在、1枚単体で販売価格は最低でも千元前後で、62枚全部揃ったセットは2000年頃に20万元前後、最近では400万元にまで跳ね上がった。そのうち「12珍品」と称される12枚は、1枚1万元以上の値がつけられ、その中に少数民族地区で発行されたモンゴル文字やウイグル文字の入ったものは特に入手が困難で、5千元札の「蒙古パオ」は70万元前後に達している。

 第2版のうちソ連印刷の3元札、5元札、10元札は希少価値が高い。特に10元札については、月給数元しかない時代に発行されたため流通量が非常に少なく、1枚20万-30万元の売値がつけられている。

 1962年に発行された第3版は、流通期間が約38年と長く、量も多いため、単体で数十元か数百元にとどまっている。ただ、その中に3大珍品と呼ばれる「背緑」、「背緑水印」、「紅一角」は別格である。

 裏面が緑色の「背緑」1角(10分の1元)紙幣は、似たような色合いの2角紙幣と混同されやすいため、わずか14ヵ月で使用中止となった。五角星の透かしの入った「背緑水印」1角紙幣は発行量がさらに少なく、4万-5万元の値がつけられ、第3版の中で最も高額である。

 「紅一角」(赤い1角紙幣)は、表面に群衆が右方向に向かって前進するという絵柄のため、当時の政治環境から右傾という過ちを犯したとバッシングを受け、回収され、残存数が少ない。かつて路線を誤った「紅一角」だが、今やコレクション界の寵児となった。

 第4版は流通しているが、実際あまり見かけなくなっており、一部はすでにコレクションの対象になっている。ただ、新札の100枚連番といったものが中心である。第5版の99年版はすでに発行が中止された上、「YUAN」表記がない最後の紙幣になる可能性が高いことから、昨年頃から高いプレミアムがつけられ、50元札は一時180元前後まで値上がりした。

 昔、観光や仕事で中国に行って人民元を持ち帰った方は、家や会社の中を今一度確認してみては?思わぬお小遣いになるかもしれない。中国関連の仕事をしてきた筆者は、古い出張用財布を開けたら、第3版の10元札、99年版の100元札が現れた――。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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