中国面面観

「盂蘭節」

2012.09.21

 野暮用で香港に来ている。夜、地元の庶民の街を歩いたら、歩道に所々ロウソクや線香、紙の燃えカスがあった。「盂蘭節」なのだ。

■旧暦7月はあの世の扉が開く■

 香港では、旧暦7月は「盂蘭節」に当たる月で、「鬼節」または「鬼月」とも呼ばれる。中国語の「鬼」(中国語でguiと発音)は、日本語でいう「鬼」(おに)というより「亡霊」「幽霊」「お化け」の方が近い。旧暦の7月1日(中国では今年は8月17日。日本では8月18日と1日ずれる)にあの世の扉が開き、亡霊たちがこの世に現れ、同末日(今年は9月15日)に帰り、扉が閉まるといわれる。この間に様々な祭事が行われ、それが「盂蘭節」である。

■仏教と道教の二つの物語■

 「盂蘭節」は、仏教と道教の二つの説に由来する。仏教では、目連という名のお釈迦様の弟子が、死後に餓鬼道に落ち逆さまに吊るされて苦しむ母親(生前の行いが悪かったようで)を救うため、お釈迦様の教えに従い、7月15日に野菜や果物をお盆に盛り、大勢の僧侶の功徳をたたえることによって、母親を救い出したという「目連救母」物語がある。

 そこで、旧暦7月15日に「盂蘭盆会」を催し、お釈迦様と僧侶の供養をし、地獄に落ちた霊を救い、親や先祖に恩返しをするというのである。サンスクリット語で「盂蘭」は「倒懸」(逆さまに吊るされる)、「盆」は野菜や果物を盛る救いの器で、「盂蘭盆(ullambana)は倒懸の苦しみから霊を救うという意味になる。日本のお盆もこれに由来するそうだ。

 一方、道教では、旧暦の1月15日を「上元」、7月15日を「中元」、10月15日を「下元」といい、「上元」は幸福を祈願する日、「中元」は罪の軽減・赦免を祈願する日、「下元」は厄除けを祈願する日とされる。また、7月1日にあの世の扉が開くため、子孫のある霊は家に戻って供養を受けるが、帰る家のないさまよえる霊はあちらこちらブラブラするので、人間に悪さをしないよう供養する。それらの行事を「中元節」という。

■仏・道・儒が融合した祭事■

 もともと中国にあるのは道教の「中元節」だが、仏教の「目連救母」物語が親孝行を重んじる儒教の考えと合致するため、6世紀前半に当時の皇帝が「盂蘭盆会」をはじめて執り行った。その後、仏教と道教の盛衰が繰り返す中、仏教の「盂蘭盆会」と「中元節」の亡霊供養の行事が融合して、「盂蘭節」となった。今日でも、華人社会特に香港、マカオ、台湾では、「盂蘭節」(「中元節」)は非常に重視されている。

■現代の行事~「焼街衣」と「盂蘭勝会」■

 香港では、「盂蘭節」の行事として「焼街衣」と「盂蘭勝会」がある。歩道の車道側に食べ物を供え、紙で作ったお金や衣服を燃やし、さまよえる亡霊たちに送るのが「焼街衣」である。焼街衣は基本的に旧暦7月1日から14日(今年は8月17~8月30日)頃までに行い、先祖の供養はそれ以降の主に「盂蘭勝会」の期間に行われる。

 香港には約50カ所の「盂蘭勝会」の事務局があり、それぞれの町内の公園や広場で3日間「盂蘭勝会」を催す。初日には神を招く「請神」の儀式を行い、夜には3日連続で「神功戯」という中国の伝統的なオペラの屋外ステージを開き、最終日には紙製品の供え物を燃やし、米を配る(「派米」という)などのイベントがある。ちなみに、香港の盂蘭勝会は2011年に中国の「国家級非物質文化遺産」に登録された。

■多彩な紙製の祭事用品■

 「盂蘭節」に欠かせないのが紙で作った祭事用品(中国語で「紙扎」。紙幣の場合は「紙銭」)。その種類は実に多彩で、紙幣、コイン、金・銀の延べ棒、靴、衣服、家電製品、麻雀、携帯電話、パソコン、高級外車、一戸建ての家、使用人などがある。ちなみに紙幣は、冥通銀行(冥土銀行)発行のものである。こうした紙製品(家など大型の物の場合、骨組みに木が使われる)は、お葬式などでも使われる。故人があの世で不自由なく過ごし、子孫にご加護を願って祭事の終盤に燃やして送るのだ。

■値上げしても売れる「紙扎」■

 香港の現地報道によれば、今年の紙扎品(ほとんどが中国本土製)は、人民元レートの上昇と中国本土の人件費の上昇を受け、1割程度の値上げになったが、売れ行きにはほとんど影響がないという。景気が良い時は、これまでのご加護に感謝すると共に、今後の更なるご加護を祈るためたくさんの紙扎を供える。景気が悪い時、先祖のご加護を授かるよう紙扎をたくさん供える。紙扎は景気にあまり左右されないようだ。あの世では、今の中国のように景気減速の懸念はないかもしれない。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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