中国面面観

「30年の歳月」

2012.10.16

 私事で恐縮だが、去る9月で来日して30年となった。30年という歳月、地球が太陽のまわりを30周しただけの話だが、人間社会では数えきれない出来事がある。私が生まれた中国本土、育った香港の当時の2つのビッグイベントをしばし振り返ってみたい。

■「鉄の女」のつまずきから30年■

 1982年は香港にとって節目の年である。当時、香港はまだイギリスの植民地だった。テレビの放送終了時には、イギリス国歌が流れ、エリザベス女王の画像が映り、切手や硬貨には女王の肖像が飾った。1997年7月1日に、香港は特別行政区として中国に返還されたが、返還を巡る中国とイギリスの交渉が始まったのは1982年なのだ。

 1982年9月22日、「鉄の女」と呼ばれる当時のイギリス首相マーガレット・サッチャー女史が中国を公式訪問し、香港の将来を巡る中英交渉の幕を開けた。フォークランド紛争の勝利で意気揚々に中国に乗り込んだサッチャー首相は、24日に北京で中国の最高指導者のトウ小平(当時の肩書は軍事委員会主席)との会談を終え、人民大会堂の正面石段を降りる途中でつまずいて転倒しそうになったという有名な話がある。彼女は北京へ来る前、東京に立ち寄った時、体調を崩し風邪をこじらせていたそうだ。ただ、香港のメディアなどは、このつまずきはイギリスの敗北の予兆だとかと解釈した。実際、サッチャーとトウ小平のやりとりがかなり激しく、その後の実務者レベルの交渉も順調ではなかった。

■30年で約30倍になったハンセン指数■

 当時、香港の先行きに対する不安感から投資家の信頼が揺らぎ、香港ドル、株式市場、不動産価格は大幅な下落を余儀なくされた。代表的な株価指数であるハンセン指数は、1982年9月下旬に1週間のうちに25%も下がり、12月2日にはこの年の最安値678.30ポイントをつけた。変動相場制をとっていた香港ドルも1ヵ月間に12%ほど急落した。

 その後も香港ドルは不安定な動きが続いていた。この事態を受け、香港政府は翌1983年10月に、香港ドルを米ドルに連動させるという米ドルペッグ制(カレンシーボード制)の導入に踏み切った。ドルペッグ制の導入後、通貨が安定し、この30年間の香港の繁栄に大きく貢献している。

 株式市場のほうでは、1984年9月に中英両国が合意文書に調印するまでの間、中英交渉のニュースに一喜一憂し、ハンセン指数は600ポイント台後半から1,000ポイントの間の動きに終始していた。しかし、こうした苦難を乗り越えて30年後の今、ハンセン指数は21,000ポイント近辺で推移し、ほぼ30倍の上昇になっている。

■中国共産党大会の開催■

 中国本土にとっても30年前の1982年は重要な意義を持つ年であった。その年の9月に中国共産党の第12回全国代表大会(党大会)が開催されたのだ。この頃、党員の人数は3,966万人(1981年末)だったが、現在は8,260万人(2012年6月)とほぼ倍増である。各地域の党員の中から選ばれた代表が北京に赴き、党大会に参加するのだが、12回党大会の代表人数は1,545人で、今年11月8日に開催される予定の第18回党大会では2,270名に増えた。

 第12回党大会では、生産額4倍増目標が掲げられた。1980年の工農業総生産額7,100億元を2000年には2兆8,000億元にすること、すなわち20年間で4倍増を実現するという近代化の目標である。この目標はその後、1995年に5年前倒しで達成し、2000年には約6倍増となった。

 また、12回大会で党の新しい指導部が誕生した。中国の事実上の最高意思決定機関である政治局常務委員会の委員には胡耀邦、葉剣英、トウ小平、趙紫陽、李先念、陳雲の6名が就任した。今では、この6名はすでに故人となったが。政治局常務委員の人数は、この後の第13回党大会までおおむね5~6人で構成されたが、第14回党大会に7名に、第16回党大会に9名に増え、バランス人事、集団指導体制の色彩を強めた。

 30年後の今、第18回党大会は間もなく開かれ、指導部の大幅な入れ替わりが予定される。党のトップである総書記の有力候補は習近平である。1982年の党大会で、政治局常務委員より1つ格下の中央政治局委員に選ばれた彼の父親の習仲勲は、30年後に自分の息子が党の頂点に立つことは想像していただろうか。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金 融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際 金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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