中国面面観

「大転換点に差し掛かっている中国」

2012.10.16

 最近、中国についてのあまり明るい話題がない。経済面では、過去30年間にわたって年平均2ケタの伸び率で続いてきた高成長に息切れ感が強まり、足元の実質GDP成長率が8%を下回る展開となっている。上海株式市場の株価も低迷を続けている。政治面では、次世代の共産党最高指導部入りが有力視されていた重慶市の共産党書記だった薄熙来氏が失脚した「重慶事件」を契機に、第十八回共産党大会の開催を控え、権力闘争が再び激化しているのではないかとの懸念が高まっている。社会面では、環境汚染や土地の立ち退きをめぐる抗議運動が多発し、汚職や腐敗、社会保障、言論統制などに対する市民の不満の声が高まっている。

■再燃するチャイナ・リスク■

 こうした中、全国の百を超える都市で大規模な反日デモが起き、一部の地域では日本メーカー製の乗用車や日系のデパートなどが破壊されるなど、暴動化に至った。さらには国交正常化40周年を祝うイベントがキャンセルされ、日中関係が一気に冷え込んだ。反日デモは、日本政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化したことに起因するが、中国をめぐる内外情勢からみれば、90年代前半のトウ小平氏の「南巡講話」を皮切りに加速した中国の改革・開放、2000年代前半のWTO加盟の実現を起爆剤に本格化した「チャイナ・シフト」など、世界の期待と注目を集め、わが世の春を謳歌していた頃と比べて、今の中国はチャンスというよりもリスクとして警戒されても不思議ではない状況にある。

 しかし10年後には、あの頃の中国は歴史的な大転換点に差し掛かっていたのかと、振り返ることができるかもしれない。前述した様々な問題点は、経済成長一辺倒の後遺症が顕在化した結果であり、その行き詰まり感を払拭するためには、経済、政治、社会、外交など、既存の制度や慣行を抜本的に見直さなければならないからだ。

■経済一辺倒からの脱皮が急務■

 年内に胡錦涛氏から共産党総書記のポストをバトンタッチされるとみられる習近平氏を待ち受けているのは、文化大革命が終息した1977年あたりと酷似した状況である。当時の指導者たちは、長年続いてきた鎖国政策に終止符を打ち、中国の進路を路線闘争から経済建設へといかに転換させるか、政治生命をかけた大決断を迫られた。同様に、習近平をはじめとする次世代指導部にとって、経済成長のみならず、政治や社会制度の大改革に本腰を入れるのが時代の要請ではないかと考えられる。したがって、政権交代を契機に、ここ10年間停滞してきた改革・開放が再び加速する可能性が排除できない。

■中国はやはり70年代の日本?■

 一方、中国が置かれている現状は、日本人にとって決して目新しいものではないはずだ。2011年の中国の一人あたり名目GDPは5000米ドル前後と、日本の70年代に相当する水準であり、政治や社会をみても類似点が少なくない。1960年7月に発足した池田勇人内閣は「所得倍増計画」を打ち出し、安保改定をめぐる国内の対立を経済成長の方向に転換させ、1億総中流社会を実現させたが、後に経済成長の達成だけが同内閣の業績だったとの評価を受けた。

 一方、池田氏の後任として総理の座に就いた佐藤栄作氏は、「社会開発」と「安定成長」というスローガンを打ち出し、池田内閣の高成長一辺倒路線の修正に乗り出した。公害の深刻化などで市民の抗議運動が激化し、高成長のひずみがこれ以上放置できなくなっていたからだ。また、日米関係の強化、日韓国交正常化、農地補償法、沖縄返還などの難題に取り組むなど、佐藤内閣は池田氏が意識して避けていた政治的な問題の解決に力を注いだ。

■歴史が分かれば未来が見える■

 最近、東京大学名誉教授の中村隆英先生が以前書いた「昭和史」(東洋経済新報社)が文庫化され、再び人気を呼んでいる。この本によると、1968年以降に大学紛争が全国規模で展開された背景には、戦後のベビーブーム期に出生した「団塊の世代」による「管理社会」への不満があったという。高度成長のもとで物心がつき、生活水準の上昇を当たり前と考えていたこの世代は、自己主張が強いという特徴がある。

 また、成田空港建設反対などを掲げて街頭にバリケードを作り、棍棒を振るい、火炎瓶を投げて警官隊と衝突するといった社会問題が持ち上がり、警察官や一般市民をターゲットとする無差別テロも多発した。これは、経済中心の社会で、中年のみならず若者を含めたサラリーマンに、会社人間になる以外の選択肢が残されていなかったことに対する、若い世代の苛立ちが原因の一つと指摘されている。中村先生のご指摘は今の中国にも十分あてはめることができるだろう。

(肖敏捷 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/顧問)

【執筆者略歴】
1988年、文部省(当時)国費留学生として来日、福島大学、筑波大学を経て、1994年から2010年までに証券系シンクタンクに勤務、うち、1999年から2007年までの間、香港や上海を駐在。2010年から2012年まで、独立系資産運用会社に勤務。2010年日経ヴェリタス人気ランキングのエコノミスト部門で5位、著書や論文が多数、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。ニーズ キャピタルデザイン顧問、著名エコノミスト。

中国株取引のリスク
株価や為替の変動等により損失が生じるおそれがあります。
中国株取引の手数料について
中国株の手数料は、国内手数料、現地手数料、為替手数料と3種類の手数料があり、このスペースに表示するのが難しいため、詳細は中国株の「手数料とリスクについて」でご確認ください。
中国株は、クーリング・オフの対象にはなりません。
詳しくは手数料とリスクについてをご覧ください。