中国面面観

「人民元の国際化、オフショア市場の流動性が焦点に」

2012.11.21

 オフショア人民元市場とは、中国本土以外の地域に誕生した人民元マーケットを意味し、香港を中心に発達した。香港のオフショア人民元市場は、主に人民元建て貿易決済によって流動性が供給されていた。つまり、中国本土への輸出(中国本土にとっては輸入)によって人民元が蓄積し、香港のオフショア人民元市場は拡大してきた。

 だが、中国の貿易額が大幅に鈍化するなか、これまで人民元建て貿易決済に頼ってきたオフショア人民元市場の流動性に、今後も拡大する余地はあるのかという懸念が強まっている。クロスボーダーな人民元の資本取引チャネルを増やさなければ、人民元の国際化は大きく遅れるというのだ。

 オフショア人民元市場への資金供給は、上記のような人民元建て貿易決済に大きく依存している。だが、その一方で香港のオフショア人民元市場から中国本土への人民元の“還流”、つまりオフショア市場からの資金流出は、チャネルが多様化している。

 そうしたチャネルの代表格として、中国本土からの輸入にともなう人民元建て貿易決済のほか、香港のオフショア人民元市場の資金を利用した直接投資(RFDI)や適格海外機関投資家制度(RQFII)が挙げられる。

 この結果、香港のオフショア人民元市場への資金供給は比較的難しいが、中国本土への“還流”は容易という「非対称的」な環境となっている。還流チャネルができたばかりの頃、すなわち1年ほど前は人民元建て貿易決済の増勢がすさまじく、香港のオフショア人民元市場は流動性が潤沢だった。しかし、最近は中国本土への輸出にともなう人民元建て貿易決済が伸び悩み、オフショア人民元市場の発展は停滞気味だ。

 こうしたなか台湾では、人民元建て決済の導入などの政策が明確となり、現地でのオフショア人民元業務が今後拡大する可能性が高まった。アセットアロケーションや台湾ドルに対する人民元高への期待などを背景に、人民元預金口座を開設したいという台湾住民は約4割に上るというアンケート結果もある。

 台湾住民、なかでも銀行の富裕層顧客の人民元に対する需要も大きいようだ。中国本土の専門家によると、近い将来にも台湾の人民元預金は2000億元に達するという予測もある(現在、香港の人民元預金残高は約5600億元)。香港で人民元預金口座を保有している台湾の個人や企業が、今後は香港にある人民元預金を台湾に移す可能性もある。そうなれば、香港のオフショア人民元市場から資金流出し、流動性の低下が加速することになる。

 オフショア人民元市場の流動性の低下は大きな問題だ。流動性が低下すれば、オフショア市場の人民元金利が上昇する恐れがある。このため香港のオフショア人民元市場に資金を供給し、流動性を高める新しいチャネルを導入することが必要となる。

 こうした状況を背景に、中国本土や香港では、人民元のクロスボーダー取引をめぐる規制緩和が議論されている。例えば、海外の銀行が中国本土の銀行間市場で中短長期の人民元資金を獲得し、海外に送金することを認めるなどが提案されている。以下、主な提案をまとめてみた。

【1】認可された海外の銀行が本土の代理銀行(例えば、中銀香港の場合、その親会社である中国銀行)を通じ、中国本土の銀行間市場から人民元を調達し、海外に送金することを許可する。銀行間での資金調達規模は、当初段階で代理銀行の預金残高の1%を超えないと設定し、その後は2%あるいはそれ以上と徐々に緩和する。資金調達の期限は1カ月からスタートし、6カ月、12カ月と徐々に長期化する。

【2】すでに中国本土の銀行間債券市場における投資枠を獲得した銀行に対し、保有する中国本土の債券でレポ取引(債券を担保に、一定期間にわたり資金を借り入れる取引)を行うことを許可する。これにより、これらの銀行はより多くの人民元を獲得し、海外に送金することができる。

【3】「点心債」(オフショア人民元市場で発行される人民元建て債券)を保有する海外銀行に対し、点心債を用いて中国本土の銀行間市場でレポ取引を行い、それによって調達した人民元資金を海外に送金することを許可する。

【4】海外銀行が中国本土の銀行間債券市場で譲渡性預金証書(CD)を発行し、それによって調達した人民元の海外送金を許可する。当初は許認可手続きを設け、その規模をコントロールする。

【5】海外銀行が中国本土の銀行間債券市場でパンダ債(非居住者が中国本土で発行する人民元建て債券)を発行し、それによって調達した人民元の海外送金を許可する。

【6】香港住民に対する人民元への両替規制を緩和する。例えば、両替の限度額を現在の1日につき2万元から10万元に引き上げる。

【7】本土の個人と企業による米ドルの海外送金には限度額が設けられている。この米ドルの送金限度額の範囲内で、人民元の送金も認可する。例えば、個人一人あたり年間5万ドルの送金限度額の場合、最大で32万人民元(5万ドル×ドル元レート)の海外送金を可能とする。企業の場合、100万ドルの海外送金の認可枠を持っていれば、最大630万元の海外送金を認める。

【8】台湾の人民元とその他のオフショア市場とのクロスボーダー取引を制限しないように、各当局が協調することが望ましい。そうすれば、オフショア人民元市場の金利設定の有効性が確保される。また、香港のオフショア人民元市場にさらに多くの流動性が供給するチャネルができた後、一部の人民元を台湾やその他のオフショア人民元市場に分散させる。

 このような提案が実現されれば、より多くの流動性が香港のオフショア人民元市場に効率よく流入することが可能となろう。現状から見て、こうした提案に基づく改革を実施する下地は整っているようだ。すでに香港のオフショア人民元市場の金利は中国本土に近づくかたちで上昇。一部の金融商品は利回りが中国本土よりも高くなっている。こうした状況は、人民元が中国本土から香港のオフショア市場に流れる要因になっている。

 また、香港以外のオフショア人民元市場は流動性不足に悩まされており、香港から人民元を調達するニーズがある。台湾における人民元の新規需要は改革を進める契機となろう。

 このような改革が中国の金融・通貨政策に与える影響については、コントロール可能だと見られる。人民元レートが安定しており、香港のオフショア人民元市場と中国本土の金利差が縮小している現状では、中国本土の銀行間金利に大きなインパクトを与えるような大規模なクロスボーダー取引が発生する可能性は小さい。また、中国本土における海外銀行によるCDやパンダ債の発行が許認可制であれば、制御不能な人民元のクロスボーダー取引が発生する心配もない。

 このような改革案は大きな意味を持つ。資本取引の自由化は中国の目標の一つであり、議論の段階にとどまるべきではなく、どこかでスタートさせなければならない。実務面でも改革のニーズは高い。オフショア人民元市場の流動性が増せば、新たな金融商品が生まれ、人民元投資に関心を寄せる世界中の投資家のニーズを満たすことができる。また、人民元建て貿易決済が拡大し、オフショア人民元市場の一層の発展を促すことにもつながろう。

(吉永東峰 株式会社ニーズ キャピタルデザイン 代表取締役)

【執筆者略歴】
 1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。

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