中国面面観

「豪腕総理」の誕生で中国の都市化が加速するのか?

2012.12.14

 中国共産党第18回全国代表大会(十八大)が閉幕し、11月15日に開催された中国共産党の第十八期中央委員会・第一回全体会議(一中全会)で、習近平氏が総書記のみならず、中央軍事委員会の主席にも選出された。2002年秋に開催された「十六大」で、江沢民氏は胡錦涛氏に総書記のポストを明け渡したものの、中央軍事委員会主席の権力を手放したのはその2年後だった。今回、胡錦涛氏の「強い意向」で完全引退が実現し、共産党と解放軍の最高指導者として習近平氏体制が誕生したのは「十八大」最大のサプライズだといえる。

 一方、中央政治局常務委員会の人数が従来の9人から7人に減らされたのは、政策決定の効率を高める狙いがあるとみられる。15日午前に7人の中央政治局常務委員が記者会見に姿を現した際、トップで登壇した習近平氏のすぐ後に続いたのは李克強氏だった。7人のうち、習近平氏のほかに李克強氏も再選され、2013年春に開催予定の全国人民代表大会(全人代)で、温家宝氏の後継者として首相(国務院総理)に就任する見通しだ。

 ところで、首相はこれまで、政府部門では国家主席に次ぐナンバー2のポジションであるが、中央政治局常務委員の中ではナンバー3の存在にすぎなかった。例えば、公の場で、胡錦涛氏の後に出てくるのは全人代委員長の呉邦国氏、その次にようやく温家宝首相という序列だった。来春、張徳江氏が全人代委員長に就任すると伝えられているが、今回の中央政治局常務委員の中では李克強氏に次ぐ3番目である。この序列の変化から読み取れるのは、温家宝首相以上の政治基盤を獲得できたことによって、中国経済のかじ取りを任される李克強氏が「豪腕総理」となる可能性が高いことであろう。

 早速、先ごろの会議では、地方政府幹部の原稿の棒読みを制止したり、改革こそ中国経済にとって最大のボーナスだと強調したりするなど、その豪腕ぶりをみせはじめている。過去10年間、中国の経済規模が世界第2位に拡大するなど、胡錦涛~温家宝政権の実績は否定できないが、社会の安定を優先するあまり、政治や経済にかかわる大きな改革にほとんど進展がみられなかったのも否定しがたい事実だ。したがって、習近平~李克強政権の発足に伴い、これまで中国経済の高成長の原動力であった改革・開放が再加速するのではないかとの期待が高まっている。

 こうした中、李克強氏が再三強調している「都市化」に注目すべきであろう。13億人の大半がまだ農村人口であり、経済発展に伴い、農村部から都市部への労働力移転が続いている。国家統計局によると、2010年時点で出稼ぎなどにより約3億人が都市部へと流入している。しかし、学校、病院、住宅、交通など、大規模な人口流入を受け入れるだけのキャパシティが備わっていないため、都市機能がパンク寸前に追い込まれている大都市も少なくない。したがって、都市基盤の整備や拡張が都市化の推進に不可欠であろう。

 一方、李克強氏が目指す「都市化」は土木事業だけではない。都市部に流入する農村戸籍の保有者に都市戸籍保有者と同じ権利を与える、いわゆる「人間の都市化」もより重要な目標だと考えられる。具体的には、教育や医療、住宅などの公共サービスを受ける権利、就業や企業における機会の平等を享受する権利などにおいて、戸籍による差別を縮小あるいは撤廃することが不可欠であろう。「人間の都市化」が進展しないかぎり、いくら立派な都市を造成しても、所得格差が縮まず、社会秩序の安定も実現できないはずだ。

 ある意味では、過去30年間、中国の高成長は沿海部や大都市といった半分の活性化によって達成できたものだといえる。既得権益者からの強い反対もあって先送りされてきた戸籍制度の改革及び所得再分配改革などの難題にどう挑むのか?「豪腕総理」として期待されている李克強氏が都市化の推進に成功し、残る半分がキャッチアップを始めれば、中国経済の成長余地を過度に懸念する必要は当分なさそうだ。

(肖敏捷 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/顧問)

【執筆者略歴】
 1988年、文部省(当時)国費留学生として来日、福島大学、筑波大学を経て、1994年から2010年までに証券系シンクタンクに勤務、うち、1999年から2007年までの間、香港や上海を駐在。2010年から2012年まで、独立系資産運用会社に勤務。2010年日経ヴェリタス人気ランキングのエコノミスト部門で5位、著書や論文が多数、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。ニーズ キャピタルデザイン顧問、著名エコノミスト。

中国株取引のリスク
株価や為替の変動等により損失が生じるおそれがあります。
中国株取引の手数料について
中国株の手数料は、国内手数料、現地手数料、為替手数料と3種類の手数料があり、このスペースに表示するのが難しいため、詳細は中国株の「手数料とリスクについて」でご確認ください。
中国株は、クーリング・オフの対象にはなりません。
詳しくは手数料とリスクについてをご覧ください。