中国面面観

「全人代と新年度」

2013.03.25

 黄砂やPM2.5が漂う中、中国の首都北京では今年も全人代が開催された。全人代は全国人民代表大会の略で、日本の国会に当たり、毎年3月上旬頃に開催される。今年の日程は3月5~17日の13日間である。ちなみに、中国では、全国人民代表大会の略は「全国人大」または「人大」で、「全人代」と言わない。全人代では、政府報告やさまざまな法案が議決され、予算案もその一つである。「全人代で予算案が議決される」という一見すると何の変哲もない記述だが、実は奇妙な点がある。それはいったい何でしょう?(ヒント:中国の会計年度は暦年ベースの1~12月)。

■会計年度と予算成立時期のズレ■

 お分かりでしょうか?そう、中国では新しい会計年度がスタートして、2カ月以上経ってからその年度の予算案が全人代(国会)で審議・可決されるのである。日本の2012年度の予算成立は14年ぶりに新年度の4月にずれ込み、2013年度の予算も前年末の衆院解散・総選挙が行われた影響で5月にずれ込みそうだが、いずれも特殊要因による。中国の場合、毎年2カ月以上ずれ込むのが恒例になっている。日本で言えば、新年度の6月頃になってようやく予算が成立するということである。中国の会計年度と予算成立の時期が毎年これほどずれると、会計年度が1~12月に設定されている意味も問いたくなる。

■会計年度の意味■

 そもそも会計年度は、予算を執行するための一定期間であり、その期間内の収入・支出を整理分類し、収支状況を明確にし、財政の健全性を確保するためのものである。会計年度がなければ、予算の執行に期限がなくなったり、決算を立てる期間があいまいになったりするなど、予算・決算を行うことが無意味となってしまう。会計年度は、会計上非常に重要な要素である。日本では財政法第12条により会計年度独立の原則が設けられている。

 なお、会計年度の始期と終期は、国によって異なる。暦年(1~12月)を採用しているのは、中国のほか、ドイツ、フランス、ロシア、韓国など、日本と同じく4月~翌3月を採用しているのは、イギリス、インド、カナダなどがある。また、米国、タイなどは10月~翌9月、ギリシャ、ノルウェー、スウェーデンなどは7月~翌6月である。

■ズレへの対処■

 中国の国家予算は、予算法及びそれを受けた実施条例に基づいており、中央予算と地方予算で構成されている。中央予算は中央政府部門などを対象とする予算で、地方予算は省・市・県など各レベルの地方政府の予算である。中央予算は毎年3月の全人代において審議・可決されるが、地方予算については、通常1~3月の全人代開催前にそれぞれの地方人代(省人代、市人代、県人代など)で各レベルの政府予算が審議・可決される。

 このように中央予算は、新年度の開始と予算成立時期に2カ月強のズレが生じている。実際の予算執行に至っては、予算案の可決後、財政当局から各中央政府部門へ、各中央政府部門からそれぞれの下位組織への通達といった手続きが必要であり、これにおおむね1カ月半かかるので、末端の執行機関に資金配分が行われるのは、新年度に入って約4カ月経過してからである。つまり、毎年度の最初の数カ月は、予算の空白期になるわけだ。

 このズレに関しては、予算法と同実施条例において、予算可決前の当年度の歳出は「前年同期に使用した人件費等の正常な運営にかかる支出のみ可能」と定められている。しかし、現実的に、4カ月もずれているので、予算法と同実施条例を厳格に順守すると、行政機能に支障をきたすため、各政府機関は将来配分されるはずの資金を見越して様々な事業を進めているのが実態である。

■2種類の提案■

 このように会計年度の最初の数カ月間の収入・支出の多くは、事前に法的な審査・認可の手続きを経ていないものである。これでは、予算の拘束力を損ないかねない。この問題の解決について、中国の学者等によって2種類の方法が提案されている。一つは全人代の会期の変更で、例えば前年末に前倒しするというもの。もう一つは会計年度の変更で、始期を4月1日または7月1日にずらすというもの。

 しかし、こうした提案は、これまで議論されたことはあるものの、実施には移されなかった。会計年度と予算成立・執行時期のズレは、長年にわたり続いてきたことであり、役人も対処の方法に慣れており、いまさら会計年度を変えるとかえって適応できないというのが理由のようである。また、党大会や旧正月の時期との絡み合いなどから、全人代の時期の変更も難しいとされている。

 世界第二の経済大国が新年度のたびに数カ月もの予算空白期を生じさせ、その空白期の収支が不透明になっていることは不適切と言わざるを得ない。経済成長に伴い、中国の国家予算の規模は今後ますます拡大していこう。長年の慣例を理由にせず、予算の透明性を高め、規律ある財政運営を進め、ひいては予算執行のあいまいさに伴う腐敗や汚職を軽減するためにも、会計年度と予算成立・執行のズレをいち早く解消すべきだと思う。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
 1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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