中国面面観

中国は「くたばれGDP」の段階に突入するのか?

2013.03.25

 中国の国家統計局によると、2012年の実質経済成長率は前年比7.8%だった。これは欧米や日本などの先進国のみならず、インドなどの新興国に比べても相当高い水準であるにもかかわらず、グローバル市場に大きな衝撃を与えた。

 中国の経済成長率は1999~2011年にわたり、変動幅は大きかったものの、8%を下回ったことは一度もなかった。リーマンショックに起因する百年に一度と言われたグローバル金融危機が起きた2008年と2009年ですら、それぞれ9.6%と9.2%のプラス成長を達成した。

 だが、2012年は13年ぶりの8%割れ。もともと政府は2012年の成長率見通しを7.5%としており、想定内の展開とはいえる。だが、4-6月期から四半期ベースで8%を下回るという現実に直面し、高成長の旗印である8%成長が実際に途絶えたのは、やはりショッキングな出来事といえよう。

 しかし、本当に8%成長が止まったのか、目を疑いたくなる統計がある。政府によると、中国には省、自治区、直轄市が計31、そして香港、台湾、マカオを含め総計34の地方自治体があるが、経済統計は通常、前者の31の地方自治体を対象とする。日本では都道府県別の県内総生産(GPP)が発表されているが、東京都や大阪府などのGPP成長率がどのくらいなのか、一部の関係者を除き、ほとんどの国民は関心がない。一方、中国では、各地方自治体がそれぞれの国内総生産(GDP)の名目値と実質伸び率を発表し、どこが一位になるのか競い合っている。

 2012年の地方自治体別の実質経済成長率をみると、ほとんどが二桁を達成。一桁成長は7地方自治体で、うち全国の成長率を下回ったのは北京と上海だけだった。また、国家統計局が発表した全国の名目国内総生産額は52兆元であったのに対し、地方自治体ごとの数字の合計はこれを5兆元上回る。日本でも県別総生産の合計と全国の国内総生産額は一致しないが、その誤差はごく小幅に留まっている。中国で国内総生産規模が一番大きい広東省にほぼ匹敵する5兆元もの差は、誤差で片づけられる話ではない。

 しかし、より懸念すべきなのは、地方政府の成長競争がもたらした弊害がますます深刻化していることであろう。具体的には、2012年の固定資産投資額はGDP総額の7割に相当する規模まで膨らみ、投資に依存する経済体質が一段と強まった。北京などで大気汚染が極度に悪化し、国民の日常生活が著しく脅かされているなどが挙げられる。

 1970年5月に公害問題など高度成長の陰に焦点を当てた朝日新聞の連載記事が大きな話題を呼んだが、そのタイトルは「くたばれGNP」という衝撃的なものであった。40年後の今日、中国も「くたばれGDP」の段階に突入しようとしている。この意味では8%を下回るのは、中国経済が量より質への軌道修正に差し掛かる一つの大きな転換点として歓迎すべき出来事といえる。当然、成長率の高さではなく、空気の綺麗さで競い合うべきだと、地方政府に対する国民の監視の目もますます厳しくなってくるであろう。

(肖敏捷 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/顧問)

【執筆者略歴】
 1988年、文部省(当時)国費留学生として来日、福島大学、筑波大学を経て、1994年から2010年までに証券系シンクタンクに勤務、うち、1999年から2007年までの間、香港や上海を駐在。2010年から2012年まで、独立系資産運用会社に勤務。2010年日経ヴェリタス人気ランキングのエコノミスト部門で5位、著書や論文が多数、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。ニーズ キャピタルデザイン顧問、著名エコノミスト。

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