中国面面観

中国銘茶『明前龍井茶』の異変

2013.06.04

しばらくの香港滞在から東京に帰ってきた。この時期に中国や香港に行くと、必ず買うものがある。中国茶の西湖龍井の新茶である。ちょうど清明節(4月5日頃)の前に摘まれた「明前茶」が出回る頃で、ほんのり甘い香りと若々しい味が飲む人をほっとさせる。特に筆者にとっては、原稿の執筆・締め切り時や、揺れ動く市場動向を観察する時に、気持ちを落ち着かせてくれる逸品である。そして今年は、その新茶が去年より安くなったのも嬉しい。

■緑・白・黄・紅・青・黒―中国の六大茶類■

 中国茶は、細かく分類すると数千種を数えるが、茶葉の色や浸出したお茶の色により、緑茶・白茶・黄茶・紅茶・青茶・黒茶の六大茶類に分けられる。日本でもよく知られる烏龍(ウーロン)茶は青茶、プーアル茶は黒茶に属し、龍井(ロンジン)茶は緑茶の代表格である。

 六大茶類のうち、緑茶は中国本土の中国茶の消費量の約7割を占め、最もポビュラーである。中国の緑茶は、製造工程が日本の緑茶とほぼ同じだが、最初の加熱処理において、日本緑茶は蒸すのが主流であるのに対し、中国緑茶のほとんどは茶葉を蒸さずに窯炒りする手法を採る。このため、中国緑茶を淹れた水の色は日本緑茶に比べ薄目で、渋みも少ないのが特徴である。

■中国緑茶の頂点である「明前龍井茶」■

 中国浙江省杭州市の西湖南西の龍井村周辺で西湖龍井(ロンジン)茶が産出される。茶摘みの時期は3月中頃から5月初まで4回に分けて等級別に摘み取る。

 清明節(4月5日頃)の前に摘まれ、製茶されたその年の一番茶である「明前茶」は最高級品として珍重される。清明節の後、穀雨(4月20日頃)の前に摘まれた二番茶は「雨前茶」と呼ぶ。その後、立夏(5月5日頃)まで摘まれたのは三番茶である。三番茶の約1カ月後に摘まれたものは、ティーバッグやボトル入り茶飲料の加工に使用される。

■高級龍井茶の価格に異変■

 龍井茶は、摘まれた時期や、茶畑の場所、摘まれた茶葉の形と大きさに基づいて等級が付けられる。等級などによって、値段が大きく違ってくる。100グラム当たり100元未満から数百元、贈答用の数千元や数万元などがある。

 今年は、茶摘み工の人件費が昨年の1日当たり65~70元から80元以上に上昇したほか、管理・加工費用も上昇したが、販売価格は逆に下がった。龍井茶の地元では、明前茶の小売価格は軒並み1~3割の下落に見舞われている。

 昨年3月の西湖龍井茶の「茶王」オークションで、500グラム当たり18万元の落札価格がついたお茶がある。その日の金の価格が17万元未満であったことから、中国国内では金よりも高い西湖龍井茶だと話題騒然だった。しかし、今年はオークションが中止になった。

 これらに影響しているのは、茶摘みの時期が例年より早く、産出量が多かったというのもあるが、それだけではない。

■適正価格への回帰■

 昨年、中国の新指導部が無駄遣いを戒める方針を打ち出したのに伴い、公務員の高級贈答品の授受、公費飲食・公用車の私用・公費旅行という「三公消費」が禁止され、その影響が出たのである。ギフト用の高級龍井茶を購入する客が急減したり、購入量が半減したりするなど。

 過去10年くらいの明前龍井茶の小売価格を調べてみると、2001年に500グラム当たり700元だったが、2006年に3,600元へと急騰した後、約3年間ほぼ横ばいで推移していた。しかし、2010年には1万元を突破し、2011年に数万元のものが現れ、極めつけは金より高い落札品である。

 今年の龍井茶価格の下落は、ある意味、政府の政策が奏功したことを反映していると言える。数万元(日本円で数十万円)のお茶には、やはり首をかしげざるを得ない。また、偽物を生み出す誘因にもなりかねない。値段が吊り上げられた商品を締め出し、ひいては適正価格の形成を促すことができれば、将来的に生産者もメリットを享受できよう。そして、筆者にとって、西湖龍井茶をもっと手頃に嗜む機会が増えるのは何よりである。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
 1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

中国株取引のリスク
株価や為替の変動等により損失が生じるおそれがあります。
中国株取引の手数料について
中国株の手数料は、国内手数料、現地手数料、為替手数料と3種類の手数料があり、このスペースに表示するのが難しいため、詳細は中国株の「手数料とリスクについて」でご確認ください。
中国株は、クーリング・オフの対象にはなりません。
詳しくは手数料とリスクについてをご覧ください。