中国面面観

中南海「懐仁堂」での勉強会

2013.08.06

 中国の首都・北京にある故宮博物院(紫禁城)の西側に約100ヘクタール(おおよそ東京ドーム21個分)の広大な敷地がある。ここは中国政治の中枢――「中南海」だ。敷地の一角に佇む「懐仁堂」では、とある勉強会が定期的に開かれる。「政治局集団学習」である。

■中南海「懐仁堂」■

 中南海は、「中海」と「南海」を合わせた呼称で、その北側にある「北海」と共に、13世紀頃に建造された人造湖であり、皇帝の離宮として用いられていた。現在は北海が公園として一般開放されているが、中南海は党・政府の要人の住まいとなり、内閣に当たる国務院や中国共産党中央書記処など党・政府の重要機関の執務室が置かれている。

 中南海には百数十もの大小様々な建造物があり、その中に四人組逮捕など歴史的事件の舞台となった「懐仁堂」がある。「懐仁堂」には1千人ほど収容できるホールをはじめ、会議室などがあり、党・政府の多くの会議やイベントがここで催される。

■政治局勉強会■

 故毛沢東国家主席の生誕109周年にあたる2002年12月26日に、中国共産党・中央政治局委員たちは「懐仁堂」に集い、憲法等に関する勉強会に参加した。それ以来、平均1カ月半に一回の頻度で勉強会が開かれ、今年7月までに合計85回を数えた。内訳では、第16期(2002年11月~07年11月)中央政治局が44回、第17期(2007年11月~12年11月)が33回、昨年11月に発足した現職の第18期は8回である。

 勉強会の中国語の正式名称は「中央政治局集体学習」(「集体」は日本語で集団の意味)である。中央政治局には25名の委員があり、そのうち7名が常務委員で中国の最高指導部にあたる。

■勉強会風景■

 勉強会は「懐仁堂」にある大きな会議室で行われる。会議室のほぼ中央には大きな楕円形のドーナツ型のテーブルがあり、その両側に3列ほどの長いテーブルが並ぶ。ドーナツ型テーブルには、25名の政治局委員と講師が着席し、奥中央が総書記の席で、その正面の向かいが講師の席である。中央省庁のトップなど政治局委員以外の出席者は両側の長いテーブルに座る。全員で大体50~60人になる。

 勉強会の開催には手順がある。まず、テーマ選び。指導部が自らテーマを決めるか、党中央の事務機構である中央弁公庁や中央政策研究室が選んでから指導部に報告し、了承してもらう。テーマは、法律、国防、党のあり方、文化、歴史、農業、教育、民族、社会などと多岐にわたる。

 次に講師の人選。ほとんどの場合は、1回の勉強会につき、講師二人が共同で講義する。シンクタンクの研究員と大学教授の組み合わせが最も多い。講師の所属先が多いのは、中国社会科学院、国務院発展研究センター、国家発展改革委員会マクロ経済研究院などシンクタンクのほか、中国人民大学、中央党学校、北京大学、清華大学などの大学である。

 テーマと講師が決まった後は講義の準備である。講師がテーマをもらってから正式に講義するまで通常は約3カ月の準備期間がある。本講義の前に3回ほどの予行演習があり、テーマと関係のある中央省庁のトップや中央弁公室・中央政策研究室のトップが出席する。講義の内容はもちろんのこと、発表者の声の高低、話す速さ、口振りなどについても指摘されることがある。

 そしていよいよ本講義。通常、勉強会の時間は約120分で、講師2人が各40分の計80分の持ち時間で発表し、その後の質疑応答・討論に30分を設け、最後に総書記が総括する。

■現指導部の勉強会の特徴■

 新指導部が発足してから、勉強会にも新たな変化が見られた。講師なしの自習と、政府幹部による講義が導入されたのである。これまで新指導部の下で計8回の勉強会が開かれ、そのうち、自由討論は12年11月17日の初回と13年6月25日の第7回の計2回で、習近平総書記が進行役を務めた。テーマが「平和発展の道を歩む」の回では、外務相、党中央対外連絡部部長、商務相がそれぞれの専門分野について講師を務めた。2月23日の4回目では、司法関係の大臣級幹部たちが「法に基づいた治国の全面的な推進」について講義を行った。

■「心懐仁徳」■

 政治局勉強会の内容は、最近、党・政府の機関紙やテレビでも報じられるようになった。形は勉強会だが、テーマはその時その時の情勢に合ったものが多い。勉強会の内容を知ることで、指導部の問題意識ひいては将来の政策の方向性をうかがい知ることができる。

 一方、講師を務める研究員や大学教授にとって、政権のリーダーたちに研究成果と政策提案を直に伝えることができるのは、まさに研究者冥利に尽きると言えよう。

 「懐仁」は「心懐仁徳」に由来し、すなわち仁徳の心をもつことを意味する。「懐仁堂」に集う中国の指導者たちも、勉強会での収穫を活用し、「心懐仁徳」でこの大国を美しい未来に導いてもらいたい。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
 1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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