中国面面観

「烏龍指」

2013.09.10

 今回のお題は「烏龍指」。烏龍茶の間違いじゃないかと、突っ込まれるかもしれないが、まぎれもなく「ウーロンユビ」である。中国語の発音では「wu long zhi」(ウーロンジー)というが、8月16日に上海A株市場を乱高下させた「誤発注」のことを指す。この誤発注事件を引き起こした証券会社に対し、監督当局はA株市場において史上最も厳しい処分を下した。

■「烏龍盤」、「烏龍単」、「錯単」■

 中国語の「烏龍」は、古代では黒い龍、犬の名前、お茶農家の名前などで使われていたが、現代では、お茶の種類名のほか、「間違いを犯す」、「失敗をしでかす」、「しくじる」、「うっかりする」などの意の俗の言い方として使われている。サッカーのオウンゴールは昔、香港の記者によって「烏龍球」(球=ボール)と訳されたほか、日本のアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」は「烏龍派出所」と訳されている。亀が龍になってしまったが、なかなか面白い訳だと思う。

 一方、「烏龍指」の「指」は、英語のファット・フィンガー(fat finger)から来るのである。fat fingerとは、直訳すれば太い指であるが、転じて(株式売買などで)指が太いためキーボードを打ち間違ったことによる誤発注を意味する。

 「烏龍指」のほか、「烏龍単」、「烏龍盤」、「錯単」などの言い方もある。「単」は注文伝票、「盤」は相場、指数、ポートフォリオ、「錯」は間違いとの意味がある。中国本土では「烏龍指」が良く使われているが、香港では「烏龍盤」や「錯単」の方が一般的である。

■8・16光大証券「烏龍指」事件■

 2013年8月16日は、中国株式市場の歴史に深く刻まれる一日となった。中国の100余りある証券会社の中で総資産規模第9位(534億元、2012年末)の光大証券による「烏龍指」(誤発注)をきっかけに市場が乱高下した。上海総合指数は前場取引の2分間で前日比約1%安から同5.6%高の2,198.85ポイントに急伸した。上海深セン300指数の構成銘柄のうち71銘柄がストップ高をつけた。しかし、その後は急速に値を戻し、同指数は終値で同0.65%安となった。

 誤発注があったのは午前11時頃(現地時間)だが、光大証券は午後2時半頃になってようやく公表した。その間、さまざまな噂や報道が飛び交っていた。その主な内容を紹介すると、「取引終了後の優先株実験案の発表」、「光大証券の誤発注」、「100万と10億を誤って入力した買い注文」、「T+0取引(日計り売買)の復活」、「政府系ファンドの中国投資公司(CIC)による金融株の買い入れ」など。当時の市場の混乱ぶりが目に浮かぶ。

 その後、監督当局である中国証券監督管理委員会(証監会)による調査、光大証券の発表、メディア報道などから、誤発注の様子が明らかになった。8月16日午前11時02分、同社のトレーダーが裁定取引発注システムを通じて、ETF(上場投資信託)構成銘柄を対象にその日の3回目の注文を出したが、150秒以内に注文が成立しなかったため、注文をやり直した。同システムに問題が発生し、11時05分08秒から2秒の間に予定外の買い注文を大量に出した。トレーダーが異常に気づいたのは11時07分になってからだった。

 この取引システムは高速売買プログラムを採用し、今年3月に開発され、7月末から運用を始めていた。誤発注の引き金となった注文をやり直すという機能は使用されたことがなく、欠陥が発見されずにいた。証監会の調査報告によって判明した欠陥は、発注システムの中のETF裁定取引の注文をやり直す機能のプログラムにあり、「個別銘柄買い入れ」の関数を「ETFバスケット銘柄」と書き間違った部分などがあったという。一部の報道によれば、誤発注の後、取引システムは次々と自動的に発注し、止めるに止められず、最後は電源を抜いたと、冗談のようなやり方でプログラムを止めたという。

 最終的には、取引システムは計234億元の買い注文を出し、そのうち72.7億元分が約定し、A株市場において史上最も大規模な誤発注となった。

■A株市場の史上最も厳しい処罰■

 A株市場の史上最も大規模な誤発注に対し、8月30日に証監会は光大証券およびその責任者らに対し、これまでで最も厳しい処分を下した。なぜ誤発注事件について厳罰を下したのだろうか。

 光大証券は誤発注の後、3つの対策をとった。一つ目は注文の取り消し。二つ目は約定した現物株をETFに交換したうえで売却。三つ目は誤発注の損失を相殺するための株価指数先物の空売り。

 8月30日に証監会は、光大証券が誤発注の事実を開示しないまま、ETFを売却し、株価指数先物を空売りした行為をインサイダー取引と認定した。同社にETFの売却及び株価指数先物の空売りによって得た利益を違法所得として没収し、その5倍の制裁金と合わせて計5.23億元(約84億円)の処分を科した。また、社長を辞任した徐浩明氏や自己売買部門の責任者ら4人にも制裁金を科すうえ、証券業界から永久追放する。さらに、光大証券には債券以外の自己売買業務を停止する措置を取った。加えて、証監会は、光大証券のインサイダー取引による損失を被った投資家は民事訴訟を起こすことができると表明した。

■証券市場のさらなる整備のきっかけに■

 健全な証券市場は適切な情報開示やリスク管理が必要である。A株市場の大事件として、今回の案件への当局の対応の意義は大きい。光大証券に対する処分は現在の法律において最も厳しいものであり、証券市場の制度整備に対する当局の決心が伺われる。処分が軽すぎると、市場のルールや秩序がますます軽視されることになりかねない。

 一方、プログラム売買が盛んに利用されている今日、システムトラブルによる誤発注の発生確率が高まるなか、リスク管理の重要性が増している。今回の「烏龍指」が、中国証券市場のさらなる制度整備、ひいては健全化のきっかけになることを期待したい。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
 1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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