中国面面観

「“リコノミクス”はチャンスをもたらすか?」

2013.09.30

■銀行危機で注目された「リコノミスクス」

 6月24日は李克強首相が就任してからちょうど100日目。その少し前に私は上海の会社で仕事をしていたが、社員がどこの銀行ATMからもお金を引き出せないと騒いでいた。

 あとで分かったのだが、6月20日は中国の銀行間金利が異様なほどに上昇。銀行の資金繰り悪化が懸念されていた。フェイスブックでこんな状況をつぶやいたら、「中国経済は崩壊するのか」と尋ねてくる人が続出した。

 中国の大手銀行はすべて国有銀行。そうした銀行が大変な状況になったにもかかわらず、李克強首相は助けようともせず、事態を放置しているかのように見え、これがさらに波紋を呼んだ。

 この一件で、リ(李)コノミスクス(李克強経済学)という言葉が一気に注目されるようになった。リコノミクスにもアベノミクスのような三本の矢があるとすれば、その基本はどうやら市場強化、規制緩和、供給改善のようだ。要するに市場に任せられることは市場に任せ、政府による細かな干渉はなるべく抑えるということのようだ。

 ここ数年、中国の「国進民退」が注目されている。つまり巨大国有企業がどんどん肥大化し、民間企業を圧迫するようになっているのだ。銀行から優先的に融資を受ける大手国有企業はお金を使い切れず、シャドーバンキング(影の銀行)を通じて不動産投資などの財テクに走り、不良債権を膨らませる懸念が強まっている。

 今回の一件も、シャドーバンキング退治に向けた荒療治として、中央銀行が資金供給を絞ったために起きたのである。リコノミクス(李克強経済学)が動き始めたというわけだ。

 これからの中国経済の予測は日本企業にとって非常に重要である。李克強首相はすでに3月の全人代で、巨大国有企業の影響力を弱め、国有企業に独占されている金融、エネルギー、鉄道などの分野を民間資本に開放すると約束した。リコノミクスが目指しているのは、投資型政府ではなく、民間家計収入の増加にある。レーガン、サッチャー経済学に類似しているともいわれる。

■ネット通販の金利は銀行よりも高い?

 最近、中国共産党機関紙「人民日報」に「民間資本による金融業参入」を力説する論文が掲載された。作者はネット大手のアリババや中国最大ネット通販「タオバオ」の創業者として有名な馬雲(ジャック・マー)氏だ。

 馬雲氏はネット決済サービス「支付宝(アリペイ)」の発案者としても知られている。中国の消費者はネットで買物する際、まずアリペイの口座にお金をチャージしておき、この口座から代金を支払うことができる。

 ちなみに、以前はクレジットカードが十分に普及していなかったため、中国ではネット決済が困難だった。そこに、アリペイが生まれたことによって、ネット通販は急成長できたと言っても過言ではない。

 6月にこのアリペイに新機能が追加された。アリペイの口座の預金に対して普通の銀行よりも高い利子がつくようになり、しかも預金の出し入れの手数料はゼロ。日本にもこんな便利で嬉しいサービスがあって欲しいと思うくらいだ。

 これまで中国の銀行といえば、国がやっているものだから、サービスが悪く金利も低い。消費者からは非難轟々だった。ところが民間企業が参入した途端に、こんな嬉しいサービスが生まれた。今春から北京や上海は空気が悪く、人々は外出を控えているため、ネット通販の利用がどんどん増えている。そこにアリペイの新機能が追加されたものだから、さらにネット通販利用者が増えるだろう。

 「金融分野もどんどん民間資本に開放する」、李克強首相のこの発言は空約束ではないのだ。中国統計局の最新発表からみると、上半期の中国のGDP成長率は約7.6%。中国は高成長から安定成長に転じているが、すぐに「崩壊」と結びつけて議論するのは早計だ。むしろリコノミクスがどんな新しいチャンスをもたらすか、それを早く見極めそして掴むべきであろう。

(徐向東 株式会社中国市場戦略研究所http://www.cm-rc.com代表 )

【執筆者略歴】
  北京外国語大学講師を経て文部省奨学金で来日、日本で博士号取得後、一貫して日本企業向けの中国市場進出の調査やコンサルティングに従事。日経グループ企業の首席研究員、上海事務所総監、コンサルティング会社の代表取締役などを経て、2007年から株式会社中国市場戦略研究所(cm-rc.com) と上海CMRC代表。著書に「中国人に売る時代!巨大市場開拓の成功の法則」(日本経済新聞出版社2009)、「中国人にネットで売る~2つの“ネット”の正しい使い方、つくり方」(東洋経済新報社2011)などがある。

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