中国面面観

「養老地産」--高齢化する中国の新しいビジネスモデル

2014.02.19

 中国には「養児防老」という言葉がある。子供を育てて、老後に備えるという意味だ。時代が移り変わり、今は「以房養老」、すなわち不動産を保有して老後に備えるといのが流行っている。高齢化している中国社会で高齢者が老後のため不動産を買うとなれば、その需要は巨大である。ビジネスチャンスに敏感な中国商人は、その巨大な需要を見逃すまいと、「養老地産」という新しいビジネスを作り出した。

■高齢化の中国

 現在、中国の65歳以上の老年人口は約1億3,000万人にのぼり、2030年までにはその約3倍の3億人に達すると予想されている(ジェトロ『中国高齢者産業調査報告書(2013年3月』)。ただ、中国政府は老年人口を60歳以上と定義している。この定義に則ると、中国の老年人口は2012年時点で1億9,400万人に達しており、13年末には2億人の大台を突破し、2025年に3億人、2034年には4億人になるとの見通しである(中国民政部の発表)。

 しかし、一人っ子政策を採用してきたこともあり、一人の子供が年老いた両親と4人祖父母の面倒を見るのは容易ではない。将来、数多くの高齢者が快適な老後生活を送ることができるように住環境の整備が必要である。

■「養老不動産」というビジネスモデル

 そこで、生まれたのが「養老産業+不動産」の「養老不動産」(中国語では「養老地産」)という、いわばシルバー産業と不動産が合体したビジネスモデルである。

 「養老不動産」はおおむね、【1】分譲、【2】会員制、【3】逆住宅ローン(リバース・モーゲージ、持家担保年金)による購入、【4】使用権の譲渡、【5】賃貸――の5つの形態がある。逆住宅ローンによる購入はやや特殊な方法である。高齢者が定年退職後、不動産開発事業者から高齢者向け住宅を購入した後、事業者と契約を結ぶ。事業者はこの高齢者に毎月一定額の生活費を支給する一方、高齢者が亡くなった時、事業者は残りの元本を返還し、住宅は事業者の所有になる。生活費を住宅ローンと見立てて、事業者から購入者に逆に支払うことになっているので、逆住宅ローンと呼ばれたわけである。

■「養老不動産」の収益源

 ビジネスの角度から見て、養老不動産はどのようにして収益を上げるのか。

 まず、土地開発からの収益である。高齢者向け物件ゆえに都会の中心部よりも、豊かな自然環境に恵まれている郊外の方がむしろ老後の生活に適する。また、郊外の土地は一般的に街中よりも面積が広く、価格も安いため、事業者にとって採算性が比較的高い。

 二つ目は、サービス提供からの収益である。医療、介護、健康維持、生涯学習など高齢者向けサービスは多種多様であり、それを提供することで収益に結び付く。

 三つ目は、施設の提供からの収益である。物件に付属する入居者専用のフィットネスや、プール、集会所のようなレクリエーション施設は、養老不動産の大切な要素である。会社に行く現役世代と違い、引退した高齢者は共有施設を利用する時間が長いため、こうした施設が充実すれば、入居者は喜んで利用する。

 四つ目は、コミュニティからの収益である。養老不動産が完成して時間が経つと共に、高齢者を中心とするコミュニティが徐々に形成され、人口の集積や口コミ効果により、新たな消費が喚起されるだけでなく、不動産価値の上昇にもつながる。

■日本企業の経験が活用されるチャンス■

 養老不動産案件において、事業者にとって土地開発はいわば本業であり、得意とする分野である。これに対し、収益源のうちのサービスと施設は、養老不動産の付加価値の鍵を握る核心的な部分だが、中国企業には最も経験やノウハウが欠けている部分でもある。

 こうした事情もあり、現在、「養老不動産」事業に参入する主体は、不動産開発事業のほか、大手製造業者、保険会社、地方政府などがある。中国に先んじて高齢化が進んでいる日本で経験やノウハウを積んできた企業にとっても、中国の「養老不動産」市場は大きなチャンスだと言えよう。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
 1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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