中国面面観

「中国転居マップ」とビッグデータ

2014.04.08

 春。日本では別れと出会いの季節である。消費増税も相まって引越し屋さんは大忙しのようだ。中国の方は全人代(全国人民代表大会)が3月中旬に閉幕し、代表たちはそれぞれの地元に戻り、いよいよ政策を実行する段階に移る。こうしたなか、最近になって目にした興味深いデータがある。中国の電子商取引最大手アリババ・グループ傘下のネット通販サイト「淘宝」がその膨大なユーザーデータを分析した「中国転居マップ」である。

■淘宝ビッグデータ「中国転居マップ」■

 淘宝がその数億人のユーザーを対象に、2013年1月1日から180日以内の商品届け先の住所変更状況に基づき、出張・里帰り・旅行など短期滞在といった攪乱要因を取り除いて集計したのが「中国転居マップ」(中国語で「中国遷徙地図」)である。

 それによると、2013年に転居した淘宝のユーザー数は2,715万人で、そのうち1,303万人が省内での移動、1,412万人が他省への移動となっている。2,715万人のうち、85%は18~34歳、12%は35~50歳。また、81%の転居者は淘宝での消費額が年間5,000元以下である。


■北京・上海・広東への純転入■

 転居マップから見た人口移動の特徴は2つ挙げられる。一つは、北京市、上海市、広東省(以下、“北上広”)の3大省・直轄市は純転入(転入-転出)であり、前年の傾向を引き継いでいる。北京市(転入:92万人、転出:90万人)、上海市(転入:87万人、転出: 86万人)、広東省(転入:153万人、転出:149万人)となっている。

 広東省の転出入数と純転入数はともに最多であり、その人口移動のダイナミズムを反映している。広東省の中でも労働集約型産業の集積地である珠江デルタに位置する広州市、深セン市、仏山市、東莞市の間で、移動がかなり頻繁であることも示されている。

 ただ、2012年に比べると、“北上広”の純転入数は減少しており、特に北京市は約2/3減である。その背景には人々の選択肢の多様化があると考えられる。大都市での生活費上昇、空気汚染などの環境悪化、経済成長の頭打ちなどを受け、ほかの地域への転居を選択したのであろう。

■内陸部への還流が増加■

 もう一つの特徴は、従来から出稼ぎ労働者の供給源だった内陸部への転入数が大きく増えたことである。特に、安徽省、湖南省、甘粛省、山西省、チベット自治区などは、2012年の純転出から、2013年には純転入に変わった。その背景には、内陸部の経済成長にともない、出稼ぎ労働者が地元に戻ったことがあると推測される。

 このような地元への還流は以前から見られた現象だが、最近ではその中身にやや変化が生じている。以前の出稼ぎ労働者は故郷の農村に戻り、農作業を続けることが多かった。だが、最近は都市化の進展もあり、地元に戻っても農村部ではなく、都市部に定住することが多いようだ。

 こうした傾向は労働集約型産業が沿海部から内陸部にシフトしている状況とも合致する。内陸での雇用機会の増加が、出稼ぎ労働者の還流を促進。還流する人が増えるにつれ、内陸への生産基地移転の企業も増加する。この循環のなかで内陸部経済が発展し、ひいては沿海部との所得格差が縮まる。

■百度の「春運」人口移動マップ■

 検索サイト最大手の「百度」も1月下旬に、旧正月期間中の人口移動状況を「百度遷徙」というサイトで公開した(現在は時期が過ぎたため更新中止)。2013年12月末時点で中国の携帯電話ユーザー数は約5億である。百度の発表によると、同社の「百度マップ」は1日当たり約35億回の位置情報のアクセスがある。このアクセス数を基に集計・分析したうえ、人口移動の状況をリアルタイムで公開したのである。

 それによると、旧正月期間中の人口移動は主に、北京市、上海市、広州市、西安市の4都市を結んだ線の範囲内で行われた。また、昆明市、海口市、三亜市(海南省のリゾート地)など中国の主要観光都市に移動する人数も、旧正月の数日前から大幅に増加。三亜市へは北京市や上海市から向かう人が多いということも分かった。

 広大な国土と膨大な人口。企業はそれぞれ蓄積されたビッグデータを活用し、人々の多彩な行動様式を分析する。これを事業戦略への応用に成功した企業は、きっと実り多き季節を迎えよう。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
 1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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