中国面面観

粉糸経済(Fans Economy)~不完全さを受け止めてくれるのは愛だけ~

2014.10.02

 2014年に最も注目されるIPO案件はアリババの上場であることは言うまでもない。アリババのコア資産の一つはネットショッピングプラットフォームの淘宝(タオバウ)である。中国人の商売魂を喚起し、主婦、学生も手軽に起業できる環境を整備してくれた功績は、李克強総理の称賛を勝ち得たほどだ。

 しかし、競争と淘汰が激しく繰り返されるネットの世界では、王座を守ることは決して容易なことではない。また、粉糸経済(ファンズエコノミー)という消費文化の台頭に対応できるか、それに基づく新しいネットショッピングプラットフォーム企業からの挑戦をどうかわすかは、今後の見どころだろう。

■粉糸経済の基盤を作り出す八〇後(バーリンホウ)、九〇後(ジョーリンホウ)■

 中国で粉糸経済が注目されたのはごく近年のことで、80年生まれ、90年生まれ世代の価値観が中国の消費文化に少しずつ影響力を増していることの証と見られる。粉糸とは本来食料品の「春雨」の意味だが、現在主に英語のFansの音訳で、追っかけ・ファンという意味で使われている。粉糸経済はその言葉通り、ファン資源を利用した商売というものである。有名人がファンを増やしながら相次いで大ヒットを作り出すのと似たような概念である。

 現在の粉糸経済を利用したビジネスモデルにおいて重視されるものは、訴求ポイントの明確化と、その訴求ポイントに共感する消費者とのインターアクション及び忠誠心の構築である。80年代、90年生まれ以降の世代は相対的に豊かな経済環境下で育てられ、個性や平等を求める意識が強い。頭越しの説教や盲目の追随を嫌い、自分の個性に近い、共感を持てるブランドを選好する傾向がある。「大衆」よりも「小衆」である自分、押しつけられるよりも、選択している自分に居心地の良さを感じているようである。

■粉糸経済活用の代表例である小米■

 中国で低価格スマホメーカーとして圧倒的な人気を獲得した小米(シャオミ)をご存じだろうか。同社の成功の秘訣は決して低価格ではなく、ファン集団の育成と経営にある。小米の創業者達は中国の主流SNSにコミュニティを開設することを通じて、新商品のスペック、コア部品のコスト等の情報配信を行い、一部ユーザーにサンプル製品を提供してSNSでそのフィードバックについて議論し、週次で更新される小米フォンOSのネット投票等、絶え間ない情報発信を通じてユーザーとのインターアクションを取り、ユーザーのロイヤリティを高めている。

 ちなみに、小米は低価格スマホ販売自体よりも、囲い込んだユーザーへのスマホのアクセサリー販売や、APP(アプリ)やオンラインショッピング等の関連消費で多くの利益を得ている。

 小米のこの独特なマーケティングはこれまで大きな成功を収めた。創業者である雷軍(レイジュン)と黎万強(リーワンチャン)の微博(ウェイボ)(中国版ツイッター)、そして小米のオフィシャル微博のフォロワーがそれぞれ800万人、500万人、800万人も存在し、QQ空間では小米のフォロワーが1900万人に上り、忠誠心の高い広い顧客基盤を構築してきている。

 小米の創業者である雷軍は自社の目指す目標として、「ユーザーの友達になること」を掲げている。それと対極的に、スマホ市場の王者である米国アップルは開発やソフトウェア更新においてかなり秘密主義な側面がある。圧倒的な技術力の高さで、ユーザーをリードする神のような存在を目指す理念に基づいているからかもしれない。

 神でも、友人でも構わない、その創業者(企業)が持つ個性(文化)に共感して、忠実なユーザーグループを作り上げたことは両社共通の特徴であろう。これも、スティーブ・ジョブスに因んで、雷軍(レイジュン)が中国の「レイブス」と呼ばれる理由だと思われる。

■淘宝のビジネスエリアに異質な参入者■

 粉糸経済を基盤にして淘宝の強敵となる可能性を秘めているのが、アリババと並ぶ中国ネット企業のもう一つの雄、時価総額16兆円を誇り、アリババ上場以前はアジア最大のネット企業であったテンセント(Tencent)である。主力事業は中華圏最大の社交プラットフォームのQQ、中国版LINEとでも呼ぶべき微信(ウェイシン)(Wechat)である。

 2014年5月29日にテンセントが運営しているチャットコミュニティAPPである微信はAPP内にモバイルモール「微店(ウェイデン)」の導入を発表し、淘宝との競争激化が囁かれ始めている。その背景には、淘宝での出店数が近年急増したために、商品を顧客の検索キーワードの上位でヒットさせるための課金が大きく膨らみ、資本力の弱い個人店や小規模企業の商品が、淘宝で注目を集めることが段々難しくなっている点がある。

 それに代わって、既に多くの個人が微信の友人グループ内で出品を行っている。これまで微信は「社交」という商品位置づけを守るために、コミュニティ内の物品販売を規制する姿勢だったが、今回は比較的高い出店ハードルを設けながらも、実験的にモバイルネットショップビジネスを微店というプラットフォームに誘導する試みを始めた。

 ネットショップビジネスにおいて、淘宝と微信には大きなDNAの違いがある。淘宝は店舗のプラットフォーム、買い物する時に行く場所である。微信はコミュニティプラットフォーム、社交をする時に行く場所である。微信のコミュニティを利用して、ライフスタイル、知識の発信や相互交流を通じてファンを増やし、その上で消費行動も誘導するといった、粉糸経済学を巧みに利用するビジネスモデルが、微店というプラットフォームで開花できるかは、中国ネットの両雄の競争における、今後の大きな注目ポイントである。

 私の愛読するブロガー曰く。「ネットはフラットで冷たい。ユーザーは商品を選ぶのも、捨てるのも一瞬だし、使い心地が悪ければ、声も掛けずに去っていく。商品の不完全さを受け止め、企業の成長を見守るほどの寛容を得られる条件は、ファンの愛、それだけだろうなぁ」と。

(吉永東峰 株式会社ニーズ キャピタルデザイン 代表取締役)

【執筆者略歴】
 1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。  

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