中国面面観

八〇後、九〇後も顔負け、「中国おば様」は新興勢力

2014.10.02

 「中国おば様」(中国大媽)という言葉だが、本来は決して褒め言葉ではない。全国各地で騒音問題を引き起こして住民とのトラブルが絶えない「広場ダンス」は、その強引的な一面の現れである。また、2013年にウォールストリートを震撼させた「おば様」たちの金の買い支え行動はその非合理的な一面を浮き彫りにした。

 しかし、この夏は風向きが少し変わってきた。フランスのファッション誌が「中国おば様」発案の顔面日焼け防止カバーであるフェイスキニ(Facekini)要素を取り入れた写真集を発表してからというもの、中国国民は「中国おば様」が中国サッカーに先駆けて世界進出を果たしたと評価し始めた。そして、「おば様経済」という角度から、エコノミストたちもこの独特な集団を見つめ直し始めた。

■おば様たちが消費ブームを作り出す■

 フェイスキニが取り上げられたことで、おば様関連商品への社会的注目度が高まった。中国最大手のネット販売サイト「淘宝」で検索したところ、227件の商品が掲載され、売れ行き順で最上位の商品は直近1カ月の販売件数が774件となっている。歴史の長い「広場ダンス」関連商品の供給は更に多い。淘宝で「広場ダンス」を検索すると、衣類が7.9万件、靴が8.9万件、音響製品も1.8万件がヒットするという具合である。

 中高年女性の間に消費がブームになりやすいのは、彼女らの社会生活が再組織化されているからだと考えられる。その最たる例が、前述した広場ダンスである。

 広場ダンスとは、近年都市部の中高年女性により、各地域で自発的に組織された集団ダンスのことである。日本でいえば町会主催の盆踊りを年中やっているようなもので、その組織形態は緩やかな地域コミュニティが一般的だが、近隣住民との交渉、ダンス集団間の場所取り、対抗試合等の取り決めもあるため、一部の集団では内部の細かい責任分配がなされた高度な組織に発展している。

 この広場ダンスの参加者は45-70歳代の女性が中心で、彼女らの中には、90年代後半の国有企業改革でレイオフされ、社会との接点の断絶や所属組織の解体という喪失感を経験してきた人が少なくない。広場ダンス集団というコミュニティは、彼女らの組織への帰属感を満たすとともに、消費行動の同質化を促す効果があるようである。

■将来の不安を背景におば様の投資意欲は高い■

 中国おば様の投資への情熱は広場ダンス並み、いやそれ以上である。代表事例は2013年前半の金相場を動かした騒ぎである。2013年4月に金価格が大暴落したが、中高年女性を中心に中国人は国内や香港で一斉に金を買い占めた。わずか10日間のうち300トンもの金が中国人に買い占められ、金価格の大きな買い支え要因となった。

 また、同年に韓国の済州島で不動産を購入する外国人に永住権を付与する政策が発表されたのを機に、中国おば様は瞬く間に現地不動産の最大の購入者となった。その他、ビットコイン投資、P2P(個人間)融資関連の理財商品などなど、ハイリスクな投資においても中国おば様の参加が見られる。

 国内においても中高年女性達は、良質な潜在顧客として金融機関が奪い合いを演じるターゲットである。若手の銀行ファイナンシャルアドバイザーが広場ダンスに積極的に参加し、集団のおば様達の信頼を得て、大量の預かり資産を獲得したという事例や、銀行の支店が地域の広場ダンスグループを活用して、中高年の個人投資家にアピールする等の事例が報じられている。

 中国の中高年は「有点銭、有点閑」(金銭的・時間的に余裕がある)と言われていて、社会保障が不十分な状況で老後生活や病気に備えるためとか、不動産価格が高騰する中での子供の住宅購入支援のためといった理由で、資産拡大に大変意欲的である。

■11兆元の金融資産を掌握する集団の動きに注目■

 「中国おば様」が掌握する資産規模の巨大さは無視できない。その階層の明確な定義はないが、仮に都市部の45-69歳代の女性とすると、その規模はざっくり1億人である。2012年の国内主要大学の家計調査によると、都市部家庭の平均金融資産は11.2万元である。夫婦共働きが普通の中国だが、家庭支出と家庭資産の運用では、女性が主導権を握る傾向が強い。つまり、彼女達が動かせる家庭金融資産は少なくとも11兆元(187兆円、1元=17.0円)に達するのである。

 同時に、おば様現象は中国社会の進歩の象徴としても捉えられる。中国都市部の一人当たり所得は、2000年の6,280元(8.7万円、1元=13.8円、00年末)から2013年には26,955元(46.7万円、1元=17.3円、13年末)と4倍になり、消費の中身も食品、衣服、住居などの基本的な生活需要から嗜好、文化関連の需要にシフトしている。更に、家計貯蓄が増加するにつれて、彼女達の投資需要も今まで以上に高まってきている。彼女達の役割は、単なる家庭用品の購入担当者から、家庭資産拡大を目指す運用者に移行しつつあるのだ。

 窓の外では人気の曲が流れ始め、おば様達が踊り始めた。上山下郷の苦労、少子の遺憾、レイオフの哀愁、空巣老人(子供が独立し、老夫婦で生活する状態)の寂寥、それらを噛みしめながら、彼女達は軽快なステップで波瀾の人生にまた一色を飾るのである。

(吉永東峰 株式会社ニーズ キャピタルデザイン 代表取締役)

【執筆者略歴】
 1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。

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