中国面面観

急成長する中国の映画産業 --SNSが活躍--

2014.12.19

 中国の映画の興行収入は、2003年の11億元から2013年は217.69億元となり、わずか10年の間で約20倍に膨らむ空前の活況に沸いている。また、映画館数は2013年末時点で18,195スクリーンと言われ、1日あたり約14のスクリーンが増えている。今年に入ってから1日あたり約18のスクリーンのペースに加速。今年3月末時点の全国の映画館のスクリーン数は20,000を突破した。9月末時点の興行収入は219.49億元とすでに昨年を上回り、アリババ、テンセントといった異業種からの参入も注目を浴びている。チャンスとチャレンジが共存する中国の映画産業の行方を探る。

■若手人気作家が興行収入の記録更新■

 中国の映画産業にかつてない衝撃が走っている。タレント的人気小説家の原作、監督による映画が次々と興行収入の記録を塗り替えているためだ。郭敬明(グオ・ジンミン)の『小時代3:刺金時代(Tiny Time 3.0)』は、同名小説シリーズの映画版。原作は発行から2ヵ月で140万冊のヒット作となっていた。映画上映初日で1.1億元の興行収入を突破し、これまでの国産映画の記録を塗り替えた。上映第3週で5.17億元のヒット作となった。だが、そのわずか数週後、韓寒(ハン・ハン)のデビュー作である『後会無期(The Continent)』の興行収入が6.3億元に達成した。

 郭敬明と韓寒はどちらも1980年代生まれ「80後(バーリンホウ)」を代表する作家だ。彼らの作品は現代若者の生活に近く、若者の好みをキャッチしたとも言える。価値観の近い同世代が作った作品に共感を持つファンが映画産業に与える影響力は増してきており、いわゆるファン向けの市場が形成されつつある。

■SNSの影響を無視できない■

 郭敬明と韓寒の両者のもう一つの共通点は、非常に熱心なファンを有することだ。二人は作家として自らソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で情報発信していくのが得意だ。郭敬明と韓寒のミニブログ「微博(ウェイボ)(中国版ツイッター)」のフォロワーは、それぞれ3,295万人、3,865万人にのぼる。こうした熱心なファンを作り上げたことが、そのまま顧客基盤の構築に繋がっている。

 『小時代』シリーズでは、映画の公開前から最新情報がすべて郭敬明の「微博(ウェイボ)」にアップされた。「イイね!」の回数は40万回を超え、話題が読まれた回数も11億回を超えたほか、上映前の写真が300枚、ポスターが167種など、ファンの意欲を刺激し続けてきた。SNSの影響力の大きさは否定できず、中国の映画は「粉糸経済」(ファンズエコノミー)時代に突入しつつあると言えそうだ。

 しかし、こうしたファンの増加はあくまでもきっかけであり、もちろん作品そのものの話題性が、観客の心を掴めるかどうかの鍵となる。ファンがファンでなくなり、去っていくのも一瞬のことだ。高い興行収入、高い観客動員数といった表面上の数字で成否を論じず、継続的に国産映画の質の向上を進めていくことが中国映画の課題だろう。

■映画産業にホットマネーが流入■

 2013年のA株市場におけるメディア産業全体の株価上昇率は103.29%に達し、全業種の中で1位となった。A株市場に上場しているメディア会社は全部で54社あり、平均PERは46.54倍に達する。

 今年3月、中国の電子商取引大手である阿里巴巴集団(アリババ・グループ・ホールディング)が、テレビドラマや映画の製作を手掛ける文化中国伝播集団(チャイナビジョン・メディア・グループ)の正式な支配株主(持ち株比率は60%)となり、社名を「阿里巴巴影業集団」として傘下に加えた。

 一方、中国インターネットサービス大手である騰訊控股(テンセントホールディングス)は6本の映画の製作参加を発表するなど、インターネットの大手が映画産業へ参入する動きを強めており、これまでのビジネスモデルの枠を超えた取り組みが、映画の内容や製作にも影響を与えそうだ。

 『小時代3』や、その続編である『小時代4』については、10万人超のファンが作品の投資に参加した模様だ。投資額は100元からで、年率で7%程度のリターンと予想される。彼らは映画スターと会う機会があったり、独占的に発行されるメールマガジンやスターのサイン入りブロマイドを得たり、映画小道具の競売に参加したり、撮影現場を見学したりすることもできる。

 『小時代3』のために1,000万元の資金が集まったという。彼らは自らの友人にも映画館に行き、映画のちょうちん持ちをするようにと勧め、高い観客動員数にも繋がった。このようにファンが作品に自ら投資できる楽しみが映画そのものを盛り上げることになった。

■映画大国までの道のりは長い■

 急成長を遂げている中国の映画産業は、その興行収入が日本を追い越し、北米に次ぐ世界2位の映画マーケットとなった。中国における興行収入は国産映画の総収入の8割以上を占めている。ハリウッドや欧州では、その比率はわずか3割に留まり、残りの7割はDVDのレンタルや販売、関連するゲーム、グッズ、広告や印税などの付加価値となっている。

 一方で、中国の海賊版DVDの市場規模は400億元と言われており、興行収入はその金額と比べてもまだ到底追いつかないのが現状だ。著作権保護の欠如には、入場料の高騰が背景の一つにあるとみられる。日本の映画館の入場料は世界一高いと言われるが、日本の入場料が平均月給の0.53%であるのい対し、北京の入場料は平均月給の0.98%となる(いずれも2012年のデータによる試算)。収入と比較すると、中国映画館の入場料の方が割高であることが分かる。

 豊かになれば娯楽も楽しめるということだが、不適切な料金設定が海賊版DVD氾濫の原因の一つとも言えそうだ。著作権の欠如は映画業界の成長にとって大きな足かせであり、知的財産の保護と改善が映画産業の発展にも影響を与えるだろう。

 中国の不動産開発大手である大連万達集団(ワンダ・グループ)は、山東省青島に「中国版ハリウッド」を建設しており、総投資額は500億元にのぼる(2017年に開業予定)。経済の成長と所得増加を背景に、映画産業には巨大な市場が潜んでいることは間違いないが、中国が真の映画大国になるにはまだ長い道のりがありそうだ。

(結城 氷奈 株式会社ニーズ 中国エコノミスト)

【執筆者略歴】
2007年北海道大学法学部卒業、同年第一生命保険相互会社に入社、同5月第一生命経済研究所に出向、中国経済担当エコノミスト。Bloomberg TV中国経済コメンテーター。日本経済新聞、週刊東洋経済、モーニングスター、株式新聞などのメディアへの寄稿多数。

中国株取引のリスク
株価や為替の変動等により損失が生じるおそれがあります。
中国株取引の手数料について
中国株の手数料は、国内手数料、現地手数料、為替手数料と3種類の手数料があり、このスペースに表示するのが難しいため、詳細は中国株の「手数料とリスクについて」でご確認ください。
中国株は、クーリング・オフの対象にはなりません。
詳しくは手数料とリスクについてをご覧ください。