中国面面観

持ち家を買わない時代が来るか --「90後」世代の複雑な心理--

2015.02.13

中国の国民は伝統的にマイホームに対して特別な感情を持っており、賃貸による部屋は家ではないとさえ感じている。住宅の購入は多くの人にとって大きな関心事である。日本においては子どもの誕生や入学といった結婚後の生活の変化を機に住宅を購入するという人が多いのに対し、中国ではマイホームを準備してから結婚するという考えが非常に深く浸透している。これまでは不動産価格が高い水準にありながらも、結婚という実需を背景に、「房奴(ファンヌー)」という人たちが都市部で増え続けたが、「90後」という世代の間では、こうした状況にも変化が表れてきている。

■「90後」は家を買わない世代に?■

中国社会科学院が昨年末に発表した「社会藍皮書:中国社会形勢分析与預測2015」によると、卒業から1年経過した「90後(1990年代生まれ)」の大学卒業生は、約3割が居住面積20平米以下で暮らしており、不動産ローンを背負わずに自分の生活の質をより向上させたいと考えているとのことだ。個人の価値観をより重視する「90後」大卒生は「家を買わない世代」になる可能性があると指摘されている。

今回の調査報告は全国12校、4,110名の「90後」大学生・大卒生を対象にしたもので、そのうち、在校生が2,730名、卒業もしくは就職した大卒生が1,380名となっている。アンケートでは「家を買うため生活水準を引き下げてもいい」という回答はわずか1/3に留まっており、55%以上は「重いローンの負担を背負うなら、家は買わない」としている。

一方で、不動産購入が資産保全の最も優れた方法だと考えているという回答も50%以上ある。不動産は投資の一つとして魅力的であるものの、住宅ローンに苦しみたくはないというジレンマに陥る心理が表れているようだ。また、不動産購入の頭金に相当する資金が手に入った場合、不動産を購入せずに「起業する」もしくは、「より達成感のあることに使う」と回答した人も半数以上にのぼった。本当に「90後」は家を買わない世代になるだろうか。

■理性的消費か現実逃避か■

中国の不動産はここ数年高騰が続いており、多くの人は「房奴(ファンヌー)」となった。「房奴」とは、住宅の奴隷という意味であり、住宅ローンに苦しむ人々のことを指す。中国の都市部では不動産バブルにより不動産価格が高騰を続けており、近年、一定の収入のあるホワイトカラーが家を買うために多額の住宅ローンをした結果、その返済に追われ続けるということが若者を中心に増えてきている。

マイホームを手に入れても必ずしも幸せになるとは限らないし、「房奴」の苦しむ姿を見てきた「90後」が、そのライフスタイルを拒否するという気持ちは分からないでもない。家を買わないことで「房奴」になることを避けるというのは、ある意味理性的消費とも言えそうだ。しかし、家や車を持つことが成功や結婚における重要なステータスとされる中国の価値観に大きな変化が生じたわけではなく、買わないというより買えないという実状に彼らの内心の切なさも伺える。  

住宅の支出が全体収入の30%を超えないような返済計画を立てるというのが一般的だとみられている。この水準でさえ、住宅ローンを組むと生活は決して楽なものにはならないが、中国の大都会では住宅ローンの支出が全体収入の70-80%以上に達している。金融機関が負うリスクが大きいことに加え、資金が不動産業に過度に集中しすぎていることが、社会消費や実体経済に悪影響を与えかねない状況だ。

■家を買わないと結婚できない■

中国では男性が妻を娶る際に「家を持っていること」が第一条件となっている。しかし、結婚を考えるような若い世代には貯金がないため、男性の親がマイホームの頭金を援助し、その後のローンを結婚した夫婦が負担するというスタイルが一般的だ。「家を買わないぞ」と今は軽々しく言っている「90後」が、これから結婚適齢期を迎えるにあたり、同じことを言い続けられるかは疑問だ。マイホームさえあれば幸せになれるという考えを根強く持っている親世代が娘の結婚許可を出してくれるかは分からない。

一方で、「90後」の結婚前のマイホーム購入という実需が減っているのは事実だ。「90後」世代は一人っ子で、ちょうど生活が豊かになってきた世代であり、親世代も1、2軒の家を持っており、結婚のためにわざわざ家を購入する必要がない人もいる。また、両親が頭金を支払い、住宅ローンを自分で支払うという人が多数だが、両親が住宅購入金額を全額支払ってくれるという人も少なくない。このように、買う必要ない「90後」と、買わないと言いつつも本音では買えない「90後」がおり、格差は拡大しつつあると言えそうだ。

■住宅ローンに縛られる世代は中国の未来を担えるか■

 両親の貯蓄で住宅ローンの頭金を支払い、自身が多額の住宅ローンを抱える「房奴」になってしまったら、一生を縛られることになる。「80後」、「90後」世代の多くが「房奴」になってしまった場合、中国の将来にも大きな影響を及ぼすだろう。毎月のローン返済で生活が苦しい彼らは、子どもを産みたがらないし、消費もしたがらない。また、起業や転職をしたがらないだけでなく、病気や失業を恐れ、人生をエンジョイする時間も失い、社会全体が希望を失うことになりかねない。

 中国の住宅の土地使用権は70年とされており、再開発のために取り壊されるなど実際建物の寿命は30年と言われている。高いローンを組んで買ったマイホームも政府から借りているだけだ。それに関する法整備も急務だろう。これまで急騰してきた中国の不動産市場も足元では調整期にあり、住宅ローンに苦しむライフスタイルにノーと言う「90後」の行動も一つの選択肢なのかもしれない。しかし、本当に家を買わない時代が来るのかはもう少し時間かけて見る必要があるだろう。

(結城 氷奈 株式会社ニーズ 中国エコノミスト)
【執筆者略歴】
 2007年北海道大学法学部卒業、同年第一生命保険相互会社に入社、同5月第一生命経済研究所に出向、中国経済担当エコノミスト。Bloomberg TV中国経済コメンテーター。日本経済新聞、週刊東洋経済、モーニングスター、株式新聞などのメディアへの寄稿多数。

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