中国面面観

大人気の家政婦「月嫂」「育児嫂」が急増中 --中国の子育て事情--

2015.02.13

中国ではある職業に対する需要が急激に増加している。それは「月嫂」、「育児嫂」という一種の家政婦の仕事だ。都市部を中心にニーズが高まっており、「子どもにスタートラインから負けさせるわけにはいかない」と口にする親たちが、新生児や乳児の世話を専門の知識を持つ「月嫂」、「育児嫂」に委ねるのだ。「単独両孩」という第2子を認める政策も発表され、その市場はさらに拡大する可能性がある。

■「月嫂」の給料は医師より高い■

 日本では出産前後の負担を減らすため、里帰り出産をしたり、産褥期のケアのために人の手を借りたりするようなことがよくある。中国には産婦の出産後1ヶ月の間のことを指す「月子」という言葉があり、この期間の産婦は母体回復に専念するため、赤ちゃんの授乳とお手洗い以外はほとんどベッドで過ごし、外出も禁止される。

 昔は産婦の母親や姑が産婦と新生児の面倒を見るのが習慣だったが、今は北京、上海などの大都市において、産褥シッターである「月嫂」を雇う家庭が増えている。その背景には、晩婚化にともない、手助けする祖父母が高齢となり、赤ちゃんの世話をする体力をなくしていることがあるほか、新生児の父母についても子どもの世話をする経験や時間が足りないということがある。また、祖父母の育児の観念が時代遅れになり、赤ちゃんの成長にはよくないと心配する声もあるようだ。

「 月嫂」は1ヶ月間住み込みで昼夜を問わずに産婦と新生児の世話をしてくれる。赤ちゃんが生まれた最初の1ヶ月は夜泣きなど一番大変な時期であり、日本にもこんなサービスがあったらうれしいものだ。北京に住む友人によると、北京では一般的に月嫂の給料は1万元、育児嫂は5,500元、炊事や掃除なしで子どもの面倒だけをみる育児嫂の給料は4,500元程度だそうだ。

 もちろん育児嫂の経験や学歴などで給料も変わってくる。もっとも高い月嫂の月額給料は15,000元にも上る。これは、北京の医師の平均月収の8,722元を大きく上回っている。2013年の北京の平均月収は5,793元であり、そのうち非私営機関就業者の平均月収は7,751元である。ちなみにもっとも高収入なのは金融業で、平均月収は17,176元となっている。いずれにしても、月嫂の月収がいかに高いものかお分かりいただけると思う。

■「月嫂」市場を上回る「育児嫂」市場■

 月嫂が中国の独自の文化である「月子」の産物というならば、育児嫂は社会システム福祉の補完と言うべき存在だ。育児嫂は主に生後1ヶ月-3歳の乳児の世話、教育などを行い、月嫂の仕事を引き継ぐ人となる。

 中国では共働きが基本だが、保育園のようなシステムがなく、母親や姑に預けるケースがほとんどであったが、経済成長とともに、人口の流動が激しくなり、地元から離れて生活する夫婦も増えてきた。子どもが生まれたからと言って、これまでのキャリアを捨てるわけにはいかないということももちろんあるが、子どもが生まれたからこそ、これからの出費を考えると仕事を辞めるわけにはいかず、里帰りなどはできないのだ。

 また、「80后(80年代生まれ)」の母親は育児観念が時代遅れとなっている恐れがある姑に子どもを預けるのを嫌がることに加え、姑の方でも孫の育児で嫁姑問題に発展するのを回避するため、孫の世話をしない代わりに、お金を出して育児嫂を雇ってもらうという動きもある(なんて心優しく、ありがたい姑さんだ)。

 もちろん、生活が豊かになった祖父母自身、自らの生活を楽しみたいと考える人が増加しているということもある。育児嫂という職業はそういった人々のニーズに応じてくれているといえるだろう。育児嫂は月嫂より雇われる期間が長いため、市場は月嫂よりも大きいとされている。

■高給だがトラブルも多く発生■

 日本ではベビーシッターの資格制度がないこともあり、時折事故や事件が発生し、問題視されることがある。中国でも同様なトラブルは多発している。「月嫂」は家政婦派遣会社が実施する試験に合格し、証明書をもらってから業務に従事することになる。ただし、国家資格ではないため、信ぴょう性に欠ける部分もある。「育児嫂」については研修を受ける家政婦派遣会社もあるにはあるが、義務化されているわけではない。

 家政婦に従事している人の学歴についてみると、北京、上海、広州、深センでは70%の人が中卒であり、年齢層は40-50歳に集中している。月嫂、育児嫂は都市で失業、もしくは定年となった女性や、農村から出稼ぎで一般的な家政婦から転職した人たちだ。家政サービス業界の高齢化、低学歴の状態は今後もしばらく続きそうだが、一方で、月嫂や育児嫂に従事する人たちに対して高学歴を求める傾向も出てきており、体力だけではなく、子どもへの教育まで求める動きは強まっている。

 日本ではドラマ「家政婦のミタ」で「承知しました。それは業務命令ですか」というセリフがその年の流行語に選ばれるほど人気を博したが、中国の「育児嫂」はミタのように何でも言うことを聞いてくれるわけではない。中国に住む友人は「微信We chat」で『育児嫂伝記』という本を出したら、売れるかしらとつぶやいたところ、「3本足の女は見つかりにくいが、奇葩の育児嫂はどこの家にもある」ということで、大きな賛同の声を得た。(*奇葩とは、本来数少ないきれいな花のことを指すが、今はインターネット上で言動や性格など変わった人」といったネガティブの意味で広く使われている。)もっとも、家政婦というのは、個人との相性に左右される職業であり、住込みとなるとなおさらだ。

■「単独両孩」政策でさらに拍車をかかる可能性も■

 これまで、都市部に住む夫婦は二人ともが一人っ子の場合に限って、第2子を産むことが認められていた。しかし、高齢化社会が急速に進む中、労働人口を補うため、夫婦のどちらかが一人っ子の場合でも、第2子を持つことが認められるという「単独両孩」の政策が各市で相次ぎ発表された。

 子育てにはある程度の経済力が必要となるが、第2子を選択する家庭のほとんどは中間層以上で、購買力も高いため、巨大な消費市場を新たに生み出すとみられる。第2子となると、両親、祖父母の年齢はさらに上がり、世話する体力も気力も第1子の時より弱まるため、「月嫂」、「育児嫂」へのニーズはさらに高まるだろう。

 一方、中国では80年代から「一人っ子政策」を実施することで「4+2+1」という家族構成が出来上がった。「祖父母4人+父母2人+子ども1人」という構図の中で、子供が3つの家庭の中心に位置し、6つの財布が使われることとなる。実際、赤ちゃんの成長を何より大事にしている家庭がほとんどで、子どものためなら、出費はちっとも惜しまれない。

 経済成長にともなって家政婦の仕事が浸透してきており、月嫂や育児嫂、老人介護などの専門分野への細部化も進んでいる。今後はトラブルを解消し、産業をさらに健全に発展させるため、一層の関連法律の整備や、管理監督システムの確立などが求められる。

(結城 氷奈 株式会社ニーズ 中国エコノミスト)
【執筆者略歴】
 2007年北海道大学法学部卒業、同年第一生命保険相互会社に入社、同5月第一生命経済研究所に出向、中国経済担当エコノミスト。Bloomberg TV中国経済コメンテーター。日本経済新聞、週刊東洋経済、モーニングスター、株式新聞などのメディアへの寄稿多数。

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