中国面面観

羊年春節の紅包合戦 --中国のモバイル決済市場の躍進になるか--

2015.04.07

 2015年2月18日の旧暦大晦日の夜、多くの中国人は家族というよりスマホと一緒に過ごしたと言えるかもしれない。中国中央テレビの春節聯歓晩会(略称:春晩、NHKの紅白歌合戦に相当)を見ながら、数億人の中国人はスマホを振ったり、指で画面を突いたりして、紅包(お年玉)獲得ゲームに夢中になった。この簡単な縁起担ぎ遊びが、将来多くの中国人の消費や決済行動を大きく変える可能性があることを意識もせずに。

■8.1億回/分のスマホ振り、8.8億回/分の画面クリック■

 紅包獲得ゲームを企画・リードしたのは中国ネット会社の二雄、アリババとテンセントだった。最初に同ゲームの導入者であるテンセントの場合、利用者が社交アプリ「微信」(Wechat、Lineに類似)の「端末を振る」機能を使い、春晩司会の口頭案内およびテレビ画面のテロップ案内に従って特定の時間帯に端末を振ることで、テンセント社、あるいは各協賛会社からの電子マネー、割引券等の電子お年玉を受け取ることができる。

 アリババの場合、モバイル決済アプリ「支払宝」(alipay)を起動し、決まった時間帯になると、画面に飛んでいる紅包画像を指で突いてお年玉をキャッチする。獲得した電子マネーは、それぞれのアプリとリンクした銀行カードに預金として振り替えることは勿論、資金運用機能を通じてMMFファンドの購入や、決済機能を通じて各種支払いに充てることもできる。

 平均金額が約10元(190円)と非常に少額でも、紅包は縁起の良さから人気が高い。テンセントでは、大晦日22時30分の春晩と視聴者のインターアクティブ時間帯に、最大8.1億回/分の「スマホ振り」が記録された。アリババは、同日20:00の紅包ゲーム時間帯のピーク時に8.8億回/分の画面アクセスを発表し、どちらも大半の中国人が動員された模様だ。

 また、企業から一方的に贈られる紅包だけではなく、一般消費者でも同機能を使って親戚友人との間で個別に紅包を授受できることはこのイベントの醍醐味である。微信や支払宝のアカウントを銀行カードとリンクしたユーザーならば、アプリを使って自由に支払う総金額と配布個数を設定して紅包を作り、微信等を通じて挨拶文を添えて親戚友人に配布できる。多くの利用者は企業からの数元、数十元のお年玉をもらうよりも、春節社交の場面でこの紅包の機能を利用しているとされている。

■利用者はゲームや社交を楽しむ、運営者はモバイル決済のユーザーを獲得■

 インターネット企業は莫大な投資をして消費者に紅包を贈ることでモバイル決済ユーザーを低コストで獲得した。2月18日の大晦日にテンセント微信を通じて授受された紅包の数は10.1億個と、2014年大晦日の482万個の210倍に相当する。テンセントは2014年旧正月期間中の2日間でユーザーアカウントに2億枚の個人銀行カードをリンクさせており、2015年旧正月期間の実績も期待される。

 支払宝も大晦日当日の紅包の授受数が2.4億個、総額が40億元に達したと報じられている。また、大手2社に加えて、微博(ツィッターに相当する)、社交ツールの陌陌(MOMO)等も独自の紅包ゲームによる決済ユーザー争奪戦に参戦した。

 紅包活動は大手ネット企業が消費者の囲い込む巧みな手段であるが、中国人の消費行動を早くモバイル決済に導く大きなきっかけであることも確かである。紅包の最大の功績はユーザーにモバイル決済の利用体験機会を自然に与えることである。主力企業は自社のモバイル決済プラットフォームの構築に力を入れている。電話代支払、MMF運用、タクシー予約、ネットショッピング、宝くじ、レストラン、各種チケット購入等、生活の様々な場面をカバーできるモバイル予約/決済のプラットフォームを作り上げようとしている。ユーザーの銀行カードをこのプラットフォームに誘導することは第一歩、しかも最も重要な一歩と言っても過言ではない。

■爆発的に拡大しているモバイル決済市場■

 中国のモバイル決済市場は近年急速に拡大している。スマホの普及や4G通信網の整備が強力な環境向上要因である。2014年の中国のスマホユーザーは約5億人、2018年までは8億人に拡大する見込みである。携帯電話ユーザーの中で、高速データ通信が可能である3G/4Gの利用者が約3~4割を占めている。携帯電話を通じたネットショッピングや決済を中心にモバイル決済市場の規模も急成長しており、2014年に7.8兆元、2013年より500%近く拡大した。

 モバイル決済の普及は従来の決済方式のビジネスを奪うだけではない、新しい事業とビジネスの創造にもつながり、経済全体にとってプラスである。支払の利便性を高めて、消費行動に移すまでのハードルを下げること以外に、様々な新しい需要を喚起することになる。

 たとえば、周辺店舗クーポンの表示による小売店の宣伝、決済セキュリティソフト、モバイル決済ユーザーの消費行動に対するビッグデータ分析サービス、お財布携帯の読取端末等々。モバイル決済の普及と共に、今後多くの新しい市場が創出されていくだろう。

 微信に友人からメッセージが届いた:「外国メディアの報道によると、2月18日の中国経済が崩壊寸前。8割以上の中国人が仕事に行けず、多く国民が酒や賭博やテレビで時間を潰し、無数の若者が数円の収入のために理性を失い、ひたすら携帯電話を振る……」。中国人の旧正月の行事が、これからまた一つ増えるそうだ。

(吉永東峰 株式会社ニーズ キャピタルデザイン 代表取締役)

【執筆者略歴】
 1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。

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