中国面面観

時勢造英雄 --話題の80後、90後CEOの顔ぶれ--

2015.07.31

 北京中南海のある会議室で、25歳の王鋭旭氏が李克強首相を相手に堂々と語り始めた。2015年1月27日のことだった。ここは李首相が主催した科学、教育、衛生の有識者を集めた座談会であり、王鋭旭氏は90後(90年代生まれ)の企業家を代表して、大学生の起業に対する政府支援の強化を提案した。80後(80年代生まれ)や90後は我慢知らずで、荒れた世代と揶揄された時期もあったが、一部の人々はすでに中国社会を支えるリーダーへと変わりつつある。

■若年層の起業を支えるインターネット革命■

 IT革命は若年層企業家を輩出させる土壌である。「80後 CEO」、「90後 CEO」のキーワード検索でヒットした記事をいくつか集めると、大体がインターネット関連の新興企業に関する内容である。

 例えば、80後CEOの代表者と評される李想氏だが、彼が立ち上げた会社は「自動車の家」というポータルサイトの運営会社である。「自動車の家」は消費者に自動車に関する様々なサービスを提供。その内容は販売価格や性能の検索機能、オンライン補修サービス予約機能のほか、自動車メーカーへのマーケティングサービスなどもある。

 また、90後CEOの代表者とされる余佳文氏は広州週末ネット技術社の設立者で、大学生向けのキャンパス社交APP(スマートフォン向けアプリケーション)の開発・運営を行っている。このAPPは授業の時間割管理を原点に、宿題・試験情報の交流、校内人脈作り、担当教員の行動パターンに基づく出席取り予測などのサービスを提供し、大学生の中で高い人気を得ている。

 ITのおかげで、アイデアと数人の開発チームで手軽に創業できるようになった。冒頭にあった王鋭旭氏が起業したきっかけは、デート資金をねん出するためのアルバイトだった。いくつかのアルバイト仲介業者から各種費用が騙し取られた苦い経験から、信用できるアルバイト仲介サービスを提供しようという思いが強くなり、15人の同級生や友人と一緒に「兼職猫」APPを開発した。この製品はダウロード数が急増しており、昨年は地元の投資基金から数百万元の出資を受けた。

 王鋭旭氏は農村出身で、両親が羊毛ビジネスを営んだが、事業に失敗して大きな借金が残された状況にあった。これが原因で大学時代は警備員のアルバイトや露天売店販売員等を経験した。近年の中国では特権階級の官僚二世や富豪二世が社会的資源を容易に入手できるという状況があり、社会階層が固定化する傾向があるとの懸念も高まっている。だが、ネット社会は平坦であり、彼のようなこれといった資源を持たない若者にもチャンスを与えている。

■時代の変化を反映する若い起業家の着眼点■

 若年起業家は彼らなりの着眼点で、同世代の需要を掘り起こしている。92年生まれの向仁楷氏が経営している会社は、ウェアラブル設備(身に着けられる)を販売している。主力製品は「キリンフレンド」というユーザーに正しい姿勢を保たせる電子製品である。

 はさみ付きバッチのような形で、襟や裾に固定できて、中のセンサーが装着した人の体の傾斜度合を図り、携帯電話との通信でユーザーに姿勢注意のメッセージを送るシステムである。製品ターゲットは00年以降生まれのさらに若い世代で、彼らの好みである「軽い、便利、インテリ、萌え」に沿って、製品の名前から、設計までかわいさをアピールしている。

 向仁楷氏が自身の起業優位性をこのように評価している。「90後の好みを必死に探ろうとしている会社より、90後の自分は90後や00後の好みをよく分かっている」、「“天然萌え”は、“作り萌え”より市場を獲得しやすいだろう」。

 大胆でユーモアさを求める80後、90後は消費の娯楽化という変化にマッチしているかもしれない。鄭淞文氏と呂日陽氏は外食チェーンを立ち上げる時に面白い試みをした。彼らは少しでも店の宣伝になるためと、中国の東北方言(日本の大阪弁のような位置付け)を話す猫(名は東北猫、Tom and JerryのTomを原型)のキャラクターを立ち上げ、方言でコントっぽく東北地方の文化や笑いを紹介する動画を配信している。

 外食チェーン立ち上げ以前に動画の方が中国で莫大な人気を得て、WeChat(Lineに相当するAPP)で60万人のフォロワーを獲得した。彼らの外食チェーンの主力商品はクレープのような“煎餅”という中国北部の伝統的食品である。しかし、東北猫の動画でファンを集め、各種店内パーティでファン向けのイベントを開催するというマーケティングの手法は非常に斬新だ。彼らの夢は「糖太宗煎餅」を中心に、自分たちの“煎餅王国”を作ることである。

■中国の希望を担う若者たちを政府が応援■

 若者の起業熱は中国経済の構造調整にとって不可欠であり、政府の後押しも受けている。国務院は5月に「大学イノベーション創業教育改革の実施意見について」という通達を発表した。学生の選抜、学校のカリキュラム設置、授業内容、大学内ベンチャー企業等様々な面で大学生の起業意識や起業技能を強化する要素を取り入れることを求めている。

 また、学籍管理制度を改革し、休学起業の学生を対象に一定年数の学籍保留や単位の認定等の優遇策の実施を要求した。すでに黒竜江省と天津市は関連の政策を発表した。それ以外に、大学新卒生の起業について、民間投資ファンドの設立促進、政府による銀行貸出の金利補助、減免税等の優遇策も打ち出されている。

 起業への期待が高いものの、失敗のリスクと代償も大きいだろう。この改革への期待の高さは、A株の創業板(新興市場)のバリュエーションの高さを見れば分かる。国内のインターネット関連の起業アイデアも、従来に比べ資金を獲得しやすくなり、中国のインターネットバブルだと懸念する声が上がっている。

 90%の起業は失敗に終わると言われるが、バブルがはじける音が消える後に生き残った10%の企業が中国の将来を切り開く力になれば、バブルの意味は大きいという意見もある。冒頭の王鋭旭氏が李首相に語った「大衆創業、万衆創新」がすでに政府高官の口癖のようになった。「時勢造英雄、英雄造時勢」(時勢が英雄を造り、英雄が時勢を造る)という若者の夢と献身に、中国の未来を託したのだ。

(吉永東峰株式会社ニーズキャピタルデザイン代表取締役)

【執筆者略歴】
1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。

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