中国面面観

個人投資家5Gの参戦 --国運に賭ける若者たち--

2015.07.31

 7~8年間の休眠期を耐えた中国の株式市場は、再び暴騰を迎えた。その上昇相場を買い支えている勢力として最も注目された人たちは、80~90年代生まれの若者で、いわゆる第5世代(5G)個人投資家である。彼らの投資手法はこれまでの個人投資家と比べて大胆な取引、迅速な反応という特徴があり、ここ一年弱の間に80~100%のリターンを得た人も少なくないと言われている。

■証券投資口座の開設数が急拡大、高学歴の若年層の割合が高まる■

 上海と深センの株式市場では2014年12月以降、新規証券投資口座の開設数が急増した。15年3月の月間新規開設数は両市場を合わせて763.4万件と、前回のピーク時である2007年8月の883.4万件に近付いている。

 深セン証券取引所の調査によると、2014年以降の新規口座開設者のうち、30歳以下は37.3%、50歳以上は14.0%を占める。一方で2013年末では30歳以下と50歳以上投資家が占める割合がそれぞれ11.7%と34.2%であり、新規参加者の若年化傾向が明らかである。また、学歴統計でみると、2014年から2015年3月までの新規投資家では、短大以上の高学歴を持つ人が65%以上を占める。確かに、新中国の第5世帯投資家と呼ばれるだけの異色さがある。

 先輩個人投資家と比較して、5G投資家の特徴ははっきりしている。第一に、彼らの情報収集はインターネットや株式投資アプリを活用しており、金融・産業に関する政策情報の収集・分析能力も高い。先輩投資家のように、証券会社の店頭や広場ダンスといった場所からの口コミ情報で投資することは少ない。

 第二に、高学歴ゆえに、彼らは新しい取引手法の学習が速い。信用取引、上海・香港・ストック・コネクト、新興マーケット(創業板、新三板)などへの関心や参加の度合が高い。

 第三に、取引の手法が大胆である。この一年間で上昇相場しか経験しておらず、ベアマーケットを知らないゆえに、高所恐怖症がなく、高値を追いたがる傾向がある。一方で企業業績やファンダメンタルズの勉強はやや不足しがちである。

 第四に、投資資金は多くない。数万元程度で親から渡された運だめしのようなものも多く、身軽で気軽に投資する学生やOLなども多い。

■A株証券市場の25年、個人投資家の世代交代も時代変化の縮図■

 中国株式市場の創設からの25年間を見てみると、個人投資家の参入ラッシュごとに、その時代の変化が色濃く出ている。

 1991-1996年の1Gを代表するのは、自営業者や出稼労働者のほか、自社株を持つ上場会社の従業員だった。インサイダーと株価操作が溢れる市場と、一晩で百万長者になる夢を見る狂気のギャンブラーはこの時代の記憶である。

 1996-2001年の2Gが直面する状況は、現在と少し類似している。特に後半は国有企業改革、銀行不良債権の処理、不動産市場化等で改革が一気に進む時期であった。また、この時期にインターネットの普及と株式ファンドという機関投資家勢力も拡大した。個人投資家は企業価値重視といった機関投資家の投資理念や投資手法に触れ始めた。

 2002-2007年の3Gは非流通の法人株や国有株を流通化させる改革(股権分置改革)の苦楽を味わった。この改革は個人投資家が投票権の行使によって、企業の意思決定に影響することを可能にした。改革による株式の供給増は一時的に株価の抑制要因になったが、2006年頃の大底で参入した個人投資家は、その後1年半の間で投資神話の続編を体験した。

 2008-2013年の4Gは国際金融危機や中国経済の浮き沈みを見てきた。4兆元の景気刺激策による需要急拡大にともなう株式相場の上昇と、その後の調整による株価の低迷も経験した。個人投資家は株式投資において経済発展・景気サイクルの判断を重視するようになった。

■「国運に賭ける」は投機の美化か、選択せざるを得ない現実か■

 国内では、今回の上昇相場のロジックを「国運に賭けよ」と分析している証券会社すらある。中国は高齢化社会に入る前に「中進国の罠」を回避するため、製造業の高度化を実現する必要がある。その需要創出の新しい担い手として、「一帯一路」(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)プランによるアジア途上国でのインフラ建設支援が挙げられる。

 このような大規模な国内外生産・需要生態の変革を遂げるには、高負債比率、ハイレバレッジ、銀行貸し渋りの現状を変える必要がある。「銀行に眠る国民の巨額の貯蓄を株式市場に配置転換させ、直接金融によってそのファイナンスを行うことが国の狙い」(=だから相場上昇は続くはずだ)、というロジックである。

 若き5G投資家はこれまでよりも複雑で深刻な局面に直面している。財政部の婁継偉部長は最近の談話で、中国が向こう5~10年間に50%以上の確率で「中進国の罠」に陥ってしまうとの懸念を示した。処方箋として、【1】農業、都市化、土地、社会保険等様々な改革を通じて、【2】6.5~7.0%の経済成長率を5~7年間維持して総需要を崩壊させず、【3】しかも負債比率の高まりを抑制すること――を挙げている。

 今の現実は、経済成長の鈍化はまだ続き、ニューノーマル(新常態)にまだ到達していない。さまざまな改革が宣言されたものの、成功に導く困難さは明確である。経済ファンダメンタルズと釣り合わない株価の高騰がバブルと評されることは、確かに反論し難い。しかし、これも5G投資家が「内憂外患」の際に、この「国運に賭けた国家戦略」に投じた賛成票かもしれない。

(吉永東峰株式会社ニーズキャピタルデザイン代表取締役)

【執筆者略歴】
1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。

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