中国面面観

五星紅旗はためくフランスのワイナリー

2015.07.31

 少し早めの夏休みを取り、フランスは北東部のアルザス地方に行ってきました。ライン川を隔ててドイツと国境を接するアルザスは、ボルドー、ブルゴーニュと並ぶ、フランスのワインの有数な産地です。

 そこには南北およそ170kmにわたるワイン街道があります。街道沿いには、ワイン造りとして有名な村々が点在し、ぶどう畑の美しい景色、赤レンガ色の屋根、木組みの家等々、まるで絵本の世界のようです。

 ワイナリー巡りの最中に、ふと目に入ったのは、青い空にはためく赤い旗――中国国旗の五星紅旗――。ボルドーだけでなく、アルザス地方にも中国資本が進出したなと実感した瞬間でした。

■ボルドーの中国豪商■

 アルザスのほぼ対角線上にあるフランス南西部の高級ワイン産地、ボルドー(Bordeaux)。2008年に中国本土資本が初めてこの地でワイナリーを買収しました。買い手は中国本土で不動産開発を営む大手民営企業の傘下企業で、オーナー会長の27歳(当時)の娘さんがワイン好きで、ワイナリーを訪れた後、気に入ったとか。ちなみに買収価格は200万ユーロでした。

 これを皮切りに、その後、多くの中国人がボルドーのワイナリーに興味を示し、買収が活発になりました。ボルドー地区で毎年多くのワイナリーが売買されていますが、現在、最大の買い手はフランス人と中国人で各3分の1を占めると言われています。多くの買収案件では、買い手が匿名であったり、買収方法も明らかにされなかったりしているので、具体的な案件数に関する統計はほとんどありません。

 一部の海外や中国の報道によると、中国人によって買収されたワイナリーは、2009年と2010年に各1~2件で、2011年から急増し、12件となり、2012年と2013年は各20~30件とピークをつけ、2014年には約10件となっています。ボルドー工商会議所の2013年時点の統計では、中国人が保有するボルドーのワイナリーは約60と示されています。これらから推測すると、現在は100近くになっている可能性があると見られます。

■買収は中級クラスのワイナリーに集中■

 中国資本によるワイナリーの買収は、そのほとんどが中級クラスで、それほど有名なところでないものや、経営困難に直面しているものに集中し、買収金額も数百万ユーロ規模が中心です。買い手は企業のほか、個人も少なくありません。2011年に中国の人気女優、趙薇夫妻が400万ユーロでシャトー・モンロー(Chateau Monlot)を買収したことが話題となりました。

 2011年以降は買収金額が1,000万ユーロ規模や、老舗のワイナリーの買収も見られるようになりました。2011年3月に通霊珠宝公司の沈東軍CEOが個人名義でシャトー・ローラン・デュコス(Chateau Laulan Ducos)を買収し、仏メディアは買収金額が1,000万ユーロをくだらないとしています。

 また、枸杞(クコ)酒の生産で有名な寧夏紅枸杞産業集団が1,000万ユーロでシャトー・デュ・グラン・ムエス (Chateau du Grand Moueys)を買収しました。さらに、2012年に、マカオのカジノのCEOが中部ブルゴーニュ地方の約800年の歴史のあるシャトー・ドゥ・ジュブレ・シャンベルタン(Chateau de Gevrey-Chambertin)を800万ユーロで買収しました。

■個人の嗜好から長期経営が目的■

 中国富裕層のワイナリー買収の目的は様々あります。女優や有名な建築家、企業CEOのように純粋にワインが好きな場合もあれば、投資移民のための購入や、単純に不動産投資目的の購入もあります。一部の買い手は、購入時にシャトーの内装を新しくして転売するという明確な目的をもっています。

 このような目的の場合、購入価格が数百万ユーロの規模の案件が多く見受けられます。この価格帯では、北京では高級な一戸建て、香港では高級マンションの一室しか手に入れることができません。しかし、ボルドーでは、お洒落なシャトーと共に、ぶどう畑が広がる田園風景を自分のものにし、周囲から羨望のまなざしを集めることができます。

 一方、長期投資目的でワイナリーを買収する場合、考慮する要因がかなり複雑になります。投資家は、価格、産地、ぶどうの質、シャトーの設備、販売先など様々の要件を検討しなければならないので、買収が決定されるまで約1年かかることが多いようです。

■中国資本への地元の愛憎■

 ボルドーでは約8,600のワイナリーがあり、中国人の所有が約100としても、所有率は1.2%未満です。しかし、中国人によるワイナリーの所有は、地元で一部懸念が上がっています。ボルドー地方のワイン経済が中国人によってコントロールされてしまうとか。また、現地の資源の略奪と破壊だと非難する声もあります。

 マカオのカジノCEOによる買収をめぐっては、「もしもわれわれが万里の長城を10メートルか50メートル買収したら、中国人はどう言うでしょう?」と疑問を投げた地元の経済人もいました。

 一方で売却したいワイナリー所有者も多く、買収でワイナリーが復活し、さらに地元の産業や雇用などの活性化につながるというプラスの見方もあります。特に、経営状況の思わしくない小規模ワイナリーのオーナーたちは、中国資本の参入を歓迎している様子です。

 また、中国人オーナーが、買収してからも既存の従業員の継続雇用を認めていることや、買収前からのワイナリー運営を継承している点で評価されています。「中国人はフランスでフランス産のワインを学んでいるだけだ」と好意的に伝えているメディアもあります。

 今回、筆者がアルザス地方に訪れたのも、知人である香港企業の社長一行が地元からワイナリー買収の話が持ちかけられ、その視察に同行したのです。ボルドーとアルザスで一つずつの購入を検討しているとか。

 見学したシャトーは、オーナー夫婦が心血を注いでフランス国内や、中国など海外から集めた資材を使って築いたもので、周囲にはぶどう畑が一面に広がっています。試飲した白ワインもなかなかでした。いつかワイナリーのオーナーの知人として舞い戻りたいものですね。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)  

【執筆者略歴】
1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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