中国面面観

北戴河会議の今むかし

2015.09.24

 8月は中国の話題をめぐり、世界の金融市場が激しく動いた一カ月でした。そうしたなか、ある日程が海外メディアを中心に大きくクローズアップされました。「北戴河会議」です。しかし、香港や日本、欧米のメディアが会議の日程・議題や見どころを具体的に報道した一方、奇妙なことに当の中国本土では、政府系メディアが今年の会議の開催を否定しました。さて実際はどうだったのでしょう。

■「中央夏期勤務地」を兼ねる海浜リゾート■

 北戴河は渤海湾に臨む美しい海浜リゾート地で、北京から東へ約300キロに位置しています。ここの政治的位置づけは中国共産党政権下において重要であり、単なる避暑地を超え、北京の釣魚台や人民大会堂などと比べても遜色ないという特殊な場所です。

 時を1940年代末期に遡ります。政権掌握がほぼ確実となった共産党は、1948年に傷病将校の療養施設として北戴河随一の景勝地である西山地区を選び、既存の別荘等を接収しました。なお、翌1949年6月に党上層部の指導者として最初に北戴河で療養したのは、後に十大元帥の筆頭に列せられた朱徳・総司令官(当時)でした。

 1952年に療養施設は党中央弁公庁(中国共産党中央委員会に直属する事務機構)の管轄となり、中央直属機関療養院に改名されました。翌1953年に党中央は、夏は北戴河で避暑しながら執務すると決めました。これが「中央暑期弁公制度」です(日本語に訳すと「中央夏期勤務制度」という感じです)。

 慣例では毎年7月末から8月半ばのうち約1週間、つまり中央政治局の年央会議と秋の中央委員会総会の間に、党の上層部は北戴河で避暑しながら執務します。ここで開く会議を庶民は「北戴河会議」と呼ぶようになりました。

■国運を左右する避暑地■

 北戴河では中国の国運にかかわる政策決定が、少なからず下されました。有名なのが1958年の北戴河会議です。これは「大躍進政策」にかかわる重要な会議で、鉄鋼の大量生産や人民公社の設立などの政策が決定されたほか、毛沢東が国民党の支配下にある金門島への砲撃(金門砲撃)を決めました。

 1953年から1965年にかけて、夏の党中央の重要会議はほとんど北戴河で開かれました。1966年に「中央暑期弁公制度」は「文化大革命」の影響で廃止され、北戴河会議も中止されましたが、改革開放後の1984年に復活しました。

 北戴河会議の再開後、国内外で最も注目されたのが、党大会開催前の準備会議です。第13~15回の党大会開催前、党中央、国務院、全人代、政治協商会議、中央軍事委員会の5つの組織の上層部が北戴河で準備作業に取り掛かり、党大会の報告や人事に関する議論もここで行われました。トウ小平が最後に北戴河に訪れたのは1992年7月で、ここで第14回党大会報告案を査読しました。

 胡錦涛政権になってからは、無駄遣いを止めようとする政策が打ち出されたことを受け、2003年から北戴河での夏季執務が再び行われなくなりました。「中央暑期弁公制度」と「北戴河会議」は再度、歴史の舞台に別れを告げました。

■今年は開いたか、開かなかったか?■

 それから10年以上経ち、夏の北戴河会議に関する話題もだいぶ静まりました。しかし、今年は中国の政局と経済動向への関心の高まり、香港紙の報道をきっかけに北戴河会議が再度注目を集めました。

 北戴河会議は非公開のため、開催の有無については、主に新華社、人民日報、中央テレビのニュースなどが報じる指導者たちの動向から伺うことになります。2003年以降、中央夏期勤務制度はなくなりましたが、現職あるいは退任した指導者たちが北戴河に姿を現す例が少なくありません。胡錦涛も習近平も夏に北戴河で休暇中の専門家などと面会したことがあります。

 今年は7月下旬から、指導者層の動きから北戴河会議が開催されるもようだとする観測記事が、海外メディアを中心に流れました。一方、中国本土では開催を否定した政府系メディアの報道くらいしか見当たりません。政府系の報道によれば、一部の政府要人が北戴河で避暑する専門家や研究者を訪れることはあるが、往年のような大がかりな会議はないそうです。私たち庶民にとって、会議の開催地は北京でも北戴河でも構いません。ただ、中国経済を良い方向に導いていく政策をしっかり打ち出してほしいと願うばかりです。

(李粹蓉 株式会社ニーズ キャピタルデザイン/主席研究員)

【執筆者略歴】
1988年京都大学経済学部卒業。1990年野村総合研究所に入社、2004年野村證券に転籍、同金融経済研究所経済調査部シニアエコノミスト、2006年野村資本市場研究所主任研究員、2007年野村アセットマネージメント総合企画室シニアマネジャー。野村グループでは約18年間勤務、その間エコノミストとして、統計データから経済構造、政治、社会など幅広い角度から、中国経済および中国金融資本市場を鋭く調査・分析。中国の金融・経済情勢に精通。平成13年度国際金融情報センター「中国研究会」(財務省委嘱)委員。

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