中国面面観

寒い中国需要に映える熱い国慶節消費

2015.11.27

 “渋滞した道路”、“観光客でぎゅうぎゅうの広場”、“爆買い集団で賑わう外国の街”といった光景は、ここ数年の国慶節関連ニュースではお馴染みとなっている。2015年も当たり前のように、そうした写真や映像が報道された。

 しかし、6月の株価暴落、7月以降の急速な経済成長鈍化、8月の人民元切り下げなどを受け、世界が中国需要の冷え込みに不安を膨らませている。そうしたなかでの国慶節の消費の堅調さだが、これも当たり前の現象なのか?いったい中国では何が起きているのだろう。

■消費の関心はサービスへ、供給ボトルネックが解消

 今年も国慶節の三大消費テーマといえば、映画、海外旅行、外食が挙げられる。10月1週目の国内映画興行収入は18.5億元と、14年の同10.5億元より76%増加した。海外旅行では、10月1-4日における出国者数(香港行きを除く)が前年同期比で37%伸び、日本、韓国、タイといった周辺国への渡航が大きく増加している。

 また、綱紀粛正で2013~2014年に不況を経験した飲食業も、繁盛している様子が各地で報じられている。中国の国内消費は公式統計では概ね堅調に推移しているが、サービス消費の拡大が下支えになっているようだ。

 サービス消費が急成長した背景に、供給ボトルネックの解消があるという仮説が出ている。映画の興行収入は14年後半以降50%の高い伸びがみられている。同時に中国国内のスクリーン数を見ると2010年以降ほぼ30~40%のペースで増えている。特に近年は中小都市で映画館・スクリーンの増設が速いとされている。映画館だけではなく、知育スクール、スポーツジムといったサービス施設の供給が近年拡大している。

 もともと病院や学校といった民間業者によるライセンスの取得が難しい社会サービス分野は、これまで供給が不足しており、それが原因で需要が抑制されてきた側面がある。 中国はモノづくりについて様々な過剰生産能力を抱えて、一部で投資の調整を強いられているが、サービス産業についてまだ供給を増やす余地が大きい。

■所得向上とインフラ整備でサービスの割安感が増強

 近年の相対的なサービス価格低下も、需要増加の背景にある。例えば、映画チケットの価格だが、中国の映画興行収入を映画鑑賞人数で割って得られる単価は30~40元ほどだが、ここ10年間ほとんど変っていない。一方で都市部の可処分所得は、およそ年12%程度のペースで増加してきた。つまり、映画の単価が変わらないのに対し、所得は過去の10年間で2.5倍になっているので、非常に割安感が出ている。

 また、旅行についても、これまでサービス水準の向上もあり、一人当たりの国内旅行支出は2005年以降平均して5%程度で増えている。個人が年間旅行回数を増やしている実情を考えると、1人当たり1回の旅行単価も所得の上昇率に比べると割安である。

■ネット関連の起業が急増し、サプライチェーンを形成

 サービスの利用コストを低下させる付随サービス、つまりサービス業のサプライチェーンが充実してきたことにも注目されよう。映画でも、旅行でも、サービスを利用するために、内容・タイトル検索やチケットの予約といった利用コストが発生する。その利用の利便性を高めながら、一部企業からの割引やキャンペーンを得られるといった新しいサービスが、インターネットとスマートフォンの普及に伴い、新しい付随的なオンラインサービスを増やしてきた。例えば、映画情報、チケット予約、座席指定等が、専門のウェブサイト、スマホ向けアプリを通じて気軽に予約出来ている。

 猫眼電影(Maoyan)、Gewara、百度糯米がその代表格である。個人向け国内小旅行の検索・予約サービスには、LVママ、同程旅行(LY.com)、要出発周辺遊(Yaochufa)等が挙げられる。これらの会社は近年設立された若い会社で、2010年以降から徐々に国内のプライベート・エクイティ(PE)ファンドから投資を受けて成長してきたケースが多い。今は供給が氾濫し、過剰競争になりつつある分野もあるが、サービスを利用する際の各種コストを下げて、サービス消費の拡大に寄与してきたことは確かであろう。

■中国新経済に如何に取り組むかは世界の課題

 李克強指数は中国経済の体温計として、最も注目される経済指標の一つだ。ただ、今の中国需要の実態を見る上で、李克強指数だけでは正しい判断が難しくなっている。中国経済の4割を占める鉱工業と製造業は14年から苦しい調整期に入って、代表格の李克強指数も既にゼロ近傍に近い水準の伸びを示唆している。

 しかし、経済の5割を占めるサービス業は割と堅調である。なかでも相対的に構成比が高い小売・外食・ホテルの販売は10%近い成長が続き、銀行貸出・保険料収入も10%以上のペースで拡大し、不動産業の販売回復に伴い5%ほど付加価値が伸びている。

 運輸・物流業では5%の旅客輸送量の成長と、ゼロに近い貨物の取扱量の伸びで水準は確かに低い。ただし、飛行機による輸送人数の伸びは10%以上であり、付加価値の高い宅配便の取扱い数量は前年比30%増のペースで拡大している。

 最近の中国経済は深い調整に入った部分のほかに、供給ボトルネックの解消や利用コストの低下によって抑制されていた需要が増えている部分が、同時に存在している。ニューエコノミーによる押し上げる力は、オールドエコノミーによる押し下げる力に敵わず、このため経済全体としては成長の鈍化が余儀なくされている。これが中国のオールドエコノミー需要の冷え込みで世界景気の不透明感が増している一方で、ニューエコノミーの部分が盛り上がるという国慶節の逆説的な現象の背景にあると思われる。

 ニューエコノミーは新需要であり、その裏には新しいサプライチェーンの構築がある。その新しいサプライチェーンに如何に組み入れられるかが、多くの企業にとって現実的な課題である。

(吉永東峰株式会社ニーズキャピタルデザイン代表取締役)

【執筆者略歴】
1998年法政大学経済学部卒業。同年コカコーラに入社、資金財務、経営企画に従事。2001年ネットチャイナ(現、新華ファイナンス)入社、中国金融情報サービスの企画とマーケティングを統括。2003年青山学院大学MBA in Financeを取得。2006年EuromoneyグループISI Emerging Markets日本支社長。2007年11月スパークス・アセット・マネジメントの中国プロジェクトに参画、QFIIをはじめQDIIのマーケティング、中国ファンドの運用企画などに携わる。

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