中国見聞録

中国視察レポート

2010.05.27
「バブルは杞憂か」

 去る5月18日から5月22日までの5日間、私は約1年半ぶりに中国を訪問しました。刻々と変貌を遂げる中国……過去10年間、年2~3回は中国に行っていましたので、急速な変化を目の当たりにして、ずいぶん久しぶり、といった感じがしました。

 今回の訪中目的は主として、中国経済の現状と上海万博以降の見通しを確認することでした。短期間ではありましたが、広州、深セン、南京、上海を訪問しました。南京から上海までは高速鉄道に乗り、上海では現在開催中の万博会場にも行ってきました。広州では中国大手証券・広発証券の幹部と中国経済の見通し、特に“不動産バブル”について意見交換しました。深センでは大手不動産会社「万科企業」の本社・万科中心(センター)の訪問と万科の開発した2万人が住む大型マンション「第五園」を視察しました。

 日本国内でやや神経質に報道されている“中国の不動産バブルとその崩壊の危険”は存在するのでしょうか。今回の現地視察から私なりの感想をまとめてみました。

 結論から言うと、中国の現状は決して危機的な不動産バブルには至っていないし、仮にその萌芽があるとしても、過去10年間と同様に政府のコントロール可能な範囲だと思いました。中国でいう土地価格は日本のそれとは違いますので簡単に説明しますと……日本の地価は所有権の価格であり、中国では“土地使用権”の価格なのです。中国では憲法で土地は“国家所有”と“農民集団所有”の二つに分類されており、都市の土地は国家所有、農村や都市郊外の土地は集団所有なのです。そして社会主義の中国では“土地の私有”という概念は存在せず“土地使用権”を“払下げ”または“割り当て”で取得するのです。日本や米国が犯した過ちを中国が避けられるであろう最大の要因はここにある、と私は思います。

 もちろん中国政府は今後、国民生活の向上と社会の安定に必要な経済成長を維持するために、急激な金融引き締めと大幅な人民元の切り上げを回避する一方で、”不動産価格急騰とバブル形成阻止”という難しい経済、金融のカジ取りを迫られるのは確かです。しかし、  現在の胡錦涛・温家宝政権は極めて有能であり、やり遂げると思います。

 先述したように、私は南京から上海まで高速鉄道に乗りました。南京から上海までは所要時間2時間20分、2等座席(日本でいう普通車、グリーン席ではありません)は日本の新幹線に比べ前席との間隔が広く、十分に足を伸ばせる余裕がありました。車内はとても綺麗で快適な乗り心地でした。万博会場に向かう乗客で満席でしたが、よく日本のテレビ等で報道されるぎゅうぎゅう詰めの車内ということではありませんでした。停車駅は丹陽、常州、蘇州、昆山の4つ、快適に上海に到着しました。2007年以前は約4時間かかっていたそうですから半分に短縮されたわけです。そして今年7月には、新たに別の高速鉄道「滬寧城際高速鉄路」が開通し、南京-上海間を1時間で走るそうです。停車する駅周辺は急速に開発が進み、新しい街が出現しています。当然、不動産も値上がり傾向にあるようですが、大きな問題にはなっていないとのことでした。

 大規模な国家プロジェクトによって、道路や鉄道が整備されると周辺の経済発展が促されます。人・モノの移動が活発になり、地方経済も活性化します。そして全国的にも企業収益が増大し、ひいては個人の所得水準が上昇し消費、生産活動も拡大するという好循環をもたらします。

 中国は第10次5カ年計画(2001~2005年)で大規模道路建設、道路輸送のインフラを整備し、長距離・大型輸送の面で鉄道輸送の不足を補うことに成功しました。また、第11次5カ年計画(2006~2010年)で国内高速道路網の骨格が完成し、特に長江デルタ、珠江デルタと京津冀地域では都市間の高速道路網も整備されました。第12次5カ年計画(2011~2015年)の重点建設プロジェクトは中西部と新設経済開発区の道路整備、そして最重点投資項目は鉄道建設です。2010年の鉄道総延長は約9万5000キロが見込まれ、武漢~広州高速鉄道(総延長1068キロ)が開通し、高速鉄道時代の到来といったところです。

 現在の中国は、東京オリンピック・東名高速道路・東海道新幹線・大阪万博……列島改造に沸き立った高度成長期の日本を髣髴(ほうふつ)させます。インフラが整備され、都市化が進む中では、途中で多少の停滞(日本では石油ショックがありましたが)があっても、まだ経済が成熟していないだけに立ち直りは早く、まだまだ成長を続けると考えるのが妥当ではないでしょうか。万博会場での中国の人々の熱気からそう伝わってきました。

 一方で、中国証券会社の幹部の「不動産の急激な値上がりによって都市の不動産が庶民の手の届く価格ではなくなっており、庶民の間にストレスがたまってきている」との話からは、日本のマスコミ報道にあるように、現在の不動産価格について少し行き過ぎがあるのかとの印象を受けました。しかし、中国の不動産市場は、広大な国土に高速道路網が完成し、高速鉄道が整備され、あるいは都市においては地下鉄網が整備され、都心のビル高層化が進む中で、緩やかながら安定的な成長を持続するのだろうと思います。

 そして、天安門広場に毛沢東の肖像が大きく掲げられている限り(民主主義のコストがかからない)、政治経済両面において中国は大きな過ちは犯さない……私はそう確信して日本に帰ってきました。

(内藤証券 廣瀬政弘)

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