中国見聞録

比べてみれば何が見える?

第18回「日中の水事情比較~梅雨と水資源と水ビジネス~」

◆梅雨本番、ジメジメした毎日ですが……

「比べてみれば何が見える?」。18回目の今回は「日中の水事情比較、~梅 雨と水資源と水ビジネス~」です。東京もついに梅雨入りしました。ぐずつ いた天気が続き、ゲリラ豪雨もある梅雨の毎日は、過ごしにくいものです。 一方で貴重な資源である水が一番もたらされる、とても重要な時期。ジメジ メした今の時期は、改めて水を考えるちょうど良い時なのかもしれません。 今回は日中の水事情について、資源、そしてビジネスの観点などからみてい きたいと思います。

◇日本の水~水不足の日本、梅雨の大切さ~

日本は海に囲まれ、四季を通じて雨も多く、水資源が豊富だというイメージ もあるでしょう。しかし、実際は1人あたりの年間の水資源量は世界平均の4 割弱にあたる3,230立方メートルにとどまっており、決して豊かというわけで ないようです。人間が利用可能なのは淡水ですが、この供給源である降雨は、 平均降水量でみると世界有数であるものの、面積を考慮した1人あたり降水総 量では約5,000立方メートル/人で世界平均の3分の1程度にとどまります。さ らに地形から河川の流れが急であり、淡水がすぐに海に出されることから、 安定的な取水は難しいようです。また、全国的に降雨が今の梅雨、そして夏 の台風シーズンに集中することが、水資源のバランスを難しくしています。 四国地方では、年間降水量の約半分がこの時期に集中しており、こうした意 味からも梅雨は非常に大切な時期であることは間違いないでしょう。

このような貴重な資源をめぐる水ビジネス。日本では、上下水道、農業・工 業用水などを提供する分野(サービス)は地方自治体が担っています。年間 で3兆円以上に上るとされる日本の水道事業は、漏水率が東京で3.6%と世界 でもトップクラス(ロンドンは26.5%)を記録するなど、効率的で競争力の ある分野となっています。

◆中国の水~偏った分布、水が足りない~

同じモンスーン地帯に属する中国ですが、年間の平均降水量は627ミリメー トルで、日本の4割弱、世界平均の8割弱に過ぎません。水資源は足りないの が現状です。1人あたりの水資源量は2,127立方メートルと世界平均の2割強だ けしかありません。ただ日本と比較した場合、1人あたり水資源量は日本の7 割弱、1人あたり降水総量は日本の9割に達しており、日本に及ばないものの、 そこまで大きな差ではないといえます。これは、中国の広大な国土が関係あ るようです。中国は国土が大きいだけに、雨が降る場所では降り、このため トータルの水資源量は大きな規模となるからです。

広大な国土は、一方で水資源の分布がかなり偏っているという現実も映し 出しています。経済が発展している沿海地域(東部)は人口が多く、産業も 発展しているために、内陸地域(西部)に比べると1人あたりの水資源量は不 足気味といいます。しかし、実は東西よりも南北の偏りのほうが深刻。南部 は何と全国の実に8割に上る水資源を保有しています。これは北部に比べて多 い降水量のおかげ。この多くが梅雨の恵みなのです。例年では年間降水量の 4割前後がこの時期にもたらされるといいます。一方で、このように集中した 降雨は往々にして洪水の原因になります。他方、梅雨のない北部では水不足 が起こりやすく、同じニュース番組で、洪水と干ばつの被害が同時に報道さ れることもあるのです。

このように多いながらも1人あたりにすると少なく、かつ地域によってかな り差がある中国の水資源。これらを扱う水ビジネスは、中国でも政府が主体 の官業です。水ビジネスの中心ともいえる上下水道の提供は、各地方政府の 参加にある国有企業が主に担当。06年で事業所数は2,500近くと日本と同じぐ らいの数のようです。営業収入は全体で凡そ970億元(約9,400億円)で日本 の3兆円と比べれば小規模。さらに赤字を計上している企業も少なくないよう です。ただ、中国の水は地質的な理由で一般的にそのままでの飲用には適さ ないとされている硬水。このため水道水をそのまま飲むことは少なく、多く は煮沸したり、ミネラルウォーターを買ったり、或いは家庭・職場では市販 の浄化水を飲みます。水ビジネスの柱である民間の飲用需要は、中国は水道 水以外の分野も考慮に入れる必要があるでしょう。

◇共通点~何よりも代え難い資源、官が主役~

それでは、共通点として何が考えられるでしょうか。まずは日中ともに水 は非常に貴重な資源であるという点が真っ先に挙げられるでしょう。どちら も梅雨という時期に水資源の多くを獲得していますが、変動も大きいもの。 莫大なインフラ投資を通じて、河川からの取水、ダムなどによる貯水、地下 水の利用など様々な方法がとられていますが、年間を通じて一定程度は常に ある需要に対して、安定・十分な供給を確保することは、容易ではありませ ん。さらに、水需要というのは、まず「生命」という観点から切実です。こ のほか産業にも必須なもの。農林業は分かりやすいですが、製造業でも不可 欠です。

このような公共の財産としての「水」だからこそ、基本的に政府が運営す る「官業」という共通点があるのでしょう。中国の水行政は複雑で、治水・ 上下水道の運営を水利部、上下水道インフラ整備を住房城郷建設部、水質保 全を国家環境保護部などが管轄しています。水利部が基本的には中心的な役 割を担っていますが、縦割りによる弊害などもみられるようです。さらに水 道料金は各地方にある程度の裁量権が与えられており、この点も日本に似て いると思われます。

◆相違点~中国で進む企業参入、上場の水道会社も~

それでは日中の相違点は何が考えられるでしょうか。大きな違いとして、 企業組織の参入度合いが日本より高いという点が挙げられると思います。水 ビジネスは上下水道の提供に加え、ダム建設・整備など水資源の開発・維持、 水道網、汚水処理場などの建設、再生化、淡水化、コンサルティングなど多 くの分野に広がります。このなかでも水道サービスという中核事業は、日本 では地方自治体の水道局が担当しており、企業組織として独立はしていませ ん。一方、中国では企業の参入が少しずつですが増えているようです。委託 契約、BOT(建設・所有・譲渡)、TOT(譲渡・運営・譲渡)などの方法で水 道事業を国有、民営、外資系の企業に部分的に開放。もちろん地方政府との つながりの深い国有系が強いですが、外資でも世界の水メジャーの多くが合 弁で進出しているほか、民営企業も育ってきています。

実際に水道事業を行う企業は、日本と異なり、上場することで多くの投資 家から資金を調達しています。弊社の取扱銘柄で見ても、地方政府系では天 津創業環保(01065)、上海陽晨投資(900935)、粤海投資(00270)、北京控 股(00392)、天津発展(00882)が挙げられます。傘下企業などを通じて、 水道事業を展開。政府との近さをメリットに地元を地盤にしつつ、他地域へ の市場開拓もみられます。このほか民営の中国水務(00855)もあります。た だし同社の経営トップは水利部出身であり、やはり政府との関係はキーポイ ントだと思われます。

中国の関係団体が毎年「10大水企業」を選定していますが、直近では天津 創業環保、北京市を地盤とするA株上場企業、水利部系の企業などが含まれて いるほか、スエズ、ヴェオリアといった世界水メジャーの系列企業などもみ られます。

◇結びにかえて~中国・水ビジネスの将来は?~

以上、簡単に水資源・水ビジネスの状況、特徴について、簡単に日中両国 を比較してみました。中国の水資源、水ビジネスの現状を考えると、最終的 には「深刻になっていく一方の水不足という問題」につきると思います。梅 雨の恵みがある中国も水資源は現実に十分ではありません。今でも大変なの に、国際機関の推計によると、2025年までに中国はとうとう「水ストレス」 国に仲間入りするとみられています。水ストレスとは水需給の逼迫度を測る 尺度で、今日、「水ストレス下にある」と判断されるのは中近東やアフリカ など。いずれも水問題が重大です。人口大国の中国が正真正銘に水不足に陥 った時のインパクトは大きなものでしょう。だからこそ、水不足を見据え、 政府、企業が動いています。

絶対に必要であるという「公共の財産」だからこそ政府がその事業を担って いるものの、必要なのに足りなければ、ここに巨大な需要、ビジネス、そし て市場ができることは必然。2025年までに世界の水ビジネスは幅広く含める と100兆円もの巨大市場に成長するといわれています。人口大国の中国でも、 大きな市場規模になると考えられます。だからこそ、世界の有力外資はすで に進出済み。日本も官民挙げての「オールジャパン」で挑んでいます。

ではどのような分野が伸びていくでしょうか。中核の水道事業を考えると、 政府だけの力ですべての地域・人々に安定・効率的な水供給を保障するのは 困難。企業、金融など市場の力の導入を増やしながら、これからも水道事業 を行っていくでしょう。ただし水は何よりも人間の「生命」に直結する資源。 だからこそ、基本的に官が主役の状況はこの先も変わらないと思います。仮 に市場原理にすべて依存して水道料金の引き上げが進んだ場合、まだまだ貧 富の格差が厳しい中国にとって大きな社会不安になります。生命に直結する からこそ、安易な引き上げをするべきではないでしょう。

水道事業も大きく伸びるとみられますが、より注目できるのは、インフラ整 備・改修、コンサルティングなど関連分野だと考えます。中国は水資源の利 用効率が非常に低く、同じ取水量で生産されるGDPは日本の24分の1程度にし かすぎません。水道インフラの整備・改修、節水と合わせた効果的な水利用 など、効率性の向上に向けたニーズが最重要になるでしょう。水道運営では、 地場系、特に政府系の企業や、管理ノウハウに優れた水メジャーに強みがあ ると思われます。ただ、このような関連分野では、地場系の民営企業、日本 のメーカーなどが入り込む余地が大きいと思われます。同時にこの分野はよ り大きな成長が見込めるといえるかもしれません。

水ビジネスを考えると、自然と水の大切さが身にしみてくるような気がしま す。毎日がジメジメしたこの梅雨も、改めて大きな役割があるのだなと。こ う考えると、今年の梅雨も一気に過ごしやすくなるかもしれません。

(中国部畦田和弘)

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