中国見聞録

比べてみれば何が見える?

2009.10.26
第20回「日中の通信業界比較~なくてはならない携帯電話~」

◆なくてはならない携帯電話

「比べてみれば何が見える?」。記念すべき20回目は「日中の通信業界比較~なくてはならない携帯電話~」です。毎日の生活で欠かすことができない携帯電話。電話にメールに、ネット検索に写真に……ないと生活できないという人も多いでしょうか。今回はこのような携帯電話を中心に、日中両国の通信業界の事情を見ていきたいと思います。

◇日本の通信業界 ~多機能化が進む飽和市場~

業界団体の統計によると、日本の電気通信事業者の売上高は全体で2006年度に15兆1036億円に達したといいます。利用者の加入・契約件数で見ると、固定電話は減少の傾向。一方、携帯電話は右肩上がりとなっており、今年9月末で1億963万3800件(法人契約を含む)。国民の大半が保有しているという計算になります。日本の携帯市場はある程度、飽和状態になったといえるでしょう。

このような日本の通信業界。ご存じの通り、NTTを筆頭に、KDDI、ソフトバンクの3強体制に概ねなっています。うち携帯電話では、今年9月末の契約件数でみますと、NTT傘下のNTTドコモが携帯電話の半分のシェアを確保。これをKDDIが28%、ソフトバンクモバイルが19%で追っています。日本の通信規格はほぼ3G(第三世代移動通信)です。NTTドコモとソフトバンクモバイルは3G技術の主流ともいえるW-CDMA。一方、KDDIはCDMA2000を採用しています。どちらも高速インターネットに対応する技術。日本の携帯はご存じの通り、ネットはもちろん、GPSやワンセグ、お財布など様々な機能を持つ……、もはや「電話」だけにはとどまらない、まるでドラえもんの四次元ポケットのようなものだと思えてなりません。

◆中国の通信業界 ~世界最大の携帯電話大国~  

一方、中国の通信業界。こちらは日本以上に携帯電話が主流であり、世界最大の携帯大国です。今年9月末の加入件数は7億1983万8000件で、世界1位。日本の7倍近くという巨大な市場です。9月の純増数は933万4000件に達しており、これはソフトバンクの累計加入件数の4割強。単純計算すると2カ月あまりでソフトバンクモバイルのユーザー数分の携帯市場が新たに生まれている訳ですから、この急成長ぶりがあらためて想像できるでしょうか。

中国の通信事業者の営業収益は2008年で8140億元(約12兆1000億円)に達しました。このうち携帯電話からの収入は全体の55%に達している一方、域内での固定電話は20%あまりに過ぎません。このような中国の通信業界は、日本と同様に大手3社による寡占状態。特徴はすべて国有であること。最大手は中国移動(00941)で、同社は世界最大の携帯電話ユーザー数を誇ります。契約件数で7割以上のトップシェアです。これに続くのが中国聯合網絡通信(香港)(中国聯通、00762)と中国電信(00728)で、それぞれ20%、6%強のシェアを有しています。

中国の携帯電話はこれまで2G(第二世代移動通信)が中心でした。規格はGSMと呼ばれ、SIMカードと呼ばれる電話番号などが記憶されたICチップを電話機に差し込むことで利用できます。中国の携帯電話はプリペイド(前払い)式が主流。前払いした通話料が足りなくなったら、気軽に入金できるシステム。先月、中国を訪れた際、私はまず空港でSIMカードを購入。これをレンタルした電話機に差し込み、利用しました。購入したSIMカードは入金すれば今後も使用可能。新しい携帯電話を買った場合も、それまで使っていたSIMカードが利用でき、簡単に電話番号を持ち運べます。日本の携帯ライフとは大きく違うのです。さらに、中国では双方向課金が主流。つまり発信側と着信側の両方に課金されるという体系です。発信側だけの課金である日本と大きく異なります。  

◇共通点 ~多くの人が利用する、「通話」だけではない電話機~

このような日中両国の携帯事情。どのような共通点があるでしょうか。まず、どちらも幅広い層が保有しているという点があるでしょう。日本では老若男女、所得の多寡に関わらず、ほとんどの人が保有。中国も同じです。電話機は高いものから安いものまで幅広く、高所得者層の独占物ではありません。大都市に比べ郊外の普及率は低いかもしれませんが、だからこそ中国の携帯電話市場の成長余地は大きいともいえるのです。

さらに両国とも、「通話」以外の機能も重要視されているようです。日本では通話よりもメールを利用するユーザーがたくさんいます。中国も同じで、メールがかなり頻繁に利用されています。中国ではショートメッセージ(携帯間で通じる文字受信サービス)が盛んであり、その量は膨大なもの。今年の旧正月の際には、「おめでとう」メールが中国移動のユーザーだけで過去最高の47億通に達したといいます。メール内容も多様です。先月、私が上海から杭州に移動した日に、携帯にメールが来ました。見ると杭州市政府からのメールで、杭州滞在を楽しんでくださいとの内容。これにはびっくりしました。

◆相違点 ~成長性に大きな違い、周辺市場にも特徴が~

このように日中両国の人々が電話に、メールに広く利用する携帯電話。でも詳しく見てみると、むしろ違いの方が多いかもしれません。まず、成長性・成長余地は段違いです。飽和水準に達している日本に比べ、中国は国民の5割強に過ぎず、単純計算でまだ6億人近くが持っていないということになります。国際機関の予測によると今年末には全世界の携帯電話ユーザーが46億人に達する模様。現在も、将来も中国がこの市場の主役を担い続けるでしょう。

このほか前述した通り、料金支払、課金方法などが大きく異なります。これらは両国の周辺市場、つまり携帯電話機、携帯コンテンツ・ショッピング市場などに大きな影響を与えています。日本では通信事業者が電話機のラインナップ、サービス内容などで主導権を保持。メーカー、コンテンツ企業などに与える影響は大きなものがあります。通信事業者は携帯サービスの高度化・多様化を推進。この結果、日本は世界でも有数の携帯サービス大国になりました。統計によるとモバイルビジネス(コンテンツ+ショッピング)は2008年で1兆3524億円という一大市場に拡大。前年比で17%増という成長市場です。一方、電話機では厳しい状況が続いており、足元では7四半期連続のマイナス成長。海外でも日本勢メーカーの携帯は振るいません。原因として通信事業者の求めに応じて多機能化を極めすぎたほか、2Gが国際的に主流な規格と異なっているために海外では柔軟に対応できない。国内でも通信事業者からの大規模な注文が続いたことで、競争原理がなかなか働かなかったなどの指摘も出されています。

一方、中国では前払い、SIMカード方式を基本とする非常に自由度が高い市場です。この結果、ユーザーやメーカー、コンテンツ企業などが主導権を持つ市場ともいえます。通信事業者同士の競争とは別に、メーカー、コンテンツ企業なども厳しい競争を繰り広げており、ユーザーは厳しく選別します。例えば中国の携帯電話機は非常にカスタマイズされています。この分競争も激しく、有名ブランドの偽物のようなものも出てきます。自由度が高いことで、競争も激しく、市場の変化も速く、大きいようです。

◇結びにかえて ~3G時代に突入~

中国の通信業界は今、3Gという大きな地殻変動を迎えています。元々、日中両国の違いとして日本は3G、中国は2Gが主流という点がありました。しかし9月末に中国聯通の3Gサービスが正式に商用化されたことで、3社のサービスがすべて出揃いました。本格的な3G時代がスタートしたのです。

3G時代の幕開けをきっかけに、ユーザーによる通信事業者、機種の変更、通信事業者などによる基地局など設備投資の拡大、対応機種の開発競争、付加価値サービスの投入など様々なビジネスチャンス、リスク、市場が新たに生まれます。このインパクトは大きいでしょう。元々、成長余地が非常に大きい上に、自由度が非常に高く、競争、変化も激しい中国市場。これに2Gから3Gへの転換という要素が加わるのです。3Gへの転換は簡単には進まないでしょうが、中長期的には主流になる可能性が高いでしょう。

中国の通信事業者、電話機メーカー、設備業者、コンテンツ企業などは外資を含めた、“戦国時代”を迎えたのかもしれません。まず主役の通信事業者。中国移動は中国が開発した3G規格である「TD-SCDMA」技術を採用し、「G3」というブランドでサービスを開始しています。国産である同技術の成功は至上命題であり、政策支援も期待できます。さらに同社は膨大な既存ユーザーを持っています。このほか、農村など新規マーケットの開拓能力も豊富でしょう。一方、中国聯通は、3Gの世界的な主流であるW-CDMA技術を採用。国際ローミングに有利であるほか、将来的な技術更新を考えると、主流規格である強みは大きいでしょう。このほか同社のコンテンツサービスは種類が豊富。「iPhone」の投入も決定しています。最後の中国電信は再編を通じて悲願ともいえる携帯電話事業に新規参入しました。CDMA2000の規格による、「天翼」というブランドでの3Gサービスを開始。巻き返しに転じています。同社の強みは固定・ブロードバンドの最大手として豊富な経営資源を持っていること。これらと携帯電話をセットにしたサービスプランを積極的に推進しています。さらに単方向課金(発信側のみへの課金)をいち早く導入しており、意気込みは大きいようです。

3Gは通信事業者以外の多くの企業にも影響を与えます。直接的にはまず、通信設備業者があるでしょう。3G推進を目的とした巨額の設備投資は設備業者に直接的な恩恵をもたらします。外資も強い同産業ですが、3G関連の受注に関しては国内勢が強く、6月までの獲得シェアは7割以上。中興通訊(00763)は国内のリーディングカンパニーです。このほか電話機で見れば、高付加価値化という流れは今後、ますます強まるでしょう。こうしたなかでは、ハイエンド製品は特に外資にとって強みになる可能性もあります。日本勢にとっても追い風。ただ中国は成長市場です。国内勢は内陸・農村部を射程に入れた製品に強みを持つと思われます。拡大するパイをより多く取るために、外資、国内勢入り乱れた戦国時代が今後も継続。TCL通訊(02618)、南京熊猫電子(00553)、康佳集団(200016)といった国内勢に加え、製造専門である台湾系の富士康国際(02038)と民営企業の比亜迪電子(00285)なども大きく関わってくるでしょう。

ただ、将来的に見る場合、モバイルビジネス(コンテンツ+ショッピング)が最も成長性が高いと考えられます。モバイルビジネスのすそ野は日本が中国よりも深く、これが日中両国の携帯電話市場における相違点の一つ。背景として中国では2Gが主流というインフラ的な限界がありました。しかし、中国は3G時代に突入しており、すでに多くの人がパソコンを通じて自由にネットを駆使することが可能です。3G時代を迎えて、携帯を通じたネットビジネス、つまり各種コンテンツやショッピングなどが、今まで以上に発展していく可能性は非常に高いと思われます。これらを担う中心は、恐らく中国のIT企業。阿里巴巴(01688)や騰訊控股(00700)などの大手IT企業も、この分野で攻勢を強めてくるかもしれません。

毎日の生活にとって、なくてはならないものである携帯電話。日本も中国も、ますます私たちの生活に深く入り込んでくることでしょう。今後も賢く使いながら、携帯電話とうまく付き合っていきたいものです。

(中国部 畦田和弘)

中国株取引のリスク
株価や為替の変動等により損失が生じるおそれがあります。
中国株取引の手数料について
中国株の手数料は、国内手数料、現地手数料、為替手数料と3種類の手数料があり、このスペースに表示するのが難しいため、詳細は中国株の「手数料とリスクについて」でご確認ください。
中国株は、クーリング・オフの対象にはなりません。
詳しくは手数料とリスクについてをご覧ください。