中国見聞録

比べてみれば何が見える?

2010.04.06
第21回「日中の住宅事情比較 ~マイホームは夢のまた夢?~」

◆憧れのマイホーム

 久しぶりの「比べてみれば何が見える?」。21回目は「日中の住宅事情比較~マイホームは夢のまた夢?~」です。春を迎え、新生活をスタートさせた人も多いでしょうか。引っ越しして新居での生活を始めた人、あるいは念願のマイホームを購入した人もいるかもしれません。「衣食住」の一角を占める住宅は私たちの毎日の生活で欠かすことができない重要なもの。マイホームは憧れです。今回は人々の生活、そして夢に関わる住宅、特に都市部の事情について、これを供給する不動産業界とあわせ、日中両国の比較をしていきたいと思います。

◇日本の住宅事情 ~都市部のマイホームは大変、市場も頭打ち~

 政府が2008年に実施した調査によると、日本全体の持ち家比率は61%となり、前回の調査(5年前)とほぼ変わりませんでした。ただ、地域間でばらつきがあり、東京都は45%と全国最低の水準となっています。持ち家のかたちとして全国的に最も一般的な一戸建ては、都市部では難しく、首都圏の新規分譲住宅の7割がマンションという状況。これもあり、住宅全体に占めるマンションの割合は東京が全国トップの70%となっています。都市部に住む人々にとっては、マイホームは手を伸ばせる範囲でもマンション。庭付き一戸建てはなかなか厳しい。少なくない人がマイホームを夢見ながら賃貸住宅に住んでいる……、このような状況が見て取れるでしょうか。

 一方、住宅供給を担う不動産業界の状況を見てみると、概ねバブル期を頂点とし、その後は頭打ちの状態が続いていると思われます。マンション供給数はバブル以降、20万戸の水準で頭打ちとなり、直近では不況の影響もあり、2008年は前年比26%減の16.7万戸に縮小。土地価格も全国的にバブル以降下落が続いています。首都圏でもマンションの平均分譲価格は4535万円で7年ぶりに下落しました。不動産業界の売上高はバブル期に40兆円を超え、ピークを迎えた後はこれを抜くことはできていません。

◆中国の住宅事情 ~1998年の改革で持ち家が拡大~  

 中国都市部の持ち家比率は政府発表によると2007年時点で8割を超えています。これは国際的に高い水準ですが、実態を示していないという批判もあります。2009年の不動産市場は個人による住宅需要の拡大に加え、政府による販売奨励策の効果もあり、空前の活況を呈しました。販売面積は前年比42%増の9億3713万平方メートルと過去最高、販売額は76%増の4兆4000億元(約60兆円)と急増。報道によると単純計算した1平方メートルあたりの販売価格は4695元(6万4000円)になり、前年に比べ24%上昇。上昇幅は過去15年間で最大となりました。

 住宅環境は1998年から始まった住宅供給制度の改革が大きなポイントとなりました。改革前の都市部住民、特に国有企業の従業員は、職場から供給された集合住宅(社宅)に住むというかたちが一般的。住宅は「供給される」という要素が大きいものでした。しかし、改革後は個人による自由意思での購入が奨励され、「購入する」という要素が拡大。民間企業も進出し、分譲住宅の市場が発展しました。さらに今までの社宅もほとんどが払い下げられ、元から住む市民は安い値段で住宅を取得。このような経緯が持ち家比率の高さにつながったのかもしれません。

 中国の不動産の大きな特徴として、土地がすべて国有・集団所有という点が挙げられます。土地は使用権だけが時限、用途などが定められたかたちで政府から払い下げられ、市場で流通します。都市部では不動産会社が土地使用権を取得し、マンションを建設、販売するというかたちが一般的。日本で見られるような土地・建物ともに個人名義である一戸建て住宅というものはありません。

 住宅購入を考える人々にとって、現在のマンション価格の高騰は非常に頭の痛い問題となっています。特に大都市部で上昇ピッチが速く、市民の我慢も限界に達しているという指摘も。一方、住宅需要の増加、価格上昇にともない、住宅を販売する不動産業界は参入が容易で利益も見込めるということで多くの企業が進出しており、業界全体では潤っているもようです。全体の利益率は30%を超えているともいわれ、国際的な平均水準である5%前後を大きく上回り、“暴利業界”という批判も付きまとっているといいます。  

◇共通点 ~とても重要な住宅、でも“高嶺の花“~

 このような日中両国の住宅事情。どのような共通点があるでしょうか。第一に、住宅は人々の一生に大きく関係し、関心も非常に高いという点があるでしょう。住宅購入は一生で最も重要な買い物です。さらに融資を提供する銀行、住宅を販売する不動産会社、施工する建設会社など関連する業界も大きく、経済的にも重要と位置付けられます。

 また、当たり前のことですが、両国ともに大都市部での価格が高く、“高値の花”状態であるという点も似ています。最新の統計によると日本の1世帯あたりの平均所得額は556万円。首都圏のマンション(70平方メートル基準)の平均分譲価格はこの8倍の4535万円(1平方メートルあたり64万円)となり、簡単に手が出せる金額ではありません。一方、中国でも大都市圏を中心に不動産価格が高騰しており、報道によると、2009年10-12月期の北京市の四環より内側(市内でも利便性が高い地区)の販売価格は平均で1平方メートルあたり約2万6000元(36万円)。90平方メートルのマンションを購入した場合、234万元(3200万円)に達します。仮に年間所得が8万元(110万円)の世帯があるとすると、購入価格は29倍という高さです。こんなことでは飲まず食わずで働かなければならない……、というような極端な計算すら成り立つかもしれません。もちろん世帯、場所などによって状況は異なります。ただ、現在の都市部が東京と比べても極端に安いというような状況ではないということはいえるのかもしれません。

◆相違点 ~結婚する時に、マンション購入は必須??~

 一方、両国の住宅事情を見てみると、むしろ違いのほうが多いかもしれません。最初に中国都市部の持ち家比率が日本よりも高いという点が挙げられます。日本では持ち家の最も一般的なかたちは一戸建てですが、中国都市部ではマンションです。ただ、政府発表の8割という比率は実態を正確に反映していないという批判も多く、現実的にはより詳細な状況を把握するのは困難ともいえます。ただ、見聞きした話などを総合しても、中国の都市部では日本に比べても「マンションを購入する」という行為が一般的であるように思われます。

 第一に、人生の大きな転換点である結婚で大きく異なります。日本では結婚する際、まずマンションを借り、二人で働きながら貯金をし、その後に家族が増えることも考えて、新居を購入するというケースが多いと思われます。何よりマンションを保有していることが、結婚の前提条件とはならないでしょう。だが、中国の都市部では結婚の際に男性はマンションを購入しておく必要があります。用意できなければ、結婚できない、このような現実が重くのしかかっているといいます。もちろん、すべてのケースがそうとは限りませんが、私の中国の友人も、多くが結婚に際してマンション購入で頭を抱えており、少なくとも結婚時の“持ち家”圧力は日本よりはるかに強いでしょう。

 第二に賃借しようにも、家賃も高いという要因があります。北京、上海などの大都市では若年層が支払う家賃が2000元(2万7000円)前後といわれています。統計上の上海市の平均月収は3000元(約4万1000円)強。もちろん人によって所得水準は異なりますが、2000元という家賃は決して安いものではないでしょう。マンションを借りても、高いものは高いのです。こうしたなか、中国は経済成長にともない物価の上昇基調が続いており、マンションも販売、賃貸ともに価格上昇の圧力は強いと思われます。今後、マンションの販売、賃貸価格がどうなるのか、不透明な部分も多いでしょう。仮に将来も上昇し続けるならば、賃借しても家賃は上がります。それならばこれ以上販売価格が上がる前に、今のうちマンションを購入したほうが得であり、さらに保有するマンションの資産価値上昇も見込めます。賃借よりも購入するほうが将来的に有利かも……元々持ち家志向が強いなかで、このような心理がマンション購入を後押しするのかもしれません。

 購入すれば、家庭は当然に住宅ローンを抱えます。この時、中国のローン負担の圧力は相対的にみて日本よりも大きいという違いが指摘できるかもしれません。もちろん、日本でも負担は大きいですが、ただ日本では一般的にローン負担額の世帯収入に対する割合(返済比率)は3割前後、購入額÷収入の比率は3倍前後とされ、この比率を大きく超えると銀行からローンを受けることが難しくなるといいます。一方、中国の都市部はほとんどが6倍を超えており、北京などの大都市ではこの比率がさらに跳ね上がり、20倍を超えるともいいます。中国では両親などの支援を受け、購入者は最初に多額の頭金を出すというケースが多く、これが影響しているかもしれません。さらに統計の取り方などで違いもあるでしょう。ただ、現実として“不動産価格はあまりに高すぎて許容できない”という不満が市民の間で日増しに高まっています。日本以上の“高嶺の花”であるマンションを購入した人々は、ローンという“非常に重い荷物”も背負っているのでしょう。「房奴」という言葉が中国では広く使われており、意味は「住宅ローンの支払いに追われている人たち」。一般的に収入の半分以上がローン支払いで消えていく住宅購入者を指し、ある調査によると3割以上の人々が該当するといいます。「房奴」を扱った「蝸居」(カタツムリの家)というテレビドラマが大きな話題になったことからも、「房奴」が大きな社会問題になっているのでしょう。

◇結びにかえて ~不動産バブルの抑制は重要~

 販売・賃貸ともに価格が高い、しかも足元では価格の上昇が急ピッチ。こうしたなかでも持ち家志向は強く、少なからぬ市民がマンション購入で重い住宅ローンを抱えている……、中国の住宅事情はこのような特徴があるのかもしれません。中国は今後も都市化が進展するとみられ、都市の拡大、都市住民の増加基調は変わらないでしょう。こうしたなか、安定的な住宅供給は市民、政府双方にとって非常に重要な課題です。中国では現在、廉価な住宅供給、特に賃貸住宅の供給が重視されています。住宅の購入は容易にはできません。一方、都市部で生活するのに住居は不可欠であり、日本の県営住宅のような廉価の賃貸住宅の拡充は喫緊の課題です。いかに官民合わせて不動産業界がこの分野の賃貸住宅を供給できるかが、長期的に重要となってくるでしょう。

 ただ、中国の住宅事情を考える際、「投資・投機」という要素をいかに抑えられるかという点が、最も重要になると私は考えます。なぜなら高水準の価格の背景に、不動産が「投資・投機」の対象として活発に取引されるという、「炒房・炒地」という現状があるからです。日本でもバブルの時代には豊富な資金流動性を背景に、土地・マンション価格が高騰。不動産が投機対象ともなりました。中国でも現在、同じような“バブル”が起きています。金融緩和を背景にマネーがだぶつき、マンションを投資目的で購入。最近では海南省が将来の一大リゾート期待から価格が急騰しました。中国では日本でいう固定資産税がないために、不動産を投資目的で保有するコストは小さいといえます。さらにインフレにも強く、最近の価格上昇局面では銀行預金、あるいは株式投資よりも高いリターンが期待できます。相続税もないために子供への継承も容易。日本よりも不動産投資にとって良好な環境が整っているのです。

 ただ、不動産の“実需”は人々にとって切実であり、生存、一生をも左右しかねない非常に重要なもの。中国経済の発展、都市化の進展にともない、“実需”は今後も拡大するでしょう。こうしたなか、政府は不動産バブルの抑制に本腰を入れています。過度な投機を防ぐことは、住宅環境の改善、不動産業界の発展にとっても中長期的に必須であり、プラスに働きます。税制の改革も遠い話ではないでしょう。不動産企業にとっても、不動産投資や、大規模・高級・リゾート型の住宅開発に頼らず、広範囲の実需に基づいた低価格帯の賃貸・分譲住宅を供給していくことが、より重要になっていくと考えられます。

(中国部 畦田和弘)

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