中国見聞録

比べてみれば何が見える?

2010.07.28
第22回「日中のメディア比較、激変する中国メディア業界」

◆メディアを通じて観戦 ~ワールドカップではお世話になりました~

 「比べてみれば何が見える?」。22回目は、「日中のメディア比較、激変する中国メディア業界」です。多くの人が熱中したワールドカップも閉幕してしまいましたが、期間中に眠い目を擦りながらテレビの前にかじりついた方も多いでしょう。かくいう私も、深夜のデンマーク戦を徹夜で見たものです。大きなスポーツイベントがあるたびに、私たちはメディアを通じて観戦。メディアを普段よりも身近に感じるかもしれません。このほかにも毎日のニュース、文化・芸能など色々な情報を伝えてくれます。今回はこのようなメディア業界について、特にマスメディアに焦点を当てて両国を比較してみたいと思います。

◇日本のメディア業界 ~大手メディアを中心とする業界、近年は縮小傾向~

 まずは日本のメディア業界を見てみましょう。メディアは広い概念であり、定義も様々ですが、ここでは財団法人デジタルコンテンツ協会が発表している「デジタルコンテンツ白書2009」に依り、コンテンツ≒メディアと考えます。
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20090826_310898.html

 これによると、2008年の市場規模は13兆8282億元となり、前年比で2.6%減少しました。リーマンショックの影響などもあったのですが、縮小傾向は以前から続く、構造的なもののようです。コンテンツの分野別で見ると、図書・新聞、画像・テキストが全体の44%、映像が35%、音楽・音声が13%、ゲームが8%という割合。流通別で見ると、パッケージ(新聞・書籍など「モノ」を介在させる方法)が49%、放送が29%、拠点サービス(映画館・コンサート場など)が13%、ネットが6%、携帯電話が4%でした。ここ数年の変化を見るとコンテンツの内容に大きな変化は見られないものの、流通方法では次第に「モノ」や「場所」を介さないネット、携帯電話の比率が増してきています。

 日本のメディア、特にマスメディア業界を俯瞰すると、大手新聞社を頂点に置く複数のメディアグループと、国営放送であるNHKが並び立っているように見えます。大手マスメディアの影響力は大きく、NHK、民法キー局の報道内容は全国津々浦々まで届きます。ただ、これら伝統的なマスメディアはここ数年、軒並み苦しい状況に追い込まれているようです。主な収益源である広告収入が不況で落ち込むなか、ネットなどほかのメディアとの競争が激しくなってきているからです。

◆中国のメディア業界 ~携帯・ネットが急成長、戦国模様~

 一方、中国のメディア業界。清華大学が毎年発表する「中国メディア産業報告」(中国伝媒藍皮書)によると、2009年のメディア産業の市場規模は4908億元(約6兆7250億円)。日本と比べ定義などにいくつかの違いはあるものの、大雑把に見て半分弱の規模というところでしょうか。しかし、成長率では日本を大きく上回り、2009年は前年比で16%増加。報告書によると2010年も2ケタ成長が続く見込みです。

 市場規模の内訳は、テレビ・ラジオ放送が全体の1割強、パッケージ型の代表でもある新聞・書籍・雑誌が3割弱となっています。代わりにネットが1割のシェア。そして携帯電話がトップの3割を占める状況です。携帯、ネットという2つの媒体はメディア産業発展の両輪。2004年では新聞、書籍、テレビ・ラジオの合計が半分以上を占めていたなか、携帯は1割、ネットは2%ほど。これら2つの新興メディアは5年間でそれぞれ7倍、10倍の規模となり、あっという間に新聞、書籍、テレビ・ラジオというマスメディアに追いついてきました。

 新聞、テレビ・ラジオという従来型のマスメディアは、戦国模様の様相です。新聞では地方ごとに、地元の共産党機関紙を頂点に置く地元新聞社が無数に存在。党機関紙といっても、多くは自立経営であり、商業的な色彩の濃い大衆紙を前面に出しています。政治、社会、経済、芸能・スポーツ面など、内容は多彩。かなり派手な印象です。さらに値段が非常に安く、企業HPで新聞内容がほぼすべて読めるというケースも多い様子。ただし、広告の量は半端ではありません。
http://bjwb.bjd.com.cn/
(北京を代表する夕刊紙である北京晩報のHP)

 テレビでは多チャンネル化が非常に進んでおり、有料チャンネルに加入しなくても、本当にたくさんのチャンネルを視聴することができます。唯一の国家級テレビ局であるCCTV(中国中央電視台)は日本でいうNHKに相当。このほか各省に最低1局は省級のテレビ局があり、さらに市レベルでもあるほどです。加えてテレビ局は複数のチャンネルを持っており、最大手のCCTVは10以上を持つほど。全国どこでも視聴できる衛星放送・ケーブルテレビなどのチャンネルがあり、これが多チャンネル化の背景にあります。中国のテレビ局は新聞と同じく政府系列と考えられます。ただ、CCTVを含め、中国のテレビ局は基本的に広告収入を糧に経営されているため、多チャンネル化、全国一律という戦国模様のなか、重要な広告料収入を求めて短い時間のCMで、多くの企業のものを流していきます。視聴率競争も激しいものです。
http://bugu.cntv.cn/live/index.shtml
(CCTVのHP、ネットでCCTVのすべてのチャンネルをリアルタイムで視聴できる)

◇両国の共通点 ~携帯・ネットへのシフトが進むなか、厳しい競争が続く~

 以上、簡単に両国のメディア、特にマスメディア業界を見てきました。共通点としてどちらも世論形成に大きな役割を果たす重要産業であり、外資規制など政府からの規制も少なからず存在します。どちらも広告収入に大きく依存しており、読者数・視聴率の引き上げ、これにともなう広告収入の増加などに向け、競争を繰り広げています。ただ、内容の伴わないコンテンツは結局のところ市民からそっぽを向けられるのは両国とも同じこと。ユーザーの厳しい目が向けられています。同時に既存メディアの地殻変動が起きていることも共通しています。新聞・書籍、テレビなどという今までの伝統的な手段から、携帯、ネットに大きくシフトしてきているのです。企業が大手、新興関わらず、この流れに適応していかないと生き残ることが難しい、そんな状況に益々なっていくのでしょうか。

◆両国の相違点 ~グループ化、全国化は道半ば~

 一方、両国を比べるとむしろ相違点の方が多いかもしれません。すでに新聞、テレビなどで相違点をいくつか挙げてきましたが、やはり情報検閲・統制という点も重要です。中国の規制は日本よりもはるかに厳しく、最近ではグーグルと中国政府との間で、ネット上での情報規制について争いがありました。ただ、それで中国メディアはすべて報道内容が同じであり、政府の言いなりなのかといえば、必ずしもそうではありません。政府を批判する報道がありますし、各メディアは報道内容を競い合い、多種多様です。

 さらに注目すべき相違点として、中国は日本に比べメディアの垣根を超えたグループ化、全国化が進んでいないという点が挙げられます。日本では大手新聞社を中心にするメディアグループが形成され、全国での存在感は巨大。地方新聞、地方テレビ局は存在するものの、地元ですらローカルの域を出ないことが多いでしょう。一方、中国では各メディアのなかでのグループ化が現在のところ進んでいる段階。垣根を超えた全国的な再編・グループ化は見られないほか、大手も全国的に圧倒的なシェアを持っているわけではありません。人民日報でも、発行部数では日本の大新聞に及びません。CCTVは業界のガリバーですが、CCTVと同様に、多くのテレビ局の番組を全国津々浦々で見ることができます。

◆結びにかえて ~上場して調達した資金で、「三網融合」の時代に勝ち抜く~

 背景を考えるに、日本と中国での上場企業数の差があります。中国ではメディア企業が再編、グループ化の最中であり、多くは未上場のままです。一方、日本では主要新聞社、民放キー局の多くは上場しています。どうして中国企業の上場が少ないのでしょうか。メディア企業は元々上場が難しく、上場してもコンテンツの「制作・編集」部門を切り離さなければならないという規制がありました。最重要の編集部門が上場企業ないという状況。弊社の取扱銘柄を見ると、本土登記の四川新華文軒(00811)、北青伝媒(01000)はともに編集権がありません。テレビ局である電視広播(00511)、有線寛頻通訊(01097)、鳳凰衛視(02008)、新聞社である南華早報集団(00583)、星島新聞(01105)などはいずれも規制を受けない香港系企業で、編集部門を持っています。ただ、本土では外資に対する規制があるため、こうした香港系企業は広大な本土では概ねマイナーな存在。騰訊控股(00700)、阿里巴巴(01688)の両社は海外上場であり、外国の資本が入っているため、CCF方式(資本関係を持たずに、契約を交わすことで経営実体を支配下に置く方式)を採用せざるを得ない現状です。

 しかし、このような状況にも変化は見え始めています。携帯、ネットへのシフトという大きな転換期のなか、企業は資金を調達して、生き残り・成長するための設備投資に意欲的。ただ資本市場からの調達が困難な現状は、企業、業界全体にとって深刻なボトルネックとなっています。発展と規制、両方を天秤にかけながら、政府は徐々に規制を緩め、上場を後押ししています。すでにA株では全体上場(編集部門も併せ持つ)のケースが出ています。本土での主要プレイヤーが香港など海外市場に上場してくる日も遠くはないでしょう。

 成長をかけ、調達資金で設備投資をする。業界はどのように発展していくのか。今後を考えるに、中国ではやはり「携帯」に注目しなければならないでしょう。中国ではマルチメディアの普及と携帯の普及が重なったと思えます。中国の携帯は依然として2Gが主流ですが、2Gでもすでにこれほどの携帯メディアの市場規模を作り出しているのです。通信速度が格段に増した3Gが今後さらに普及することを勘案すれば、成長余地は大きいと思えます。新聞・雑誌、テレビ、パソコン、携帯・スマートフォンなどメディアに触れる手段は様々ですが、一番の可能性を秘めているもの、それは携帯・スマートフォンでしょう。

 メディア業界を展望するに、もう一つ重要な要素があります。これは中国政府がこれから進める「三網融合」(通信、放送、ネットの融合:トリプルプレイ)です。これにより3者をより一体化したサービスの提供、双方の業種への参入、業種の垣根を超えた統合などが一層容易になるとされ、業界の大きな起爆剤として期待されています。このようなトレンドのなかで、携帯の3G時代はすでに始まっています。大きな市場チャンスが期待できるでしょう。

(中国部 畦田和弘)

中国株取引のリスク
株価や為替の変動等により損失が生じるおそれがあります。
中国株取引の手数料について
中国株の手数料は、国内手数料、現地手数料、為替手数料と3種類の手数料があり、このスペースに表示するのが難しいため、詳細は中国株の「手数料とリスクについて」でご確認ください。
中国株は、クーリング・オフの対象にはなりません。
詳しくは手数料とリスクについてをご覧ください。