中国見聞録

世界から見た中国

第2回「老人大国」

孔子、孟子、老子からトウ小平まで……偉大な中国人と言えば、お年寄りの 男性が思い浮かびやすい。ただし近い将来、お年寄りの男性が中国社会全体 の代表的な者になることは案外意識されていない。

◆働き盛りの中国人

国際連合人口部の統計に基づけば、2005年の生産年齢人口(15~59歳)は 中国の全人口の67.2%を占めていた。「年少人口」(15歳未満)と「高齢人 口」(60歳以上)を合わせた扶養比率は生産年齢人口100人当たり48.9人しか いなかった。日本は2005年に100人当たり67.5人だったが、いざなぎ景気のこ ろを振り返れば、1965年は54.7人、1970年は53.0人と、米国の77.8人、73.7 人をはるかに下回っていた。なお、文化大革命の最中だった中国は子供が多 く、扶養比率は89.2人、87.2人だった。当時の日本と同じように、現在の中 国でも有利な人口構造が景気の拡大に貢献している。米CSIS(戦略国際問題 研究所)によれば、改革開放以降のGDP(国内総生産)成長率は人口構造の変 化だけで年平均1.8ポイント押し上げられたとしている。

◆少子高齢化は日本だけではない

その有利な人口構造を作り出したのは、一人っ子政策の役割が大きかった。 日本語で「一人っ子政策」と言っても、夫婦はどちらでも兄弟がいなければ、 基本的に二人の子供を産むことができる。農村部では一人目の子供が女の子 だったら、男の子を産むチャンスを与える地域も多い。その結果、2005年に 一人の女性が生涯産む子供の数は平均で1.77人だった。他の国だったら、こ の数が2人を少し超えれば人口を維持できるが、中国の場合、男の子を好む傾 向は少子化に拍車をかける。社会全体で女性100人に対して男性107.7人がい た。特に若年層で男女の割合が偏っており、100人の少女に対して118.8人も の青年男性がいた。それを鑑みれば、人口維持に必要な子供の数は、中国の 場合、2.2人に近い。

それに届かないため、高齢化も進んでいく。2005年、中国の年齢中央値は32 .1歳と、日本の43.1歳や米国の36歳より若かったが、出産率が変わらなけれ ば、中国の中央年齢は2025年に39.1歳で、米国の38.2歳を上回り、さらに20 35年に43.2歳で今の日本の水準を超える(日本は2035年に54歳となる見通し) 。

扶養比率も2010年代前半から上昇に転じる見込み。出産率が変わらない仮 定で、老人の扶養比率は2035年に労働年齢層100人当たり46.0人となり、米国 の45.3人を抜く見込み(日本は84.5人)。子供を含んだ負担率も2050年に86 .1人と、米国の81.2人を追い越す予測(日本:122.8人)。この人口構造の悪 化はGDPの年間成長率を約0.7ポイント押し下げるといわれている。

◆年金制度の整備が急務

中国の高齢化は、先進国に比べ一人当たりGDPが比較的低い水準で進んでい る。2000年に、60歳以上の人が中国の人口に占める割合は10%に達し、中国 は高齢化社会の基準を満たした。当時の一人当たりGDPは約1000米ドルだった のに対し、先進国は高齢化社会に入った段階で、5000~1万米ドルもあった。 成長の早い段階で少子高齢化が進む中国では、現在および将来の老人を養う 負担も重い。計画経済では、国有企業が退職した労働者を世話したが、市場 経済に入った後、その制度が解体された(経過段階では、退職者の負担の重 さが企業によって大きく違っていたため、その重負担に苦しんでいた国有企 業も多かった)。かわりに政府が個人口座と社会プールという二つの柱から なる年金制度を設立した。具体的な実施が地方に任されているため、保険料 は地域によって違うが、理論上、個人口座は各々の労働者の年金財産になる。 しかし、新しいシステムを導入した際、保険料を払わずに退職した人(完全 未払者)と、退職する時までの期間が短く、わずかな保険料しか払わない労 働者(中途未払者)も多かった。足りない分の一部は政府からの補助金によ り賄っていたが、本来なら個人のものであるはずの個人口座に入った資金も 使われていた。結果として、資金が集まらない。

このように保険料は自分のためだけではなく、他人のためにも使われてい ることから、年金制度は加入するインセンティブに乏しい。中国で高齢化が 最も進んでいる上海市を例として挙げると、900万人あまりの従業者の中、「 城鎮職工養老保険」に加入する数は400万人強にとどまる。上海に「戸口」( 戸籍)を持たない労働者や農民工(出稼ぎ労働者)が加入できないこともあ り、年齢構造は一般社会よりも高齢に傾いている。2008年、上海は約70億元 の財政資金を投じて、年金保険の赤字を補った。社会保険全体の赤字を補う ための補助金は170億元を超え、上海市政府の財政支出の18%を占めた。09年 には赤字を補うために、上海市政府の財政は08年に比べ6~7%程度成長しな ければならないと、兪正声・上海市共産党委員会書記は指摘している。

◆資本市場の発展にも期待

年金制度への参加率の引き上げは、年金問題解決への鍵となる。そのため には年金制度に加入する魅力度の上昇、同制度への信頼感の改善が必須とな る。後者については、06年に発覚した上海社会保障基金をめぐる不祥事によ り制度運営への信頼が揺らいだものの、逆にこれが制度を整備するきっかけ にもなった。地域の社会保障基金が資金を全国社会保障基金に預け、資金運 営を委託することが普及した。この全国社会保障基金は積み立てた資金の運 用面で中心的な役割を果たしている。人口構造の変化を鑑みれば、賦課方式 では、被保険者にとって高い収益率が期待できない。積立方式でも、個人口 座の利回りは銀行預金の利息と連動され、3%程度に過ぎない。インフレ率に 満たず、実質ベースでマイナス利回りとなった年が大半を占める。その利回 りの低さの理由の一つは、本来なら個人口座に帰属すべき投資成果の一部が、 完全未払者と中途未払者の年金払いに回されたことにある。もう一つの理由 として、確定利付証券を重んじる投資戦略が挙げられる。このおかげで、株 式市場が大幅に下落した去年でも、投資収益率はマイナス6.79%にしか落ち 込まなかったが、現在の中国人の年齢構造を鑑みた投資戦略では、株式の割 合をもっと大きくすべきだろう。例えば米国の場合、年金基金と保険会社は 米国の上場株式の30%前後を保有しているのに対し、中国では全国社会保障 基金を含めても、わずか3%程度にとどまる。

経済発展や老後への備えのため、年金制度のさらなる発展や資金投資の効率 化が欠かせない。積立金額が足りない完全未払者、中途未払者の年金のため の補助金も拡大すべきである。従来の財政補助金、宝くじ収入に加え、中国 政府は所有資産でもある国有企業にも目を向けている。もとより国有企業の 年金負債であったこともあり、今でも国有企業の香港市場での新規発行株式 の10%ほどが全国社会保障基金に譲渡される仕組みを取り入れている。

今後、こうした年金制度の発展と積立年金資産の増加は、言うまでもなく、 株式市場にも大きな影響を及ぼすだろう。人口構造の変化も、経済成長を脅 かすことより、資金運用の効率化、労働生産性の向上、新しいシルバージェ ネレーションを対象とした事業の発展に貢献するものと捕らえるべきだろう。 経済の発展と人口構造の変化で日本より遅れている中国だが、互いに似てい る点が多く、中国政府が年金政策の決定に際して日本の(失敗も含めた)経 験を活かせると同じように、長期的な投資政策にも日本の経験を活かせるだ ろう。

(中国部ヤン・ヘフティ)

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