中国見聞録

世界から見た中国

第3回「“世界の工場”の排気ガス」

初めて「天下の台所」と聞いた時は、いい香りが漂ってくるイメージを想像 したが、「世界の工場」と聞いた時に想像した臭いは、少し違っていた:黒 い河川、空気汚染のため宇宙から見えなくなった都市、大型水力発電所の建 設で消えた生活圏……環境保護をめぐる中国の評判はあまり良くない。

だが、中国での環境保護に関する法律と規則は年々進化している。実施面で も、中国石油化工(00386.HK)とクウェート国際石油(Kuwait Petroleum I nternational Ltd.)は、投資額が80億米ドル以上に上る中国最大の石油精製 合弁会社を計画していたが、環境面の懸念を背景に、当初予定していた広東 省広州市南沙経済開発区で実現できず、立地の再検討を余儀なくされた。環 境保護を理由に変更を迫られた大規模プロジェクトとしては、福建省アモイ 市のキシレン生産プロジェクトに続いて今年2例目となる。

中国が京都議定書で温室効果ガスの削減義務を免れたことが、特に米国を削 減フレームワークに参加させるうえでの大きな支障になったと言われている。 クリーン開発メカニズム(CDM)の下で最大の排出権提供国にまで成長し、国 内でも排出権取引を始めた中国だが、環境汚染、経済発展と環境保護のバラ ンスはどうなのだろうか。

◆CO2の排出量は世界トップ

オランダ環境評価局(MNP)によれば、中国は2006年に米国を超えて世界最大 の二酸化炭素(CO2)排出国となった。2007年でも、中国は世界全体の24%、 米国は21%、欧州連合(EU)加盟15カ国(EU-15)は12%、インドは8%、ロ シアは6%と、経済規模の大きな発展途上国と先進国が排出量大国の上位を占 める。中国が首位になった主な理由は、(1)CO2の排出量が比較的多い石炭 に依存するエネルギーミックス、(2)盛んな工業生産――にある。去年、中 国が燃料需要の7割を石炭で賄ったのに対して、米国は25%に過ぎなかった。 一方、排出量が少ない天然ガスは米国エネルギー消費の26%を占めたが、中 国では4%弱にとどまった。工業でCO2の排出量が最も大きいのはセメント・ クリンカー生産。化石燃料消費と工業によるCO2排出の約5%を占めている。 盛んな固定資産投資を背景に、去年の世界全体のセメント生産は、約半分が 中国に集中しており、2位インドの6%弱を大きく上回っていた。

しかし、中国は人口大国、経済大国でもある。1人あたりでは、中国は年5.1 トンのCO2と、米国の19.4トン、EU-15の8.6トンを大きく下回っている。国際 エネルギー機関の2006年の統計によれば、購買力を考慮した国内総生産(GD P)に対するCO2排出量は、中国は2000米ドルあたり0.65キログラム(kg)、 米国は0.51kg、日本は0.34kg、EU-27は0.33kgと、先進国より効率が劣ってい るが、ロシアの1.08kgよりはマシだった。

◆CDM事業による認証排出削減量も世界トップ

排出量だけではなく、排出権の提供国としても、中国は1位。京都議定書の 下で削減目標・排出量の上限を設定された国は、自国での削減が効率的でな い場合、他国での排出量削減事業に参加し、一定の条件を満たせば、その事 業によって節約できた排出量に比例する排出権を獲得できる。中国でのCDM事 業はスタートが遅かったものの、全世界のCDM理事会に登録されたプロジェク トの年平均認証排出削減量(CER)の6割弱は中国が占めている。

CERを獲得するために、購入者(先進国側)と提供者(発展途上国側)はと もに実施計画とプロジェクト設計書を作成し、それぞれの指定国家機関(中 国の場合:国家発展改革委員会)の承認を受ける。指定運営組織による有効 化審査を経て、プロジェクトがCDM理事会に登録される。今年7月中旬現在、 中国で実施されるプロジェクトのうち、年平均1.8億トンに上るCO2のCERが登 録された。国家発展改革委員会に承認されたプロジェクト全体を見れば、そ の数字は3億8000万トンと倍以上に拡大し、日本の年間CO2排出量の約3割に相 当する。

◆中国CDMシステムの特徴

中国では、排出削減量資源が国家に帰属するが、特定事業により作られた 削減量は事業主のものであり、CER取引で得られた収益は事業主と政府が分け 合う。具体的な分配は、プロジェクトの種類によって異なっている。地球温 暖化係数がCO2の数百倍~数千倍のハイドロフルオロカーボン(HFC)、パー フルオロカーボン(PFC)の削減に取り組む事業では、国の取り分は65%に上 る。亜酸化窒素削減プロジェクトでは、30%が国に取られるが、優先順位の 高い分野でのプロジェクトと植林活動ならば、2%しか取られない。エネルギ ー利用の効率化、新エネルギー開発・利用、メタンガスの回収・利用などが 優先順位の高い分野として設定されている。

この差別的扱いの理由は、誘引を成長戦略と合致させることである。HFCや PFCプロジェクトは、CER収穫率が高いので、課税率を高く設定しても真っ先 に実施される。技術移転の潜在的メリットも有限的なため、国の取り分で得 た資金を国内CDMの仕組みの向上に充て、優先順位の高い分野での成長を助成 することが目的である。

中国CDMシステムの特徴の一つとして、価格設定への関与が挙げられる。収益 の一部が国に帰属することもあり、申請段階で価格設定が合理的範囲外(安 すぎる)と判断した場合、国家発展改革委員会はその改善を指導する。その 指導は、市場メカニズムへの関与と批判されたが、事業を行うパートナーを みると、中国側は海外相手より総じて小さく、価格交渉力や経験・情報面で 劣っていることもあり、その不均衡は公平な価格形成を妨げている。指導に よりこの問題は緩和されている。

今年7月までにCDM理事会に登録されたプロジェクトをみると、これらによ り発行されたCERの82%はHFCプロジェクトからのものだった。プロジェクト 数で見れば、2%にも達していないが、プロジェクトごとのCER発行額が高く、 投資回収も速いから、CDM制度の導入直後に行われたプロジェクトが多く、C ERの累計発行量も多い。一方、水力発電はプロジェクト数が最も多く、プロ ジェクト総数の47%に上るが、発行済みCERは2%にとどまる。

しかし、水力発電の個別事業が小さいうえ、発足して間もない事業も多いこ とを鑑みると、2012年までに見込まれるCER発行量をみた方が、分野別貢献度 をより正確に把握できると思われる。2012年までに見込まれるCER発行量では、 HFC事業が1位で発行総量の41%、水力発電は2位で14%を占める。亜酸化窒素 (11%)、風力発電、余熱発電等によるエネルギー利用の効率化、化石燃料 転換(それぞれ8%)、炭鉱メタンガス(7%)と続いている。申請中のプロ ジェクトを含めば、CER発行量は倍近く増える。HCF事業は24%でまだトップ を占めているが、水力発電(22%)、風力発電、余熱発電等によるエネルギ ー利用の効率化(12%ずつ)などと、他の事業の割合が大きくなる。

◆コペンハーゲン締約国会議後、中国の役割

上に描かれたプロジェクトミックスを見れば、中国政府が設定した優先順 位と必ずしも一致するとは言えない。HFC、亜酸化窒素など、比較的簡単に大 量のCERが得られるプロジェクトのシェアが高い。しかし、状況は徐々に変わ りつつある。新エネルギー、特に水力発電と風力発電プロジェクトの増加が 目立っている。両分野での事業数を合わせれば、合計の3分の2を占めている。 このほか、余熱発電等・効率化事業、化石燃料転換などのシェアも徐々に伸 びている。潜在的プロジェクト数を考えると、石炭に偏っているエネルギー ミックスや比較的低い効率を背景に、このようなプロジェクトからの貢献は さらに期待できると思われる。一方、比較的高い太陽光発電・太陽熱利用プ ロジェクトと植林事業は、現在のところごくわずかなシェアしかない。

中国政府の政策も、CDMと協調して、環境保護を促している。効率的エネル ギー利用基準(セメント工場は最初の対象となっている)、北部住宅暖房エ ネルギーの節約に関する基準、再生可能エネルギー法などが挙げられる。再 生可能エネルギー法に基づき、大手発電企業は発電量の3%以上が再生可能エ ネルギー(水力発電を除く)によらなければならない。多くの場合、政府が 電力の卸売価格を設定し、従来型発電を上回る分も、消費者が負担する。他 の促進策もあり、特に風力発電の開発が速い。2008年までの4年間、いずれの 年にも新設風力発電容量を倍以上増やし、総発電能力は初めて1000万キロワ ットを突破した。2010年にも、中国は世界2位の風力発電大国となり、2020年 をめどに設定した目標を10年早く達成する見込みである。新設の風力発電設 備は7割以上を国内から調達しなければならないこともあわせて考えると、環 境保護だけではなく、工業促進の効果も期待できると思われる。

欧州のCER取引や米国の二酸化硫黄取引などをモデルとして、国内でも排出 権取引による汚染削減に取り組んでいる。これにより、2008年の化学的酸素 要求量と二酸化硫黄排出量は2005年に比べてそれぞれ6.61%、8.95%減って おり、2010年までの10%削減目標を達成する可能性も高まった。このような 積極的な政策と経済成長の需要を鑑みると、環境保護、特にエネルギー利用 の効率化と新エネルギー開発はこれからも国策と一致すると思われる。今年 12月にコペンハーゲンで開かれる気候変動枠組条約の締約国会議では、国際 的分担が焦点となっても、自国の利益と一致しているので、中国はこれから も環境保護、特にエネルギー関連での技術開発・移転、投資などを促進し、 温暖化対策に貢献すると思われる。

(中国部ヤン・ヘフティ)

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