中国見聞録

中国を読み解く

2009.12.01

◆中国との関わり

 私と中国との関わりは、1992年9月に上海の復旦大学に入学してから、現在まで約17年間になる。この1992年に、トウ小平が武漢、深センや上海など南部地方の都市を視察し、「南巡講話」を行った。そこでトウ小平は再三にわたり、「発展才是硬道理」、すなわち発展こそ揺るぎない道筋だと強調した。これは、後の中国経済の急成長につながる談話だった。私が中国へ渡った時、上海はまさに著しく発展し始めた時期だった。

◆中国との対話

 復旦大学を卒業後、日本の大学院の修士・博士課程に進学し、8年間を中国の歴史や政治などの研究に費やした。その後、就職したことで中国をさらに実際の経済的視点から眺めるようになった。中国の大学を卒業してから約10年経つが、たまたま先日、母校を訪れる機会があり、その様変わりしたキャンパスに驚きを覚えた。当時、中国の大学に留学する日本人は現在ほど多くなかった。実際、私が所属した歴史系(歴史学部)の外国人留学生は皆無に近かった。ここ10年で中国の大学は大きな変貌を遂げていた。中国の大学卒業生は年々増加し、また外国人留学生の数も飛躍的に増えた。中国の教育部によると、2008年の外国人留学生数は22万3499人に上った(2000年は5万2150人)。こうした中国の大学をとりまく変化には、さまざまな要因があろう。その中でも、「産学連携」の推進によって、中国では大学が単に教育・研究だけを行う場所でなくなったことも、中国の大学の変貌に少なからず貢献していると考える。

◆大学による研究成果の企業化

 改革開放以降、中国は科学技術の発展・向上に力を入れた。しかし、1980~90年代の国有企業の研究開発力は低い状態にあった。また、計画経済体制の影響で、大学と企業とのつながりも薄かった。その結果、大学などの研究成果の産業化率が低くとどまる一方、技術力の乏しい企業では大学技術を生かした製品開発がなかなか進まなかった。こうした状況により、大学は企業を設立し、技術成果を産業化することになった。つまり、国家目標の実現のため、中国の大学は教育や研究を行うだけでなく、「校弁企業」と呼ばれる大学発ベンチャーも数多く生み出してきた。しかし、こうした時代的背景だけがその要因でない。中国では伝統的な「学以致用」という考えがある。

◆伝統的学術思想も後押し

 「学以致用」とは、「実際に応用するために学べ」という意味である。中国人にとって、科学技術の究極の目的とは、真理の追究もさることながら、実際問題の解決・実現にあろう。マックス・ウエーバー的見地から言えば「目的合理的行為」に近い考えと思う。毛沢東の「持久戦論」や、トウ小平の「中国の特色ある社会主義」も、中国のおかれた現実を見据えるところから生まれた発想といえよう。こうした「実践主義」「実益優先」の考えは、中国で広く見られる傾向だ。このような伝統的な考え方も、中国の大学発ベンチャーの発展を後押ししたと考えられる。そして、大学による企業化、「産学連携」という点において、中国は日本よりも先行している。

◆産学連携としての「校弁企業」

 愛知淑徳大学の西崎賢治・准教授によると、「校弁企業」を育成するメリットは、第一に、企業の成長が大学の研究費不足の解決に貢献すること、第二に、ハイテク産業の発展に貢献することである。この双方の目的は、「校弁企業」全体で利益を計上していることで貢献したといえよう。特に、1990年代後半から2000年代初めには、顕著な実績を残してきた。「校弁企業」とは、その経営がなんらかのかたちで大学の管理下におかれている企業である。「校弁企業」は、産業の育成や大学の資金不足の解消を目的として設立され、ピーク時には6000社を超えた。その中から、ハイテク企業の方正科技集団股フン有限公司(北京大学系、600601)など有力企業も輩出している。方正科技集団の直近3年の業績を見ても、世界的な景気後退により、2008年12月本決算こそ減収減益だったが、それ以前の売上高は拡大傾向にあり、純利益も大幅な赤字を計上することはなく、総じて黒字であった。なお、弊社の取扱銘柄の校弁企業では、香港市場に上場している方正数碼(北京大学系、00618)や上海復旦微電子(復旦大学系、08102)などがある。

◆おわりに

 中国の「校弁企業」は、大学の資金調達手段や研究成果の企業化という点において、一定の成果をおさめた。北京大学が設立したハイテク企業の方正科技集団など著名企業が誕生したことも、その評価を確実なものとしたといえよう。また、「校弁企業」は「中国の科学技術やハイテク産業の発展」という政府主導の戦略に歩調を合わせて成長してきた。その背景には、中国の学術思想に実用性を重視する伝統的な考えがあると思う。温故知新(ふるきをたずねて新しきを知る)。中国と対話する場合、中国の伝統的背景を捨象しては行い難いと、私は考える。

 なお、「校弁企業」に関しては、西崎准教授が以下の論文で詳細に分析されている。「中国校弁企業考察―日本の大学発ベンチャーとの比較から―」『中国経営管理学会』第8号、2009年5月など。日本の研究機関における中国に関する研究は、非常に活発だ。しかし、そこでの研究成果は、あまり生かされていない。本稿では、西崎准教授の承諾を得て、その研究成果を利用させていただいた。

(中国部 佐藤一樹)

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