中国見聞録

中国を読み解く

2010.02.24
第2回「中国人の海外旅行事情」

 昨年(2009年)に私は休暇を利用し、観光で香港・マカオと台湾へ行った。そのときに、非常に多くの中国本土からの旅行者を見かけた。私が初めて香港に行ったのは1994年。返還前(1997年以前)の香港に、本土からの旅行者はほぼ皆無で、普通語(中国の標準語)もあまり通じなかった。マカオは今回はじめて行ったが、カジノは言うに及ばず、教会やお寺見物をしているときも、北京語や上海語などが飛び交っていた。台湾でも、ホテルのみやげ物売り場などで、本土からの旅行者を少なからず見かけた。

 そこで今回は、これら地域での中国本土からの旅行者数の推移を示すとともに、それが政治・経済的にどのような影響を与えているのか、という点を簡単に紹介したいと思う。

■「出境旅游熱」(海外旅行ブーム)の背景

 中国人の海外旅行者数が伸びているのは、中国政府が国内旅行と海外旅行を奨励する政策を推進していることが理由に挙げられる。その目的は、消費の拡大や観光産業の発展によって、本土で50万人の新規雇用を創出する、という点にあろう。

 そして、こうした政策は、改革・開放政策の進展によって「経済的にゆとり」がある人々が増加し、余暇の過ごし方や娯楽の多様化を希求していることともマッチしている。このように、双方のニーズが一致していることが「出境旅游熱」(海外旅行ブーム)を後押ししていると考えられる。

 なお、2009年の本土旅行業界の規模は、総収入が1兆2900億元(前年比11.3%増)、国内旅行者数が19億200万人(同11.1%増)、国内旅行収入が1兆200億元(同16.4%増)、訪中旅行者数が1億2600万人(同2.7%減)、外貨収入が397億米ドル(同2.9%減)。

■データから見る旅行者数の推移

○中国本土―増加する本土の海外旅行者―

 「2010年旅游工作会議」での国家旅游局局長談話によると、2009年通年で中国人の海外旅行者数は前年比4.0%増の4766万人、2008年は同11.9%増の4584万人。このように、中国人の海外旅行者数は年々増加している。「2008年中国旅游業統計公報」によると、2008年の海外渡航先の上位は、1位が香港で前年比8.8%増の1756万人、2位がマカオで同21.6%増の1552万人。香港・マカオだけで海外旅行者数の約7割を占めている。

○香港―約6割は本土からの旅行者―

 香港を訪れる本土の旅行者はここ数年増加傾向である。香港旅遊発展局によると、2009年通年で香港を訪れた旅行者は前年比0.3%増の約3000万人。そのうち、本土からの旅行者は前年比6.5%増の1769万人と、約6割を占めている。2008年が前年比8.8%増の1660万人、2007年が同13.9%増の1549万人。

○マカオ―渡航証の発給制限によりやや減少―

 2008年5月以降、マカオに隣接する広東省政府は同省住民のマカオへの渡航証の発給を制限した。これにより、2009年にマカオを訪問した本土からの旅行者は前年に比べやや減少。マカオ政府によると、2009年通年でマカオを訪れた旅行者は前年比5.1%減の2175万人。そのうち、本土からは同5.4%減の1098万人。

○台湾―両岸関係の改善で旅行者が急増―

 馬英九政権の発足後(2008年)、胡錦涛・国家主席は経済協力など6項目を提案し、台湾への旅行者を増加させる政策も打ち出した。一方、馬政権も本土からの旅行者受け入れに対し、積極的な姿勢を見せている。

 こうした両岸関係の改善を背景に、台湾では中国本土からの旅行者が急増している。2009年に台湾を訪れた旅行者は約439万人。そのうち、最も多いのは日本人の約100万人。中国大陸からは97万人と日本人よりやや少ないものの、前年比では約60%増と急増している。両岸関係の改善が進めば、今後も本土からの旅行者が増加すると、交通部観光局は予測している。

■本土旅行者の影響と関連セクター

○香港―小売セクターに好影響―

 中国人旅行者の海外での購買力が抜きん出ていることは有名で、これまでさまざまなレポートや報道などで指摘されている。香港での中国人旅行者の1人あたりの平均消費額(2008年)は約5000HKドル(約6万6000円)。「2008年に本土旅行者の香港での消費総額は約88億米ドル(約9000億円)に達するとともに、香港の小売、飲食やホテル業などの発展にも大きく貢献している」と、中国商務及経済発展局のトップは語っている。2009年も「本土からの旅行者の増加が、香港の小売業の発展に貢献している」と香港政府関係者は指摘している。

 弊社取扱いの香港に拠点を置く小売銘柄では、以下の企業がある。香港に拠点を置く有名ブランド化粧品の卸小売業者の莎莎国際(00178)。宝飾品(ジュエリー)の小売店経営を中核とする香港地場系の周生生(00116)。本土や香港で「新世界百貨」や「巴黎春天百貨」(プランタン)などの百貨店事業を展開している新世界百貨中国(00825)など。

○マカオ―カジノ収入は堅調―

 香港以上に、本土からの旅行者の影響を受けるのは、マカオであろう。それは、マカオのカジノ客の8割前後が本土から来るといわれているからである。したがって、渡航制限緩和に関する情報は注目される。2009年8月末に、9月1日から広東省住民のマカオへの渡航申請の可能回数が「1カ月に1回」へ緩和されるとの観測が流れた。

 だが、10月に「現在も2カ月に1回」という方針を堅持していると、関係者が発言した。渡航制限は緩和されず、本土からの旅行者も2009年はやや減少した。しかし、2009年のマカオのカジノ総収入は、前年比10%増の1190億パタカ(約1兆4000億円)と伸びている。

 また、2010年1月のマカオのカジノ収入は140億パタカ(約1600億円)と、単月の過去最高を更新した。こうした点からも、現在の渡航制限がマカオのカジノ事業へ与えるダメージは限定的だと思われる。

 なお、2009年のカジノの市場占有率は、マカオのカジノ最大手でスタンレー・ホー氏が支配する澳門博彩控股(00880)が約30%を占めている。そのほか、カジノと「フォーシーズンズホテル」(四季酒店)を備えた総合リゾート「プラザ・マカオ」(澳門百利沙)を展開する米国系企業の金沙中国(01928)が約23%。米国系企業の永利澳門(01128)が約15%。同社が経営するカジノホテル「永利澳門」(ウィン・マカオ)は「モービル・トラベル・ガイド」で5つ星に評価されたこともあり、24時間営業のカジノ、高級小売店、レクリエーション施設などを備えている。

○台湾―新たな人気旅行先に―

 2008年7月に本土からの台湾旅行が正式に解禁されて以降、台湾は人気の旅行先の一つとなった。2009年8月末から、両地域間の直航便は定期便化され、1週間の就航便数はチャーター便が主流だったころの108便から270便に増えている。中国東方航空(00670)も2009年8月末から台湾への定期直航便をスタートさせた。また、中国南方航空(01055)も台湾支社を設立し、本土と台湾を結ぶ空のサービスを強化している。

 台湾の交通部観光局によると、本土旅行者の1人あたりの消費額は1日約250米ドル(約2万3000円)で、2009年の本土旅行者の消費総額は360億NTドル(約1020億円)。ただ、香港を訪れる本土旅行者の消費総額に比べれば、まだ1割程度の規模でしかない。

 一方で、本土からの台湾旅行は解禁されてまだ2年も経っていないので、今後も本土からの旅行者は増加して行くと思われる。それは両岸関係の政治的安定を前提としている点がリスク要因になるといえよう。  

■今後の展望

 旅行先によっては所得証明の提出が必要な中国本土で、旅行者の中心を担っているのは購買力のある富裕層や中間所得層と呼ばれる人たちである。この人々の旅先での消費額は少なくなく、地場の小売業や観光産業の発展に少なからず貢献している。

 一方、ここで挙げた地域は、中国政府の重要な政治的課題である「一国両制」(一国二制度)の実現に関係するところである。そうした意味で、本土との間で人的往来を増加させることは、政治的な意味合いも含まれる。民間レベルでの交流を拡大させ、同地域の観光産業などにプラスの経済的波及効果をもたらすことは、「一国二制度」を円滑に推進・実現させる上で重要なファクターになろう。

 こうした点から、中国政府がこれら地域への旅行者を増やすために、今後もさまざまな支援策を計画し、実施する可能性は高いと考えられる。

(中国部 佐藤一樹)

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