中国株 業界レポート

銀行業界 ~旺盛な資金需要と引き締めとの狭間に~

2011年6月24日

市場動向 ~貸出増とともに業績も拡大、ただリスク要因も残る~

10年の業界規模:

総資産:94.3兆元(前年比19.7%増)、貸出残高:50.9兆元(同19.6%増)、自己資本比率:12.2%(同0.8ポイント増)

中国の銀行業界は10年も引き続き規模を拡大させた。堅調な景気動向を背景に、官民の資金需要は依然として強く、貸出残高は通年で8.4兆元増加。銀行は一定水準の利ザヤが保証されていることから、税引き後利益も前年比34.5%増の8991億元に膨らんだ。一方で、金融危機の教訓から国際的に銀行への規制が強化。十分な自己資本比率が求められ、各行は大規模な資金調達に迫られた。これにより全体で12.2%の水準を確保。特に中国農業銀行(01288)による大型IPOが注目された。好業績を記録した銀行業界だが、リスク要因も多い。特に過剰気味の資金流動性はインフレ、不動産バブルを助長する。このため、当局は利上げ、預金準備率引き上げ、貸出規制などの金融引き締め策を総動員しているが、効果は不十分との指摘も。活発な資金需要を背景に業界全体では堅調な業績が続くと思われるが、リスク要因にも十分な注意が必要となろう。

業界の特徴 ~規制色の強いセクター~

主力事業面:

銀行は経済の中核を占める重要セクター。市場のメインプレイヤーは四大国有商業銀行。資金調達面では中国の貯蓄率は高く、大量の預金を集めることができるほか、インターバンク市場からも調達している。運用面では、国有企業向けの貸出比率が高い。個人向けではマンションブームを追い風に住宅ローンが拡大傾向。好景気の局面では無尽蔵な貸出に走る傾向が強く、特に不動産や地方政府向け融資などで不良債権化のリスクもある。金利は規制されており、銀行は常に一定の利ザヤが保証されている。

国際面:

世界の大手銀行はほとんどが進出済み。人民元業務の開放にともない、外資の進出は拡大しているものの、多くは沿海部に限られており、中国全体での市場シェアは小さい。一方、地場系の大手銀行も有力外資を戦略投資家として受け入れ、先進的な金融ノウハウの吸収に努めているほか、積極的に海外支店の設立、買収なども仕掛けている。

政策面:

規制色が非常に強い業界。預金、貸出ともに基準金利が設定されているほか、日本と同様に準備預金制度があるが、準備預金に金利がつく点が異なる。中央銀行にとって、基準金利の上げ下げ(利上げ・利下げ)、比率(預金準備率)の調整は金融政策の主要ツールで銀行の業績、株価に大きな影響を与える。このほか直接的な貸出抑制の指示など、行政指導という手段も多い。健全性確保のために、銀行の規模ごとに自己資本比率の下限を設定するなど、当局の監視の目は厳しい。

主要企業、主な取扱銘柄 ~四大国有銀行などの大手が中心、貸出増から増益決算に~

銀行業界は国内で規制金利であるために、貸出増が直接増益に繋がる。10年は多くの銀行が2ケタ増益を達成した。資産規模でみると、四大国有銀行が上位を占める。最大手は中国工商銀行(01398)。これに中国建設銀行(00939)、中国銀行(03988)、中国農業銀行(01288)が続いている。交通銀行(03328)を加えた5行は規模の面で他行を引き離す存在。二番手には全国展開する株式制商業銀行が続いており、多くの銀行には政府系の資本が入っている。中信銀行(00998)、招商銀行(03968)、中国民生銀行(01988)などが代表的な銀行。

一方、香港では自由金利だが、堅調な景気動向や、人民元業務の拡大などを受け、多くの銀行が好業績を記録した。香港ドル発行の資格を持つ匯豊控股(00005)、中銀香港(02388)が大手。このうち、中銀香港だけが中国銀行の傘下にある中国資本で、残りはロンドンを本拠とする外資となっている。このほかでは、東亜銀行(00023)などの香港地場系が一定のシェアを持つ。

主な取扱い銘柄:
社名 コード
分類
売上高 増収率 純利益 増益率 時価総額
匯豊控股 00005 541,559 1.8 89,064 125.6 1,352,342
ハンセン 世界屈指の総合金融グループ。ロンドンに本部を置き、事業エリアは世界中に及ぶ。設立母体である傘下の香港上海匯豊銀行有限公司は香港ドルの発券銀行であり、恒生銀行(00011)を傘下に置く。中国事業にも積極的。大手銀行の交通銀行、興業銀行、大手保険会社の平安保険(02318)などの大株主となっている。
東亜銀行 00023 9,693 9.2 3,680 62.2 65,667
ハンセン 香港最大の地場銀行。香港、中華圏、米国、カナダ、英国などに拠点を設け、リテール・コーポレートバンキング、資産運用、投資銀行業務などを展開している。中国本土事業に積極的である点に注目。外銀としては初めて香港と中国本土の両方で人民元建債券を発行した実績を持つ。
中国建設銀行 00939 325,780 21.0 134,844 26.3 1,565,877
ハンセン 国内第2位の商業銀行。四大国有銀行の中では最初に上場した。住宅ローンやインフラ建設向け融資などで、大きなシェアを占める点が特徴。国内に広大な支店網を持つほか、香港、ニューヨーク、東京など海外の主要都市に拠点を置く。米銀大手のバンクオブアメリカを戦略投資家として迎えている。
中信銀行 00998 56,356 37.5 21,509 50.2 212,912
H株 全国展開している株式制商業銀行。国有系のコングロマリットである中国中信集団(CITIC)の傘下にある。大株主であるスペインの大手銀行との提携関係を強化。強みとする法人向け業務に加えて、アッパーミドルのリテール顧客の開拓にも注力している。経済発展が著しい東部沿海地区を中心にネットワークを広げている点が特徴。
中国農業銀行 01288 292,253 30.7 94,873 46.0 1,082,638
H株 四大国有銀行の一角を占め、農業関連の金融事業では高い競争力を持つ。成長市場である農村部(県・県級市)を中心に広大な拠点網を設けている点が強み。貸出余力も大きい。四大銀のなかでは最後の上場となったが、調達額は約200億米ドルと10年7月時点で世界最大のIPOとなった。
中国工商銀行 01398 380,748 23.1 165,156 28.4 1,879,622
ハンセン 四大国有銀行の一角を占める、国内最大の商業銀行。金融機関で世界トップクラスの時価総額を誇り、国内に広大な支店網・顧客基盤を持つ。海外でも欧米やアジア各地などに進出。幅広い金融サービスを提供するほか、クレジットカードの発行数でも高いシェアを持つ。ゴールドマン・サックスなどが戦略投資家として出資している。
中国民生銀行 01988 45,873 42.3 17,581 45.2 189,512
H株 民営企業が中心となって設立した株式制商業銀行。北京市に本店を置き、全国規模で事業を展開。主力は国内企業向けのコーポレートバンキング。リテールバンキングではアッパーミドル層からの預金受入などに積極的。このほかファイナンスリース会社や投資信託会社などを傘下に持つ。
渣打集団 02888 108,712 5.8 29,320 28.2 455,956
香港その他 ロンドンに本拠を置き、グローバルに事業を展開する金融グループ。世界70以上の国・地域で個人・法人向け銀行業務を展開しており、特にアジア太平洋、中東、アフリカなどの新興市場で強みを持つ。収益の中心はアジア地域で、単一では香港が最大の市場。香港ドル発券銀行3行の一角を占めるなど、高い知名度を誇る。
交通銀行 03328 84,995 27.5 39,042 29.6 389,797
ハンセン 上海市を本拠に全国規模で事業展開する株式制商業銀行。国内第5位の資産規模を持つ。財政部が筆頭株主となっているが、世界的金融グループの匯豊控股(00005)を戦略投資家として迎え入れており、両社は積極的に提携している。総合的な金融グループであり、ニューヨーク、東京など海外の主要都市に進出している。
重慶農村商業銀行 03618 7,745 36.4 3,064 62.3 40,827
H株 重慶市政府系の地方銀行。主に重慶市の県・自治県などで銀行業務を手がけており、資産・預金額は同市内で最大級の規模を誇る。重慶市全体の成長から恩恵を受けられる銘柄。重慶市の農村信用合作社を前身としており、農業関連の金融事業に強みを持つ。
招商銀行 03968 71,692 38.3 25,769 41.3 350,352
H株 広東省を本拠に全国規模で事業展開する大手の株式制商業銀行。珠江デルタ、長江デルタ、環渤海地区など、経済水準の高い地域を中心に事業展開している。富裕層向けのプライベートバンキング業務の拡大に積極的。海外では香港に支店を構えているほか、ニューヨークなどに進出している。国有系コングロマリットの招商局集団が大株主。
中国銀行 03988 276,518 18.9 104,418 29.2 1,059,171
ハンセン 四大国有銀行の一角を占める。国際業務、外為業務では四大銀のなかでも最も競争力がある。香港では香港ドル発券銀行でもある中銀香港(02388)を傘下に置き、人民元業務を積極的に展開。国際業務の進出都市数、事業規模などは国内トップクラス。このため、金融市場、人民元の一層の国際化という流れのなかで、事業拡大、成長余地が大きい。

売上高・純利益はすべて10年12月本決算。単位は百万元。換算レートは1米ドル=6.768元、1香港ドル=0.871元

時価総額は11年6月23日の終値に基づきブルームバーグから算出、単位は百万香港ドル。換算レートは1米ドル=7.778香港ドル

銀行(業種別一覧)

注目されるトピックス ~不良債権リスク、金融引き締めには要注意~

不良債権リスクを抱えるなか、財務基盤の拡充が必須:

中国の不良債権はここ数年、安定した水準を維持。銀行が昨年増資に迫られたのも、多くは新BIS規制の基準を満たすためだった。だが、今後は不良債権のリスクが高まり、債権処理を行うために資本を強化する動きが増えてこよう。特に地方政府、デベロッパー向けの融資に対する懸念が強まっている。債権の焦げ付きリスクは想定に入れておくべきだろう。

貸出残高増加額、マネーサプライの目標値:

政府は11年のマネーサプライM2の伸び率目標値を16%前後に設定。貸出残高増加額については不明だが、貸出抑制のスタンスであるだけに、昨年の目標値7.5兆元よりは少ないだろう。これらの数値は当局の金融引き締め姿勢を反映。達成状況を横目にみながら、売りオペによる資金吸収、準備率引き上げといった金融政策、あるいは直接的な窓口指導などを駆使していくものと考えられる。

マイナス金利の克服に向け、利上げは不可欠か:

中国のインフレは大きな社会問題となっている。一方、景気への目配りから利上げが容易でないために、マイナス金利の拡大・常態化が目立つ。マイナス金利はインフレを助長する恐れがあるだけに、当局は利上げを巡って難しい判断を迫られている。

銀行(業種別一覧)

金融機関の貸出残高増加額とマネーサプライM2
消費者物価指数と金融政策

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