中国株 業界レポート

医薬関連業界 ~医療制度改革と新GMPの影響に注視~

2012年6月19日

市場動向 ~医療制度改革の追い風と規制強化の逆風が吹く~

11年の業界規模:

医療支出総額:2兆2496億元(前年比13%増)、処方薬の市場規模:5379億元(同19%増)、医薬企業の売上高:1兆4522億元(同29%増)

世界最大の人口を抱える中国は、医薬関連業界の市場規模が大きい上に、30年以上にわたり一貫してGDPを大幅に上回る成長率を維持している。医療制度改革の進展が更に進み、市民がより医療にアクセスしやすくなると、11年の医療支出総額は2兆元に迫る水準まで拡大。伸び率も10ポイント近くアップした。これを受け、医薬品・機器・設備など関連業界の業績も引き続き高い伸び率を維持。主力の製薬は前年比29%増収、24%増益と好調だった。一方で政府の医療費抑制策で販売価格が低下。製造コストや新GMP(製造管理及び品質管理基準)対応に向けた設備投資の負担も加わり、全体では勝ち組・負け組の差がより大きくなった。

12年に入り、当局は医療関連の政策方針を矢継ぎ早に発表し、社会保障の整備を進めている。一方で企業に対して安全性の向上、業界構造の改善などを要求。4月に医薬品の安全性をめぐる不祥事が起こるなど、依然として問題を抱えているためだ。当局の要求を満たせる企業は、上場するような大手に限られるとみられる。製薬企業は1-3月期も増収増益を維持するなど、足元の経営環境も概ね良好であり、今年もこの傾向が続こう。

業界の特徴 ~ディフェンシブな内需型セクター、規制色も強い~

生産・販売面:

医薬関連は概ねディフェンシブの内需型セクター。原薬・製薬をはじめ、医薬品の卸・小売り、医療機器・設備の製造販売、関連サービスなど複数のサブセクターに分けられる。中心となる製薬は大きく西洋薬、漢方薬に分けられ、多くの企業が厳しい競争を繰り広げる。輸出品の大半は低付加価値品である原料薬にとどまっているほか、自主開発力に乏しいため製品は概ねジェネリック医薬品に限られる。医薬品は市販薬として卸・小売り業者を通じて消費者に届けられる。このほか、日本と同様に病院を通じて処方薬として販売されるが、日本のような医師・薬剤師の分業は進んでいない。

国際面:

中国の医薬品貿易の主力は漢方薬であり、輸出額の規模も大きい。ただ製剤能力は足りず、漢方製剤では貿易赤字となっている。有力外資は大半が進出しており、高付加価値市場では大きな市場シェアを握っている。

政策面:

人々の健康を担う重要産業であるだけに、政府の規制は厳しい。09年から始まった国家基本薬品制度に採用された医薬品は保険の対象になり、製薬会社にとって自社製品が選ばれることが重要となる。ただ、基本薬品は市場で流通する医薬品のすべてをカバーしているわけではなく、医療費高騰の一因にもなっている。

主要企業、主な取扱銘柄 ~集約度の低い業界だが、業績は拡大傾向~

政府系、民営を含め、国内外の多くの企業が激しい競争を繰り広げており、集約度は低い。医薬業界は11年に入り、当局の薬価引き下げ方針、規制強化、コスト増などの影響で、製薬・流通ともに収益環境が悪化。それでも市場規模そのものは引き続き拡大傾向にあり、多くの企業が増収を確保した。大手は地元政府系企業が中心。上海医薬(02607)は積極的な事業戦略を通じて11.12期に大幅な増収増益を達成したが、ライバルの広州薬業(00874)は製造コストが嵩み増益幅が小さかった。北京同仁堂科技(01666)は漢方薬老舗「北京同仁堂」傘下のブランド力を活かし、市販薬市場の拡大を追い風に大幅増益。このほか、半官半民の国薬控股(01099)が医薬流通の最大手として市場拡大の恩恵を享受し、二桁の増収増益を確保した。

一方、民営は買収を通じて拡大してきた新興企業が多い。医療機器の大手企業まで成長した山東威高集団医用高分子製品(01066)は外資との合弁を通じて製品の高付加価値化を推進。11.12期も好業績が続いた。このほか、四環医薬(00460)は心血管薬、瑞年国際(02010)はアミノ酸サプリメント、山東羅欣薬業(08058)は抗生物質をそれぞれ得意としており、いずれも利益を増やした。反面、神威薬業(02877)など収益環境の悪化に伴い業績を落とした企業も少なくない。

主な取扱い銘柄:
社名 コード
分類
売上高 増収率 純利益 増益率 時価総額
四環医薬004602,242116.2382457.8413,869
その他心血管薬や脳循環改善薬の分野で国内有数のシェアを誇る新興の民営企業。積極的な買収戦略で事業規模を拡大してきた。全国規模の販売網を通じ、各地の病院などに販売。直販と代理販売両方のメリットを併せ持つ販売体制を構築。直近では有力メーカーと手を組んで漢方薬事業に参入しており、その動向が注目される。
広州薬業008745,43921.262877.6416,873
H株華南地区で最大規模の総合医薬企業。大手として地場系では製品開発力、ブランド力ともに高いランクにあるほか、競争力のある漢方薬を主力としている点が強み。バイオ医薬など成長分野も展開している。販売ルートは華南地区で大規模な販売網を構築。漢方薬を利用した清涼飲料水「王老吉」は夏場に飲まれる。
山東威高集団医用高分子製品010663,18029.163,462333.2738,318
H株山東省を本拠とする民営の大手医療機器メーカー。主力ブランド「潔瑞」は医療機器としては初めて「中国馳名商標」に認定された。使い捨ての点滴・輸血器具、整形器などを製造して病院などに販売するほか、海外にも輸出している。外資との結びつきが強く、成長分野と位置づける人工透析器で、テルモや日機装と提携している。
国薬控股01099102,22447.651,56029.1143,488
H株医薬品の流通分野で国内トップのシェアを誇る半官半民企業。中央政府系の中国医薬集団が実質筆頭株主となっているほか、民営系コングロマリットの復星国際(00656)も大株主に名を連ねる。国薬一致薬業(200028)を傘下に置き、製薬事業も展開。業界大手として買収・再編の主役と目されている。
中国生物製薬011774,80141.51384▲18.3611,217
その他漢方医薬品、西洋医薬品の生産・販売を行う民営企業。主力製品は肝臓疾患薬、心臓・脳血管薬、抗がん剤、鎮痛剤など。合弁会社は厚生労働省の外国製造業者に対する医薬品GMP適合性調査をクリア。日本の製薬会社が開発・販売する無菌製剤の生産を受託し、日本に輸出することができる。
北京同仁堂科技016661,93622.6425428.646,774
H株北京市政府系の漢方薬メーカー。親会社の「北京同仁堂」は漢方薬の老舗で、ブランド力の高さが強み。天然素材を用いる漢方薬をベースとした顆粒剤、丸薬、錠剤、カプセル剤、保健食品などの製品に特化。健康・自然志向を背景に天然素材を用いる漢方薬へのニーズが高まっており、同社にとっては追い風だ。
瑞年国際020101,78931.8855156.602,023
その他各種サプリメントの製造販売を主力とする江蘇省の民営企業。健康志向の高まりを背景に同市場の成長性に注目が集まるなか、同社はアミノ酸サプリメントの分野で国内トップクラスのシェアを保持している。このほか、広東省などで夏季に好んで飲まれる漢方薬を利用した清涼飲料水などを生産販売している。
上海医薬0260754,89941.892,04240.2438,655
H株上海政府系の総合医薬品企業。医薬品・ヘルスケア製品などの製造販売を全国展開する。再編を経て事業を垂直統合型化し、製造販売から卸小売までを手がけている。所得水準の高い華東地区を地盤としている点が強み。製造する医薬品は処方薬が大部分。流通事業は全国規模の販売ネットワークを構築している。
神威薬業028771,984▲2.64755▲8.058,948
その他河北省を本拠とし、漢方薬の研究開発から生産販売までを手がける新興の民営企業。製品は「神威」、「五福」、「神苗」のブランド名で知られ、漢方の注射液、カプセル剤、顆粒剤などを処方薬を中心に販売している。同分野では国内トップクラスの規模。
山東羅欣薬業080581,62621.2042611.343,658
H株山東省を本拠とする民営の製薬会社。「フォーブス」中国版で「潜在力のある中国中小企業」に名を連ねるなど、その成長性は国内外から高く評価されている。製品は各種抗生物質、薬剤、腫瘍薬、解熱鎮痛剤など幅広い。

売上高・純利益はすべて11年12月本決算。単位は百万元。換算レートは1HKドル=0.8303元。

時価総額は11年6月19日の終値に基づきブルームバーグから算出、単位は百万HKドル。

医薬・医療機器(業種別一覧)

注目されるトピックス ~新GMPという“劇薬”で再編が一層加速か、医療制度改革にも注目~

GMPショックも加わり、業界再編は一層加速か:

中国政府は10年に新たなGMPを制定した。これは先進国並みの厳しい基準となっており、5年以内にクリアできない製薬会社は廃業に追い込まれることになる。加えて対応には巨額の設備投資が必要とされるため、競争力の弱い企業の淘汰は一層進もう。当局は新GMPをてこに業界再編を加速させる考え。今後5年以内に年商1000億元を超える大型医薬グループを数社育成するとしており、上場企業のような大手にとっては合併・買収のチャンスが増えるものと考えられる。

“看病難、看病貴”という構造的問題の緩和で新たなビジネスチャンスも:

中国は“看病難、看病貴”(診療機会の難しさ、医療費の高さ)という構造的な問題を抱える。政府は問題解決のために、①国民皆保険の実現、②薬価制度の改革、③基層診療体制の確立、④公衆衛生の促進、⑤公立病院改革――の5項目を柱とする医療制度改革を推進。元々、少子高齢化の進展で医療ニーズの増加も見込まれるほか、経済的事情で医療にアクセス困難であった市民の所得水準が底上げされれば、新規需要が創出、ビジネスチャンスも広がる。

政策リスク、安全性リスクには注意が必要

医薬関連業界は医薬品の承認、価格などが当局によって統制されており、政策変動による影響が非常に大きい。研究開発の支出が嵩むなか、政府は薬価引き下げのスタンスを採っており、経営体力の強弱が生き残りに直結する。さらにひとたび製品の安全性に疑問符がつけば、経営が立ち行かなくなる可能性もあり得る。12年4月に発生した「毒カプセル事件」など、安全性をめぐる不祥事は撲滅までには至っていない。(中国部 畦田)

医薬・医療機器(業種別一覧)

医療支出総費用の推移(億元)
一人あたりの平均年間医療支出(元)

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