マーケットレポート

マーケットの視点

◆「内閣不信任決議案」の茶番劇は憂鬱だったが菅首相の早期退陣で局面転換、日本企業は意外に堅調な見通しだ

・ 世界株市場は先週までほぼ1カ月、緩やかな“世界同時下落”基調を辿ってきた。主要株式市場の中では上海総合指数が年初来高値の4月18日「3057.33ポイント」から6月2日「2705.18ポイント」まで“11.5%下落”と下落率が大きかったが、他の主要株式市場はほぼ“5%前後”の下落となっている。欧米、新興国によって事情は異なるものの世界経済の下方修正懸念が株価下落の基本的な背景だ。とりわけ、米国に関しては先週発表された「5月のISM製造業景況感指数」、「5月の雇用統計」が予想を大きく下回る結果となったことでNYダウは下値を切り下げる展開となり、今週の7日にバーナンキFRB議長の講演があり、8日にはベージュブック(米地区連銀報告)の発表があり、その内容次第では1万2000ドルの攻防になりかねない。米国景気回復に黄色信号が出ているが、QE2(量的緩和策第2弾)は予定通り6月末で打ち切りになることが視野に入っていることがマーケットを不安視させている。かといって、原油市況など商品市場が騰勢一服状態にあるとは言え、高水準にあることには変わりなく、過度な金融緩和策の継続が必ずしもマーケットに対する一方的な押し上げ要因とはならない微妙な段階にある。従って、世界景気が再び確固たる拡大トレンドを歩むことが確認されるまでは、当面、神経質な展開が続くことになりそうだ。

・ 一方、国内に関しては、2日に行われた「内閣不信任決議案」採決の後の異様さが禍根を残しそうだ。民主党代議士会の直前までは民主党議員の造反が相当数出ることで内閣不信任決議案は可決される流れになっていたが、民主党代議士会がその流れを一変させ、結果的に賛成152、反対293、欠席・棄権33と圧倒的多数で否決され菅首相の続投が決まった。東日本大震災の復旧・復興が遅々として進んでいない中で総選挙をやっている場合ではないが、菅首相のリーダーシップのなさと初期段階からの混乱、対応のまずさが未だに続き閉塞感漂う中で、菅政権が倒れ政局となることによる現状打破への期待が高まっていたことも事実だ。政局転換は新しい風を巻き起こす大きなきっかけとなるはずだった。しかし、採決後に結局、菅首相は辞める意思がなく出来る限り続投するつもりになっていることが明らかになった。鳩山前首相は“ペテン師”呼ばわりしたが、代議士会での菅首相の演説を聞いた限り、言葉の端々に辞める意思がないことは明確に感じた。直後に国内外のマスコミが一斉に“退陣表明”と報じたように早期退陣は一旦、既定路線になったが、その夜の記者会見、次の日の参議院でのやり取りを聞いても狡猾ぶりは明白だ。政治の世界なので裏切りや欺きは付き物だろうが、党代表が自分の政党員の多くを欺くことは常識では考え難い。今回の茶番劇は日本の政治に対する世界的な評価を益々引き下げることになり、実質的な政治空白、混乱状態が続くことで大震災に対する復旧・復興対策が一層遅延することにもなり、他の重要法案の棚上げ状態も続き、日本の時間が止まった状態が暫くは継続することとなっただけに、菅首相の責任は重い。

・ この点、大震災の影響が最も大きい自動車生産が予想外に早いテンポで回復する見通しに転じていることが報じられ、「4月の鉱工業生産指数」の調査予測で5月が前月比8.0%増、6月が同7.7%増と国内生産の早期立ち直りを示す予測数値が発表されてもマーケットは懐疑的にみており反応が鈍い。現実に、災害からの立ち直りを確認することが出来るまでは『好転』を織り込むことは難しそうだ。しかし、当初想定よりもアップテンポに『好転』する可能性は高い。すなわち、逆に考えれば、マーケットが日本に対して疑心暗鬼になっているうちは大きな投資チャンスと言えそうだ。もちろん、前提は日本企業の強さである。先週、指摘した通り、未発表だった12.3期業績見通しが相次いで発表されることになるが、先週3日に発表されたシャープは下期急回復で『増収・二桁増益』と発表、液晶事業の戦略転換も明らかにした。このシャープのニュースへの反応も今一歩だったが、同様なニュースが重なれば、日本企業の意外な堅調ぶりが明らかになっていき、日本企業の『好転』がマーケットに織り込まれる展開となって行こう。また、今後発表される国内経済指標も、大震災の落ち込みからのリバウンドが期待されることになろう。(中島)

先週のマーケットの動き


各国マーケットの動き
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今週の主要スケジュール

今週のスケジュール
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◆内外経済指標より

先週発表 … 鉱工業生産指数は3月をボトムとし好転、5、6月予測では大幅増の見通し

 先週の国内では31日に「4月の労働力調査」、「4月の鉱工業生産」「4月の新設住宅着工戸数」、2日に「1~3月の法人企業統計調査(速報値)」が発表された。今回の法人企業統計調査では東日本大震災の影響で岩手、宮城、福島の3県から調査票を回収できなかったことから、例外的に2段階に分けて発表し、被災地3県を含めた結果は7月29日に発表する。

 31日に「4月の鉱工業生産」が発表され、結果は前月比1.0%増。市場予想の同2.8%増は下回ったものの、生産減少には歯止めがかかった。業種別には一般機械が同13%増で回復の牽引役となり、中でもボイラ・原動機は同51%増、半導体・フラットパネル製造装置は同30%増とそれぞれ前月の同33%減、同26%減から急回復した。しかし、注目の輸送機械工業は同1.5%減と2カ月連続の減少となった。輸送機械工業は自動車部品のみならず、半導体などの電子部品など多くの部品が必要であり、供給網が完全に復旧していないため、他業種への影響は大きいといえる。ただ、前月の同50%減からは大幅に減少率を縮小し、5、6月予想もそれぞれ同35.7%増、同36.7%増と二桁且つ同30%以上の増加を続ける見通しであり、夏場の計画停電に備えての在庫積み増しも考えられるが、国内全体の製造業の回復に対し非常に期待できる見通しだ。また、製造工業ベースの5、6月予想はそれぞれ同8.0%増、同7.7%増と大幅な回復の見込み、特に5月は過去最高の増加率となる予想だ。製造工業ベースの予測対象は主要195品目であり、過去の経験から結果を下回ることが多いが、主に大手メーカーが調査対象であり、全体的には回復方向に向かうという予想には変わりはない。


「鉱工業生産」~生産指数前月比伸び率の推移
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 一方、米国では31日に「5月のシカゴ購買部協会景気指数」、1日に「5月の製造業ISM指数」、3日に「5月の非製造業ISM指数」の一連の景況感関連の指標、消費者態度を示す「5月のCB消費者信頼感指数」が31日、そして3日に「5月の雇用統計」とその前哨戦として1日に民間調査会社ADPの雇用統計が発表された。5月から米国景気回復の鈍化が漂っていただけに、非常に注目を浴びる指標の発表が相次いだ1週間となったが、製造業ISM指数を初めADP雇用統計においても市場予想を大幅に下回る結果となり、悲観的な結果の連続であった。

 1日に製造業ISM指数が発表されたが、結果は53.5、前月比6.9ポイント下落となり、辛うじて景気判断の分かれ目水準である50以上は保ったものの、84年1月の同9.4ポイント下落以来の大幅な下落となった。内訳項目では受注、生産、雇用、入荷遅延、在庫の5項目全てが前月に対し下落した。しかし、リーマン・ショック後、08年12月の33.3をボトムとし、ドル安をバックボーンに急激に回復、11年2月には61.4と83年12月の69.9以来、約30年ぶりの高水準を記録しており、幾分かの反動は止むを得ないといえる。また、3月以降はわが国の大震災や原発事故、商品市況の高騰、新興国の金融引き締めが相次いだことも指数の押し下げ要因となった。確かに回復速度は鈍化しているが、依然として景気判断の分かれ目である50以上は維持しており回復過程であることから、今後の景気下落を懸念するには時期尚早であるといえる。


ISM製造業指数の推移
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 3日発表の雇用統計は完全失業率が9.1%で2カ月連続の悪化、非農業部門雇用者数は前月比5万4000人増と4月分の同23万2000人増に対して増加幅を大幅に縮小。1日発表のADP雇用統計では雇用者数が前月比3万8000人増と市場予想の同21万人増を下回ったことが影響し、3日の労働省発表の非農業部門雇用者数に関しても市場予想は同19万人増から同17万人増へと下方修正されたが、実際はさらにその予想を下回ることとなった。雇用者数変化の内訳では、サービス業が11年2月から前月比18万人増、同17万9000人増、同21万3000人増と20万人前後の増加と非農業部門雇用者数の回復の牽引役となっていたが、5月は同8万人増と増加ペースが一気に鈍化したことが全体の増加幅を縮小した主な要因である。その他の業種においても、建設業が同2000人増と相変わらずの低迷状態、製造業に関しては10年11月以降、毎月1万人以上の増加で推移し回復傾向へ向かっていたが、5月は同5000人減と7カ月ぶりの減少となった。平均週間労働時間は34.4時間と前月に対し横ばいとなったが、これはリーマン・ショック直後である08年10月と同程度の高水準であり、経営者側も雇用拡大に踏み切っていいはずだが、先行き不透明なこともあり、雇用には慎重な姿勢を示している。今後は雇用者数の増加傾向は続けていくと思われるが、月次で20万人程度の増加ペースを維持することは非常に困難と考えられる。


完全失業率、非農業部門雇用者数前月比増減幅の推移
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今週発表 … バーナンキ議長講演とベージュブックの地域別詳細に注目したい

 今週は国内で7日に「4月の景気動向指数(速報値)」、8日に「5月の景気ウォッチャー調査」、9日に「1~3月のGDP成長率(第二次速報)」と「5月の工作機械受注(速報値)」が発表される。海外では米国で9日に「4月の貿易収支」、10日に「5月の輸出入物価指数」、経済指標以外では7日にアトランタでバーナンキ議長の講演、8日には21~22日のFOMCの参考とする「地区連銀報告(ベージュブック)」が発表される。雇用回復速度の鈍化や住宅価格の下落にも歯止めが掛かっていない状況であるため、是非とも講演会ではバーナンキ議長の発言、ベージュブックでは地域別の景況感や住宅市場などに注目したいところだ。


(浅枝)



今週の主な決算発表予定


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