マーケットレポート

マーケットの視点

身動き取れない欧米の問題は厳しく世界経済は減速懸念強いが、日本は今後、政治、企業とも苦境打破の余地がありそう

・ 世界株市場は大波乱展開が続いている。主要国株式市場の8月に入ってから先週末19日まで及び過去2週間の下落率は各々、独DAX23.5%・12.1%、韓国総合18.2%・10.2%、仏CAC17.8%・8.0%、NASDAQ15.0%・7.5%、香港ハンセン13.5%・7.4%、英FTSE13.3%・3.9%、S&P500~13.1%・6.3%、日経平均株価11.3%・6.2%、印SENSEX11.3%・6.7%、NYダウ10.9%・5.5%、上海総合6.2%・3.5%と軒並み厳しい。特に、債務問題が金融シテム危機に発展しかねない欧州は全般に下落率の大きさが目立つが、個別にもユーロ安効果で輸出好調の波に乗っていたドイツが16日に発表した4~6月の実質GDP成長率が市場予想の0.4%増を下回る0.1%増となったこと、8月6日に勃発した若者の暴動騒ぎが大規模に広がったイギリスなど不穏な空気が漂っている。危機脱出に向けて16日にメルケル独首相とサルコジ仏大統領が会談、共同会見では「経済政府」設立など“理念”の表明に終始し期待された「ユーロ共同債」発行や欧州金融安定基金の規模拡大など短期的な処方箋を打ち出すことがなかったために肩透かしとなった。一方、米国では「債務上限引き上げ」後、S&Pの米国債格下げに対する反論噴出などで一時小康状態だったが18日に発表された「8月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数」がリーマン・ショック時の08年10月の37.5ポイント下落以来の下落幅33.9ポイント下落し“-30.7”と09年3月の-30.8以来の低水準に急落したこと、18日に米HPが世界トップシェアのパソコン事業を分離すると発表したこと、などが米国株市場を直撃した。19日のHP株は前日比20%もの下落となった。欧州は債務問題が重くのしかかる中で政策対応が難しくなっていること、米国も来年に大統領選を控えていながら上院/下院のねじれ構造の中で財政問題が立ちはだかり決定的な金融、財政政策を打ち出すことが困難な状況であり、この欧米の行き詰まりが世界経済の大幅減速を招くことをマーケットが強く意識し始めたことが世界株大波乱展開の原因となっている。

・ 米モルガン・スタンレー証券が17日に発表したレポートで経済成長率を引き下げている。世界全体を11年4.2%→3.9%、12年4.5%→3.8%、先進国を1.9%→1.5%、2.4%→1.5%、新興国も10年7.8%が11年6.4%に減速するとした。米国とユーロ圏を「危険なほど景気後退に近い」と称し12年にかけても低迷が長引くとした。米国長期金利の低下傾向が続きついに2%割れを記録、9日のFOMCで米FRBが13年半ばまで“超低金利政策”を続ける方針を決定、量的金融緩和策QE3実施の可能性もあることから円高が19日のNY市場で“75円95銭”と歴史的な段階に進んだこともあり、東日本大震災ショックから急速に立ち直る方向に向かい始めた日本経済への影響も大きいと懸念されている。世界的な経済収縮への警戒から投資資金は避難先として日本円(短期債)、スイスフラン、そして金に集中するという事態になっている。身動きの取れない状態に追い込まれつつある欧米の経済、政治面での信頼性の失墜は著しい。信頼性を回復するにはリーマン・ショック直後のような大胆な対応策の実行、あるいは予想外に経済指標が好転し続けることが必要だが、現時点ではそれを期待することは難しそうだ。今回の株式市場の急落は、結果的にリーマン・ショックの後遺症が財政問題への発展など依然として尾を引いており、欧米各国とも政治体制が脆弱化していることで予想外に事態は悪化していることを表していそうだ。

・ その中で首相交代を行おうとしている日本は“世界の非常識”となっている。本来は6月2日の内閣不信任案決議の時に菅首相がすんなりやめていれば新内閣の下で復興策は進み、税問題、FTA(自由貿易協定)、為替対策など日本企業の復活力を弾みに欧米ショックから逃れる道筋を付けることが可能だったかもしれない。原発問題、新エネ導入は重要だが、果たしてこの2カ月、菅首相が突っ張ったように喫緊の課題であったかどうか。災害から予想以上のスピードで立ち直る日本企業の回復を加速させることで日本経済を一層、しっかりした足取りに導くことの方が肝腎だったのではないだろうか。そういう意味では6月以降の3カ月間の日本は“政治空白”の中にいたことになる。しかし、遅ればせながら、“エース”登場とならないまでも日本の政治は変わる。特にこの3カ月間、民主党の問題点はしつこいほど指摘され続け、全てが明らかになったはずだ。民主党自身の閉塞を打開するための「仕切り直し」が日本経済を閉塞状態から脱出させる道標となることを期待したい。円高に対して日本企業はいよいよ本格的な海外シフトや海外調達拡大策、円高活用のM&Aを講じることでその影響を一段と緩和させることが出来よう。欧米に比べれば日本の方が改善に向けた策を打つ余地がありそうな気がするだけに、投資資金は日本企業にも向かってもよさそうだが。(中島)

先々週、先週のマーケットの動き


各国マーケットの動き
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今週の主要スケジュール

今週のスケジュール
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◆内外経済指標より

先々週、先週発表 … 景気ウォッチャー現状判断は4年4カ月ぶりの50超

 先々週、先週は国内、海外ともに重要な経済指標が相次いだ。国内では8日に「7月の景気ウォッチャー調査」、9日に「7月の工作機械受注(速報値)」、11日に「6月の機械受注統計」、15日に「4~6月のGDP成長率(第一次速報)」、18日に「7月の貿易統計」、海外では米国で10日に「7月の財政収支」、12日に「7月の小売売上高」、「8月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)」、15日に「8月のNY連銀製造業景気指数」、16日に「7月の鉱工業生産・設備稼働率」、「7月の住宅着工・許可権数」、18日に「7月の消費者物価指数」、「8月のフィラデルフィア連銀製造業景況指数」、「7月の中古住宅販売件数」、中国では9日に「7月の消費者物価指数」などの重要指標が発表された。世界経済は先進諸国の財政不安に翻弄されているが、現状では実体経済へ波及している様相は感じられない。国内の6月の機械受注について船舶・電力除く民需は前月比7.7%増で2カ月連続の増加、7~9月も前四半期比0.9%増で3四半期連続の増加となる見通し。米国でも鉱工業生産は日本のサプライチェーン回復につれて勢いを取り戻し前月比0.9%増で3カ月連続増加、設備稼働率も77.5%でリーマン・ショック以降で最大の稼働率となった。米国消費においても7月の自動車・部品除く小売売上高では前月比0.5%増で10年6月以来14カ月連続の増加となった。急激に落ち込んだNY地区やフィラデルフィア地区の景況感以外は8月分の指標は発表されていないが、今後の生産や消費動向が大きく減少するとは考えにくい。

 8日に発表された「7月の景気ウォッチャー調査」では現状判断DIが前月比で3.0ポイント上昇し52.6、07年3月の50.8以来4年4カ月ぶりに判断の分かれ目である50を上回り、06年4月の54.6以来の高水準となった。地域別では復興支援が後押しとなった東北地域が牽引役となり59.5、統計開始以来過去最高となった。コメントでは「さくらんぼの売行きが例年の半分にもならない状況に加え、当県を代表する牛肉にまで被害が及んでいる。放射性物質の風評被害の影響はあまりに大きすぎ、痛手となっている。」などの福島第一原子力発電所事故の風評被害で食品類の売上高が停滞しているといったマイナス面のコメントもあるが、被災地の物品を購入する支援や建設関連の復興特需による求人増加がマイナス面を充分にカバーし非常に力強く回復している。一方、先行き判断DIは48.5、前月比0.5ポイント下落で3カ月ぶりに下落した。分野別では「家計動向」が食品の放射能汚染問題や消費者の節約意識の高まり、アナログ放送終了による駆け込み需要の反動などから先行きを不安がるコメントが聞かれ前月比1.5ポイントの下落となった。しかし、自動車生産やそれに関連する業界の生産回復で「企業動向」や「雇用」は回復傾向を維持し、8月の世界同時株安が来月発表の結果に影響するであろうが、国内の力強い回復が急激に鈍化する可能性は考えにくい。


「景気ウォッチャー調査」~現状判断、先行き判断の推移
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 15日には「4~6月のGDP成長率」が発表されたが、結果は前期比0.3%減、年率換算では同1.3%減で3四半期連続の減少となり、震災後の生産縮小が影響したことから予想通りの結果となった。項目別ではやはり生産縮小と国内向け供給の優先から輸出が減少したことが大きく影響し、前期比4.9%減、寄与度では-0.8ポイントとなった。また、内需は前期比0.3%増となったが、主要項目である民間最終消費支出は1~3月分の同0.6%減から減少率が縮小し、同0.1%減と減少傾向が続いている。内需増加の要因は夏場の節電対策を考えて在庫の積み増したことであり、全体への寄与度は0.3ポイントと最大の押上げ要因となったことから判断すると内需には若干弱さが残るといえる。しかし、発表直前のコンセンサスではGDP成長率は同0.6%減、民間最終消費支出は同0.4%減、輸出は同6.3%減であり、これらの数字と比較すると予想以上の回復ぶりといえ、個人消費では自粛ムードも和らぎ、貿易収支においても5月の8573億円を底にして輸出が回復していることから、当面はこの回復傾向は続くであろう。


GDP前期比年率伸び率の推移
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 注目すべき貿易収支だが、18日に財務省より発表された「7月の貿易統計」では、貿易収支は724億円の黒字で2カ月連続の黒字となった。輸入では原子力発電の代替エネルギー源として鉱物性燃料が前年同月比25%増となったことから輸入額全体も同9.9%増となった。肝心の輸出額は同3.3%減と3月以来5カ月連続の減少、6月の同1.6%減から減少率を拡大した結果となったが、季節調整済みでは前月比0.8%増と3カ月連続の増加となり、輸出の回復、ならびに電力使用制限令が発動された7月においても生産は順調に回復していることが確認できた。主要品目の輸出では一般機械が前年同月比1.3%増で10年1月以来19カ月連続の増加、電機は同8.3%減だが6月の同8.7%減から減少率は縮小、自動車などの輸送用機器も同7.9%減で6月の同11%減から減少率を縮小させた。8月19日にはNY市場で一時75円95銭と3月以来の高値を更新するなど、現状の為替動向から今後の輸出競争力の低下が懸念材料だが、国内企業の現状への対応力を考えると輸出の回復が大きく揺らぐことはないだろう。

 一方の米国では15日に「8月のNY連銀製造業景気指数」、18日に「フィラデルフィア連銀製造業景況指数」が発表されたが、NY地区では前月比4.0ポイント下落の-7.7、フィラデルフィア地区では同33.9ポイント下落の-30.7と両地区とも深刻な結果となった。特にフィラデルフィア地区については市場予想の4を大きく下回り、リーマン・ショック後の09年3月の-30.8以来の低水準、下落幅は08年10月の同37.5ポイント下落以来の大きな下落幅となり、非常にショッキングな結果となった。ただ、米国の鉱工業生産については世界同時不況に陥る直前の2008年上期は前月比減少が続いていたが、今回は減少傾向に陥っておらず、両地区の景況感だけで今後の米国経済が二番底に突入すると判断できない。


フィラデルフィア連銀製造業景況指数、鉱工業生産前月比伸び率の推移
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今週発表 … 26日にワイオミング州ジャクソンホールでバーナンキFRB議長講演会

 今週の経済指標は、国内で26日に「7月の全国消費者物価指数」、海外では米国で23日に「7月の新築住宅販売件数」、24日に「7月の耐久財受注」、26日に「4~6月のGDP成長率(改定値)」が発表されるが、注目は26日にワイオミング州ジャクソンホールで行われるバーナンキFRB議長の講演会であろう。世界同時株安が続く中、量的緩和策「QE3」についての発言が注目されるが、先週発表された「7月の消費者物価指数」の食料・エネルギー除く消費者物価指数は前年同月比1.8%増で増加率は11年1月から一本調子で拡大しインフレにはこれまで以上に警戒する必要があることから「QE3」を打ち出すには非常に難しい状況だ。


米国消費者物価指数、食料・エネルギー除く消費者物価指数前年同月比伸び率の推移
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(浅枝)



主な決算発表予定

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